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第一章 八話「悪の親玉になりきってみた」

「さぁ主殿(あるじどの)。大宴会といこうじゃねぇの」


 そういうとミレは大きな声で大広間に向かい叫んだ。


「我らが神! 救世主! ユグドラシル様の入場である! 皆の者! 歓喜せよ! 愛を形として送れ! 彼がここに立ち! 指揮を取ることをほまれとせよ!」


 

「「「うぉおおおおおおおお!!」」」


 ユグドラシルが踏み入れた大広間は――圧巻という言葉が相応しかった。

 幾数多の声に大気が振動し、足の裏に感じる畳の心地よさなど忘れてしまうほどに。

 品のある和室で構成された大広間は、奥行が目算五百メートル以上あるだろう。一段下がった畳を全て――人間以外の種族が埋め尽くしていた。


「す、すごい……!」


 心の声が漏れる。

 見渡す限りの悪役たち。


 悪魔族(デビル)

 大猪族(オーク)

 水溶族(スライム)

 森人門亜種・黒(ダークエルフ)

 昆虫型異形(イノセクト)

 白角狼族(スコル)

 人魚族(セイレーン)

 巨人族(ギガント)

 小人族(ホビット)

 半人半馬族(ケンタウルス)

 植物族(プラント)

 妖精族(フェアリー)

 首無シ騎士(デュラハン)

 血吸い族(ヴァンパイア)

 巨大骸骨(しゃれこうべ)

 小猪族ゴブリン

 火吐き蜥蜴(サラマンダー)

 妖精王(オペロン)

 人狼(ウルフル)


 数千、数万という数の種族達が歓喜の声をあげユグドラシルを迎えた。

 涙を流しながらユグドラシルを見つめ拍手するもの、喜びのあまりただ頭を下げるもの。雄たけびを力の限り上げるもの。

 歓迎の仕方はそれぞれであった。が全てユグドラシルのためであった。


「静まれ!」


 人造兵器のミレ・クウガーはそれらすべてを一蹴する。

 副官の声に呼応するように雄たけびは収まり、ユグドラシルの一挙一動に神経を注いだ。


「これより! 我が主殿あるじどのの挨拶である! 皆のもの! 心より承れ! 彼の言葉を心に刻め!」

 

 ユグドラシルがみなの畳の前に立った。

 ユグドラ――いや太郎は心を落ち着けた。

 彼らが望む声とは、太郎自身の言葉ではない。彼らの神、ユグドラシルとしての言葉である。

 太郎の作った物語により、この世界は血にまみれている。

 人間と戦争をしている目の前の種族たち。彼らにも家族があり友人や恋人がいる。

 彼らの主観から見れば、人間とは彼らの生命活動を阻害する悪し敵であり、敵でもある。自身の土地を乗っ取り、友を奪い家族を葬った存在。

 『魔女争奪戦』においても、異形達は命を懸けて戦った。

 人間に勝利するために――自らの命、プライド、家族を守るために。 

 だから、みんなが望む言葉を。

 アキがイメージする、本物のユグドラシルを。



「昨晩の戦い――みな、ご苦労であった」


 最初の言葉は、まるで聖母のように優しく微笑みかける、そんな愛を込めた言葉にした。 

 まるで誰か――神と呼ばれる存在が乗り移ったように。

 

「ユグドラシル様……」

「復活なさった……我が主よ」


 小さな声が漏れる。理性が決壊したように、異形達は感情を流す。

 それを歓喜という。涙という。安堵という。

 涙を流しながら、異形達は喜びを噛みしめた。

 彼らは――この瞬間を待ったのだ。

 先代の勇者と国王によってユグドラシルは窮地に陥れられた。そして結果、封印という形で難を逃れる。

 だがその封印はいつ解かれるか分からない。

 それでも、彼らは戦ったのだ。

 友が死のうとも。恋人を戦地に送ろうとも。

 ユグドラシルさえいれば、戦争に勝てると信じて。


「これまで……辛い戦いをさせた。勝利以上の悲しみを背負ったこともあっただろう」


 寄り添うように。

 そんなことはありません――とどこかから聞こえる。

 それに同調し多くの魔獣とも呼ばれるものたちが声をあげる。


「だが! それも今日で終わりである! 私は復活した! お前らのあるじであり! 神であるこのユグドラシルが!」

「そうだ! 神は我々についている!」

「命を燃やせ! 残りの全てをやつらに!」


 雄たけびが聞こえる。 

 封印されたあるじのユグドラシルの復活を信じて。

 神になった男は言葉をつづける。


「お前たち!(はい)を持て! 

 我らが今から飲む美酒は、今まで我らのために命を捧げた献酒であり、これから死ぬものたちへの弔いの酒だ!」


 その声に、数千、数万の化け物たちは立ち上げりさかずきを天に掲げる。


「命の味を存分に味わえ」


 ユグドラシルは酒を一気に飲み干した。喉と鼻が焼け焦げそうな熱が襲う。 

 化け物たちもそれに続き、注がれた酒をかきこむ。


「この味を忘れてはならない。これはお前たちの命の味だ」


 そしてアキは笑った。


「だが安心せよ。怒りは俺が全て引き受ける。魔神となり、灰となったお前たちの怒りはしっかりやつらに飲ませてやる」

 

 くっくっく――、と。


「さてお前たち、勝利の準備はいいか?」


 それは――本物の悪役のように。


「人類を! 殲滅せよ!」


  


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