8話『パパン、どっち?』
「お、おお…」
笑いかけられた男は、戸惑いながらも頷く。
「パパン、どっち?」
『…』
「あっちだって!行こう!おじさん!」
「わ、分かった…!」
娘の言葉にすら一言も返さない父親に戸惑いながらも、男は、歩き出したパパンについて馬を器用に回転させると歩き出した。
「そういえば、お嬢ちゃん達、名前は?」
「私は、アオイ!パパンは、パパンとしか呼んでなかったから知らない!」
「お…、おお…。パパン、さん、お名前は?」
『…』
「返事がない、屍のようだ…」
「お嬢ちゃん、父親に向かって冗談でもそんなこと言っちゃダメだよ」
「はーい!」
戸惑いながらも問い掛ける男だったが、男がアオイのジョークとして受け取ったのは、事実なので返事はない。
そして、アオイがパパンの名前を教えなかったのは、本当に知らないからだ。
幼児期健忘したので、両親が名前で呼びあっていたのか、お母さんやお父さん呼びだったのかも知らない。
パパンとママンは、アオイが、大好きな前世の両親と被らないようにしつつ、今世の両親に愛情込めて呼んでいるだけの呼称なのだ。
「私は、カイン。お嬢ちゃん達は、どちらへ向かうのかい?」
「秘密」
「さっき、ご両親の事情と言っていたが、どんな理由だい?」
「それ教えると街道まで案内出来なくなっちゃう…」
(知らんけど、多分ワケありだろうし、引越しの準備しないと)
「ッ!いやいや、好奇心を出してしまって悪いね!忘れてくれ!!」
(消される!!)
「そっ?なら、私達と会ったことは、誰にも言わないでね」
(流石商人!察しがいいね!)
「はいぃ!!!」
(ひぃいい!!!!!)
(元気のいい人だな)
そんなすれ違いをしているとは思わず、アオイは、ニコニコと頷く。
「ああ、いや、そうだ!!お嬢ちゃん達も山賊に気を付けな!おかげで私は、一文無し、だからねぇ…」
カインは、話を逸らそうとパッと頭に浮かんだ話題を出したカインだったが、自分の現状を思い出して、一気に暗くなる。
(表情豊かな人だな〜。腹芸とか出来んのかな?)
「うん!気を付けるよ!」
なんて感想を内心抱きつつ、ズーンという効果音を背負うように暗くなったカインに、アオイは苦笑する。
「あっ、それなら、焼け石に水かもしれないけど、良かったらパパンの狩った獲物を持ってってよ。ウチは余裕あるから」
貯蓄は、今回の短刀と皮の鎧で0になってしまったが、週5で15万程の収入があるし、税金も家賃も光熱費もかからないアオイの生活は、1日の売上を渡した所で余裕があるので、そう提案する。
昨日スマホで買ったお弁当は、子供のアオイには、一人で食べきれなかったので残っているし、明日には3万稼げるので問題もない。
「いやいやいや!!それは流石に悪い!!」
カインは、慌てて頭を左右に振って申し出を断った。
「それに、そういうのは、パパンさんと決めないと!」