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第十六話

「絶対に勝てるギャンブル計画、それを体育祭で実行する」

「てめぇ、コロコロ態度変えやがって…………どうせそれも適当言ってんだろ」

「まぁ待てよ、俺を痛めつけるのは話を聞いてからでもいいだろ……?」

眼光を鋭くさせる柴田を見た制服の男たちが僅かに揺れた。

「もっとも、俺に危害を加えるならこの話は無かったことになる。これからは互いの信用が大事だからな」

加納が拳を緩め、取り巻きの男たちと赤井が両眉を上げた。

加納は苛立たし気に舌打ちを一つして腕を下げる。

「ウチの体育祭は一年から三年、クラス対抗で優勝を決める、競技はバスケバレーソフトボール卓球クラス対抗大縄跳び学年対抗リレーがある大繩とリレー以外は基本男女別で行われ結果に応じてクラスに得点が与えられる」

柴田は瞬きもせずに一息で説明した。捲し立てるように喋りながら必死に思考を回転させる。

「日程は6月の16と17の二日間で午前9時30分から午後4時30分まで場所はスポーツセンター第一第二体育館と隣接する市民球場で—————」

「それはいい、さっさと本題に行け」

ぐ、と言葉が遮られて喉が鳴る。

(喋りながら考えてんだよ! ちょっとは時間よこせっ!)

だが、立て板に水に話したおかげで少しはまとめることができた。

柴田の鼓動が早まり、拍動に合わせて全身が震えているように感じた。隣に立つ赤井にも分かるほどではないかと思うほど。

一度唾を飲み込んで柴田は言う。


「全18クラスの中でどこが優勝するかの賭けだ…………俺たちに賭けろ‼」


静謐な夜の公園にはこの場にいる男たち以外には誰もいない。絶叫する柴田の声が広く響いた。

「……っは!」

「「「だぁっはははははははははは‼」」」

一瞬の静寂の後、加納を皮切りに取り巻きたちが吹き出した。

「お前、馬鹿だろ! なんで俺たちがそんな回りくどいことしなきゃなんねぇんだよ!」

「くっくっく……もういいよとしき、早く片付けてボウリング場行こうぜ!」

「そぉだな、聞いて損したわ…………面白い話かと思ったんだがそんな苦し紛れの提案とは思わなかった」

赤井は視線を右往左往させながら成り行きを見ている。柴田がそれを一瞥した。

(ここで慌てるな!)

今一度にじり寄る加納の前に掌を出して制止させる。

「俺は陸上で全道大会も出てる」

「あー?」

「リレーがあるって言ったろ? 1年のメンバーには赤井もいる」

加納が眼球だけを動かして赤井をねめつける。

「う、うん……そうなんだ」

「ふぅん、赤井ちゃんがねぇ」

「赤井の速さはお前たちも知ってるはずだ、それに今さっきもリードする俺に追いついた、どうだ? 勝てる気がするだろ?」

「知るかんなもん」

「俺のクラスには卓球の全中出場者もいる。分かるか全国大会だ、他にも運動部が多いから間違いなく優勝できる!」

加納が食いつける要素はないか、必死にかき集める。

「正直、運動歴、経験がある3年に比べたら1年は不利だ……だがそこにこそ旨味がある、オッズは3年が集めるだろ? そこで1年A組が優勝すれば配当が馬鹿デカくなるはずだ!」

柴田の額に玉の汗が浮かぶ。大げさな身振り手振りによって上げるようにセットされた前髪が垂れてくる。

「あー? それのどこが絶対勝てるギャンブルだ、もし勝ったとしても俺がこれからお前を取り立てて回収する金額には全然足りねぇ、30万以上はねぇだろ」

「は………………さんじゅ…………」

「おーそうだ今決めたんだ、バイトでもすりゃ1年ありゃ十分だろ?」

30万という数字に眩暈がした。柴田の予想の遥か上だった。これなら口座内のなけなしの貯金を献上してぶん殴られた方がマシだったのかもしれない、と思うほどだ。

だが、

(展開は俺に向いた……)

その瞬間、突風が吹いた。木々がざわざわ音を立て、枝から外れた木の葉が二人の間に落ちる。

「あーもうしょーがない! 胴元はお前たちがやっていい! 控除率もお前らが設定しろ! これならどうだ?」

取り巻きの男たち、赤井も同様に意味が分かっていないのか、きょとんという顔をする。ただ一人を除いて。

「ふん、なるほどねえ~」

加納が尖った犬歯を舐めた。

「絶対勝てるってのはそういうことか」

「あぁ、どんなギャンブルも結局のところ運営側、つまり胴元が勝つようにできてる」

「ギャンブルというより…………ビジネス」

「その通り、だから信用が大事なんだ」

木々のざわめきが収まり、一帯は静けさを取り戻した。遠くに聞こえる車の排気音。

柴田は自身の呼吸すら忘れて反応を待った。心臓がひどくうるさい。

再び訪れた沈黙。

それを破ったのは加納だった。

「お前……本当に面白ぇなぁ!」

迫力すら感じる凄絶な笑みをさらに歪ませる加納。

(ほ、本気の笑顔こわ……)

この場にいる他の男たちを置き去りにしたまま二人の間に奇妙な関係が築かれようとしていた。

「細かい計画を教えろ、ぶっ殺すかどうかはそれから決める」

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