第三十九話
『お前らぁ! 体育祭は始まったばかりだぁ! これくらいでヘバってんじゃねぇぞぉおおおお!』
突如としてコート中央に躍り出た木場にざわつく生徒達。
『昼休み生徒会企画ぅ! 対決・木場の時間だゴラァ!』
木場のコールに合わせて軽快なBGMが会場に流れ始め、バラエティ番組のようなテンションで会場を盛り上げる。
『る、ルール説明を致します。各クラスから代表者一名がゲームに参加し、木場会長と勝負をしていただきます! 見事、木場会長に勝利すれば100ポイント獲得となり、順位レースを有利に進めることができます! もし負けてしまってもペナルティはありませんし、体力勝負だけではないので女子の皆さんもふるってご参加ください!』
開会式の荒れ様を考えたのか、進行役の女子生徒は木場に発言させまいと一息で言い切った。だが、
『ちなみに! 不公平にならないよう、俺は何の勝負をするのかは知らされていない! 得意分野と自負する者はこの完璧超人木場に挑めぇ! あーあ、もし誰も勝てなかったらいよいよ俺が最強ってことが証明されちまうなぁ。全校生徒719人でかかっても俺一人に敵わないってことだもんなぁ! えぇおい⁉』
怒号のようなレスポンス。進行役の女の子が声を震わせながらなんとか落ち着けようとするが、生徒達はもう木場にしか興味はない。
「本当に内容知らないんだろうな⁉」
「隠れて練習とかしてたんじゃねぇかぁ⁉」
「何か嘘くせぇぞ!」
3年生を中心にヤジが飛ぶが、木場は1ミリも気にしない様子でマイクを握りなおす。
「よし会場も温まったし、第一ゲームを発表せい!」
『あぁもう結局会長のペースで進む……。ん……ごほん! そ、それでは第一ゲームを発表いたします! 第一ゲームは…………』
会場の照明の一部が消灯され、薄暗い空間にドラムロールの音が響く。
少し溜めすぎとも思える時間が経過し、ジャーン! と決めの音が鳴ると会場が再び明るさを取り戻すと、
『アメフトボール・ストラックアウトです!』
進行の女子と木場の前に9マスのパネルが取り付けられた機材が姿を現した。
『通常、野球ボールで行われるストラックアウトですが、これをアメリカンフットボールの球で行います。おそらく多くの人が投げたことも触ったこともないと思います! 楕円形で投げづらい形状となっていますので普段からボールに触る機会の多い野球部でも有利というわけではありません! クラスの代表者が決定しましたらコートまでお越しください! 制限時間は3分です! よろしいですか? それでは…………よーい、スタート!』
怒涛の進行に会場が揺れ、1年A組も慌てて人選に移る。
「誰行くー? 自信ある奴いるー? 女子でも良いと思うけど」
「えーここは普通に男子の中から選べば良くね?」
「お、じゃあシバケン行っとく⁉」
「良いじゃん、シバケン君行きなよー」
「いや普通に無理、俺は球技だめだから」
「誰か器用で勝負強い奴―⁉」
「アキちゃんはー?」
「秋穂、まんざらでもない顔すんな。座ってろ」
「ひどい! ……じゃ、じゃあミッコは?」
「お、私か。ふっふっふ……隠された私の隠された力を見せる時が来てしまった様だな」
「ミッコは悪くねぇと思うけどな。見てみ? 的まで20メートル弱はありそうだ。ミッコ届くのか?」
「ぐ……」
喧々囂々。アメフトボールという一般高校生にとって未知過ぎる球のせいで決めかねてしまう。
そうこうしている間にも時間は過ぎていく。
「あと一分でーす!」とアナウンスがあり、コートには代表者が揃いつつあった。
そんな中、ツインテールの毛先をいじりながら紗季が決定的な一言を放った。
「投げるならやっぱ野球部が良いんじゃね? はせやん、あんたピッチャーじゃなかったっけ?」
むしろなぜ今の今まで誰も口にしなかったのか、当たり前の提案じゃね? という調子で紗季は子首を傾げた。
途端に青い顔をする野球部。
「あーそっか、長谷川ってピッチャーか。うん他にやれそうな奴もいねぇし、それで良いんじゃねぇか?」
「バッカ、シバケン! この前言ったやん! 長谷川はやらかしがちなの!」
「あ」
長谷川は中学最後の試合でヘマをして負けてしまったことがある。
端的に言えば、長谷川は勝負弱い男の代名詞的な存在なのだ。
ここまでなぜか無言だった長谷川。
柴田と山川が恐る恐る振り返る。
「その言葉を待っていたんだ」
長谷川は不敵な笑みを浮かべていた。
組んでいた腕を解き、そのまま観客席出入口の方へゆっくり歩いていく。
まるで世界の終末に立ち向かう覚悟を決めた映画の主人公のように、背中を見せながら右腕を上げた。俺に任せろ、とでも言わんばかりだ。
「紗季ちゃん。俺、行ってくるよ。応援よろしく」
「あうん。がんばー」
キャーキャー甲高い女子の声を受けて、漢・長谷川は戦地に飛び込む。
「フラグ?」
「フラグやな」




