2話『想像以上にハードモード過ぎない??』
「想像以上にハードモード過ぎない??」
生まれ変わって3年経ったアオイが呟く。
目の前には、両親の遺体。
今日、3歳になったアオイは、ぼんやりとした意識しかなかった状況から覚醒したが、両親はすでに冷たい遺体になっていた。
「あと数日早ければ…!」
と、思うも時間は戻らない。
「多分、駆け落ちかな」
アオイの両親が非常に仲良かったのは覚えている。
とても愛されていた気もする。
だが、この生活は無理だった気がする。
「…」
ちらりと見た母は、とても美しい黒髪の女性だった。
目も黒目だった気がする。
母は何も出来ない女性だった筈だ。
「…」
次に父を見る。
私はこっち似だなって感じの凡庸な容姿だが、屈強な身体をしている。
狩りも採取も料理も全部父がしていた。気がする。
母が美しいドレスを着ているのも、その疑惑を深める。
多分、着の身着のまま2人で逃げてこの地へと辿り着いたのだ。
そして、私達一家しか居ない場所で、父が足を負傷したので、全員仲良く野垂れ死にする予定だった。
弱弱の3歳児の私が生き残ったのは、両親が少ない食料を私に与えたからだ。
(3歳児遺してってどうすんのさ…)
とも思うが、すぐに儚くなると知っていても、自分達よりも長く生きて欲しかったのだろう…。
アオイは、そう思っておくことにする。
「よし、仕方がない!」
3歳のアオイに出来ることは少ない。
スマホで買い物しようとしたら、お金がなくて出来なかった。
「この世は金か…!!」
と、小さな膝を床に付けて、項垂れたが現実は変わらない。
「無限の金って言っときゃ良かった!!」
と思おうが、すでに後の祭りである。
だが、売買が出来ると光の玉が言っていたのを思い出したアオイが、父が遺して逝った毛皮を片手に、
「毛皮売りたいです!」
といえば、スマホが自動でアプリを開き、販売画面を出した。
「メ〇カリみたい…」
とは、アオイ談。
だが、実際はスマホ画面に押し込めば、自動引き取り、換金がされる便利機能だった。
なので、残りの毛皮も突っ込んで、5000ツブラになった。
この世界の実際の価格は知らないが、日本の物価高騰前の価格に近いイメージだった。
小さい頃に見ていた価格に近い気がする。
とはいえ、これでは小さい子の一人暮らしとはいえ、長くは生きられないし、モンスターの跋扈する世界で、3歳児の自分では外に出るのも危ない。
ネクロマンサーとはいえ、死体がなけりゃどうにも出来ないし、毛皮は売ったし、肉は食べたし、骨は外に父が埋めてしまったので、取り出せない。
ようするに、アオイの使える死体は、目の前の両親だけだった。
「新しい死体見つけたら埋葬するから許して下さい…!!南無阿弥陀仏!!」
そう言って、アオイはとりあえず手を合わせておく。
小さなアオイは、ある程度大きくなるまで1人で生活出来るわけはないのだ。
「では、いっきまーす!!」
暗くなる気持ちを抑えて、アオイは明るく話す。
正しくは、舌足らずで「でぁ、いっちまーつ!!」くらいの発音である。
「『暗き光よ、黄泉から奪い返せ。ハデス・ピルファ』!!」
『『…』』
──ズズ…
アオイの今世の両親がのそりと起き上がる。
その目には、光はない…。
「あああ゛…!!!罪悪感!!ごめんね!ママン!!ごめんね!パパン!!うぅ…」
そう、項垂れるアオイの頭にふと何かが乗った気がした。
「え?ぁ…」
慌ててあげた先には、にこりと優しく笑う両親の幻影を見た気がしたが、
「ま、待って!!」
そんなアオイの手からこぼれ落ちるように、光の粒子となり、消えていった。
「っ、絶対生き残るよ。私は2人の愛の結晶だもんね」
アオイは、そう心に誓った。