第零話-1
改装と補修を重ねた古い中学校校舎、その中の教室、1年2組。
窓から見える道路の脇には未だ雪が残り、入学の季節になっても分厚いダウンコートが欠かせない。4月には桜が咲くものという本州の常識はここでは通じません、とあざ笑うかのように寒風が窓ガラスを揺らす。
「健星ー部活何するか決めたー?」
「まだなんにも」
幼稚園からの幼馴染、須々木明が柴田の机の上をのぞき込む。
「うお、なんだそれ! めちゃくちゃ誘われてんじゃん!」
机の上には運動部を中心とした勧誘のチラシが重なっている。
「野球部、バスケ部、テニス部、卓球部…………運動部はこれだけか」
「文句言うなよなー、学校の併合でこれでも増えた方らしいぞ?」
柴田が中学に入る前に地元の中学校は近隣の町村の中学校と併合された。生徒数の急な増加に合わせて新しくできた部活もある。テニス部もその内の一つだ、と須々木が説明する。
「いいよなーお前は背ぇ伸びて……あ、そうだバスケ部に入れよ! 俺も入るし!」
「バスケぇ……?」
露骨に面倒くさそうな顔をする柴田。
やんちゃそうな先輩が初対面だというのに馴れ馴れしく肩を組んで「お前でけぇなぁ、バスケ部入れや!」と顔を近づけてきたのを思い出す。
「俺が球技全般ダメなの知ってんだろ、無理だ」
「あぁ~確かに細かいのは苦手だもんな、10人しかいない野球クラブの唯一の補欠だし、あっはっはっは!」
「うるせぇな! 足の速さなら一番だったろうが!」
「代走しか取り柄ない小学生とか史上初じゃね⁉」
柴田が肩にパンチを入れると、ゲラゲラ笑いながら鈴木がよろけた。
「スピードか体格だけで勝負できる部活があれば良かったのにな!」
「そんなスポーツねぇよ、どんな競技にもテクニックは必要なはずだ」
それに、と柴田が付け加える。
「無理して部活に入ることもないだろ」
「えぇ~、お前それはないって…………だって中学は隣町の女子も通ってるんだぜ?」
「だから?」
「青春じゃん! 小学校と違って人数が増えりゃ可愛い子がいる可能性も多くなる! 部活入って、人気者になって、彼女作って! そういう青春にお前は憧れないのかよ⁉」
「エロ猿」
「かぁ~つまんねぇ~………………ほら、見ろよ」
須々木が廊下を指差す。その方向を目で追っていくと、男子生徒と談笑する少女の姿があった。
「誰あれ?」
「三橋流華だよ、隣町から通ってる……めっっっちゃ可愛くね⁉」
少女は長袖のジャージを腕まくりして、まだ寒いというのに短パンを履いていた。長い髪をポニーテールにしていて、笑うたびにそれが揺れる。
一目で活発な女子だという印象を与えている。
「ふーん……ま、確かに」
「おぉ! 健星もそう思うか! ああいう子とお近づきになるためにも部活に入ってるていうステータスは絶対に必要なんだよ。あーあ何部入るんだろ、バスケ部のマネージャーやってくれないかなぁ……」
背が高く色白で整った顔、加えて気さくで明るい。たしかに人気がありそうだな、と柴田は思った。
「確かに旨味はあるかもしれないけど、付き合えると思ってんのか? ああいうタイプは先輩と付き合うんじゃねぇの、ましてや補欠となんか付き合わねぇよ」」
「はは! 確かに運痴でムッツリの健星にゃ無理だわ!」
「いや、補欠はお前のことな?」
「決めつけんな、コロス‼」
手四つで組みあう二人。
「いいから、お前は部活に入るべきだって!」
「入るとしても運動部じゃなくてもいいだろ! 美術部とかでも!」
「ば~か! お前は絵が下手だろ!」
「ぐ……じゃあ吹奏楽!」
「やったことねぇだろ!」
「書道部!」
「興味ねぇくせに!」
休み時間なのでこの程度の騒ぎで咎められることはないが、二人が座るのは窓際の最前列。二人の前には教師の椅子がある。
「……ん、んんっ!」
女性教師の唐沢先生がわざとらしい咳払いをした。
気づいた二人が声を潜めながら責任をなすりつけ合う。
「話は聞かせてもらいました……柴田君!」
唐突に先生が立ち上がった。
「陸上部に入りなさい!」




