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第一章 最終話 「第一章一話 スキャット・デルバルドの日常」



 「人間の国ガルディアに一人で入国したいんだけど」

 「アホかぁぁぁあああああああ!」

 

 ミレは叫んだ。

 

「アホ! アホかお前は! バカ!」


 ミレは叫んだ。

 彼女らしくない、大きな声だった。それは空に浮かぶ庭園都市まで届きそうな勢いだった。


「敵対する! 人間の! 国に! 主殿が! 行く! だと!? アホか! アホアホアホ!」

「そんなに怒らなくても……」

「うっさいわボケ! お前のせいじゃい!」


 綺麗な瞳をカッと開くミレ。


「こわぁ……」


 はぁはぁ、と彼女は息を切らす。 


「マジで意味わかんねぇんだけどよぉ主殿。わざわざ敵国の懐に入りたいってのは謎すぎる」

「分かってるよ」

「いいや分かってない。人間の国には、文字通り人間しかいねぇんだぜ。偵察がしたいのなら、偵察隊を派遣すればいいだろ。それこそ不可視狼(ワードウルフ)とかよ」

「馬鹿だなぁミレは。敵国だぞ?いくら不可視狼でもそんな危険なところに行かせれるわけないだろ? 馬鹿なのか?ミレは」

「てめぇが言うなアホ。お前が行くのはもっとアホだろアホ」

「ミレって、怒ると語彙力減る系なの?」

「お前に見合う言葉がねぇんだよ……」

「まぁまぁ。ちょっとどうしても見たいところがあるんだ」

「見たいところ?」

「うん。ガルディアって言っても、南領地区13だ」

「あぁ……南13か」

「うん」

「まぁそこならこっちの土地からそう遠くもないが……そもそもなんでそんなところに行きたいんだよ。敵の懐に入りたいなら王都か軍事が集まる東地区だろ?南領のしかも辺境の13地区なんて。行っても意味がねぇんじゃねぇの」

「必要なんだよ。今後のストーリーのために」

「ストーリー?なんだそれ」

「ミレ、大抵のことは助けてくれるんだろ?」


 じっと見つめてくるユグドラシルに、ミレは大きくため息をつく。


「一人じゃないとダメなのか?」

「うん。大人数だとそれこそ情報収集にならないからな」

「はぁ……ったくよぉ! 分かった分かったよ。妥協案だ。護衛としてロップを付ける。あと装備として神の玩具も」

「それでいい。けど神の玩具なんて戦闘に使えないだろ」

「戦闘用じゃねぇ逃走用だ。まぁ逃げるだけならNo.11だけでもいいが、まぁ元々あれはあんたの持ち物を私が預かってたものだ。これを機に返す」

「ん。ありがと」

「いいか主殿。次もし何かしたくなったら、お前が妥協案を出せよ。それで公平だ」

「分かった」

「はー。私もバカが移っちまったかな。敵国に護衛付きとはいえ大将を送るなんて……」


 ミレは眉にしわを寄せ、大きなため息をつきた。

 バカというものは伝染するらしい。



ー-------------------

  

『召喚術師と世界の果て』について、もう一度おさらいをしなければならない。


 あくまで、自作の小説ということで細部まで覚えているわけではない。





 設定はしっかり練ったものの、会話を含めた描写は、おおかた勢いで書いたものだ。


 だから、話した内容、キャラクター同士の会話、立ち位置、すべてを正確に覚えていることはない。





 というより、自分の書いた物語をすべて覚えていることなどないと思う。

 むしろ覚えているのは熱心に読んでくれた読者たちだ。

 彼らは心から作品を愛し、理解してくれている。

 その場で思いついた展開やノリに対し、的確に想像してくれる。

 物語というものは、読者たちという力が生み出してくれるものだと思う。


 だから話すべきは物語の大まかなストーリーであり、キャラクターの意思なのだと。


「はいよ! 麦酒おまち!」

「どうも……」


 大きな音を立て、グラスがテーブルに置かれる。

 ガルディア国特産のアルコール飲料。

 ユグドラシルはマントを深くかぶりおかれた麦酒に口をつけた。



「……まずっ」

 

 日本人だった時も、お酒が苦手だった。この世界、自分で作ったものならいけるかとふんで頼んでみたがやはり味覚の感性は変わっていないらしい。



ガルディア国南領地区13。

 主人公のスキャット・デルバルドが荒くれものに喧嘩を売られるシーンだ。

「神の玩具(がんぐ)No.004。自動書記ノンストップライティングスタート」


 とユグドラシル小声で独り言をつぶやいた。

 彼にしか見えない不可視の本が現れる。

『おはようございマス。ご主人様』

「おはよう」

『本日の目的は日記でスカ?』

「独り言を」

『承知しまシタ。ではよい一日ヲ』



 自動書記。これは独り言を記録する能力だ。話したこと、考えたことを独り言のようにつぶやくことでノートのように書き込み、読むことができる。

 誰にもばれず、物語を記録する。



「転生三日目。時刻は昼下がり。場所はガルディア国南地区十三の酒場。人の入りは上々。『ぼくは野蛮であらくれものです』と言わんばかりの益荒男(ますらお)たちが酒をたらふく飲んでる。すごいねホント。まるで映画のセットだ」

『楽しそうデスネご主人様』

「そう見える?」

『少なくとも私ニハ』

「じゃあきっと楽しいんだろう」


 そもそも目の前に浮かぶ透明な本に『見る』という感覚があるのか、という疑問が一瞬よぎったがそんなことより酒場の風景に興味が引かれた。

 心が躍らないと言えば、それは嘘であった。自分が作った世界が目の前に存在し、それを見渡せる状況にいるのだから。


「だからこそ、この後をおれがどう感じるか……それが一番大事だ。物語として受け入れるのか、それとも――」

 

そういうとユグドラシルは右手と左手で四角を作った。まるで映画監督が風景の画角を確認するように、四角から出入口を覗き込む。

 

 物語の導入は、この酒場で始まる。

 ガルディア国の外れ町にある小さな酒場。

 スキャット・デルバルドが荒くれものに喧嘩を売られるシーンだ。


 「いいアングルだな」 


 まるで漫画のコマのように。



「えー、ゴホン。それでは。【第一章 一話 スキャット・デルバルドの日常】」

 

 そういうと酒ほぼ同時に場の扉が蹴り飛ばされた。

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