1話『死にました』
「死にました」
「あ、はい」
真っ白な世界で光の玉にそう宣言された海原 葵は、理解してるんだか、してないんだか分からない、軽い頷きで返事した。
「かっる!!!!軽いよ!!死んだんだよ!?!?」
「聞きました」
「アラサーで死んだんだよ!!」
「知ってます」
「普通、ここって『生き返らせて!!』って言うとこじゃない!??」
「とは言われましても…」
興奮するようにピカピカと光る玉に苦笑しつつ、葵は言葉を続ける。
「元々、父方も母方も若くして癌を発癌する家系なので、覚悟は決めてましたし、親不孝と言われるにも、両親はすでに他界し、兄弟は、別世帯を持っています。成長を見守りたい子供どころか、夫も彼氏もいないんですよ?
仕事がバリバリ出来る方でもなかったので、生きる為に働いてる状態で、余裕のない生活でしたし、正直、生き返ってまで送りたい人生じゃないです」
「そ、そう…」
そう言いきった葵に光の玉も戸惑うように光が弱くなる。
「それで、ここに呼んだ理由なんだけど、君は、徳ポイントが貯まってるんだ」
「徳ポイント…」
「そう!良いことをすると貯まるポイントを導入!ただし、下心があった場合や生きてる間に還元された徳は貯まらない仕組みだよ!」
「中々に集めにくそうなポイント…」
「そうでもないけどね。人間は総数が多いから、少数派とはいえ、中々の数になるよ。
だいたい、徳ポイント制度も一部の特に神のお気に入りと言われる善性の高い子達が、現世で損することが多過ぎるからという理由で、徳を来世に持ち越せるようにしたんだよね。
君もそうだけど、息するように自分に降りかかった幸運を他人に使うから、徳が消費されないんだよ!」
「はあ…、別にそんなつもりはないんですけどねぇ」
「ここに来る子はみんなそう言うよ!だから、徳ポイントが貯まってるんだしね!とりあえず、ポイントは、どう使いたい?」
「逆に使い方が分からないんですが??」
「主に、生まれる世界や地位の指定や能力の指定かな」
「ポイント数と交換数は?」
「ポイントは、14ポイントで、1ポイントから交換可能だよ」
「譲渡は」「不可だよ!!」
「おお…」
食い気味で否定してきた光の玉に葵は、少し引く。
「君らはみんなそうだ!!譲渡!譲渡!!ポイントを集めたのは、君達なんだから、自分で使って!!」
「はあ…、でも、自分の周りの人が大変そうで、自分の幸せを渡せるなら、渡しません??」
「普通は渡さないから、みんな徳ポイントが貯まらないんだよ!!
譲渡は絶対不可!!自分で使って!!」
「使い切りですか?」
「なるべくね!!でも、使いきれなかった分は、次回に持ち越し可だよ!」
「なるほど」
とはいえ、どうしたものか…、と葵は悩む。
望めば、俺TUEEEE!!!!!!が出来そうな気もするが、争いごとは嫌いだし、それを回避出来るほど自分が頭が良いとも思えない。
(身の丈に合わないものは身を滅ぼすのはいつの時代も変わらないだろうし…)
「なら、僕から質問する形式でもいい?」
「う〜ん、…そうですね」
(悪意は無さそうだし、多少損しても悪いことにはならないでしょ)
あまり頭の回転のよろしくない葵としては、即返答よりも、内容を聞いて、ひと月くらい考えたいが、そこまでしてもらうのも悪い気がして頷く。
「まず、どんなところで生活したい?」
「税金が10%以内か、無いところ」
「いや、待って」
「難しいですか?」
「う、ううん…、やっぱり人が集まると税はあるからね」
「なら、人の居ない場所」
「待って」
「はい」
「どんだけ税金払いたくないの!?」
「神様。神様にはご理解頂けないかもしれませんが、税金は重たいんです…!!
このお金さえあれば…!!何度もそう願ったか…!!
国民健康保険料に住民税、国民年金を払い、私の給料で、約1/5に減り、そこから消費税を10%払えば、約1/4に減ります。
いや、それでも2.5公7.5民と考えると良心的なんだろうけど、払う方からすると10%超えると重いんだよ…!!!!
と、言うわけで、生まれ変わったら税金を払いたくないないです。
国民皆保険も整備された道路も、素晴らしい物流もいらないから、税金を払わない生活がしたい…!!
それで死んだら、それまでだ。
あ、あと最低9時間労働も嫌だ。
日本の求人、どれ見てもそんなもん…!!
睡眠時間8時間、朝の準備1時間、出勤30分、帰宅30分、夕飯30分、お風呂30分、家事30分と仮定して、11時間は生活必需時間で、そこに9時間働いたら、休憩時間1時間あるから、21時間!!自由時間は3時間!!夕飯を簡単に作るだけで30分は無くなるし、2時間半!!
お風呂にゆっくり浸かりたい、夕飯をしっかり作りたい、会社まで時間がかかれば、さらに時間は削られ、メイクをバッチリするならまた削られる完全フリーな自由時間…!!
なので、生活出来る最低限の労働で生きていきたい。
もう働くのは疲れた…。
なので、楽に安全に生きていきたいです。豪華な生活は望みません。人里離れた森の中ででも、ひっそりと生きていける力を下さい」
「な、なるほど…」
いまだかつてない熱量で熱弁する葵に戸惑いながらも、光の玉は頷く。
「とりあえず、人の簡単に入れない森が必要そうだから、君の来た時代や、近未来の世界よりも、人にとって、未開の地の多かった中世寄りの世界だね」
「そうなるんですね」
「そうなるね。あとは、生活方法かなぁ…。
う〜ん…、スマホ持ってっちゃう??」
「スマホ?圏外では?」
「天界と繋げとくよ。だいたいスマホで出来る機能はつけとくね」
「便利だし、ネットサーフィンは趣味なのでありがたいですね」
「物の売買も出来るし、写真を撮った物の詳細も教えてくれるし、生きていくのはかなり楽になると思うよ」
「めっちゃ便利…!」
「でしょでしょ!
あとは、生きてく安全策かな〜。動物は危ないしね」
「そうですね。鹿なんかの草食動物だって、武器を持たない人間からすれば脅威ですからね…。毒のない無害な虫以外、人間は敵わない」
「想像以上に理解しててくれてありがたいよ!」
光の玉の言葉に真剣な顔で頷く葵に、光の玉は嬉しそうに光る。
「人間の強みは数と創造ですから、一人で生きていこうとする武器も持ったことのない、創造力と知識の足りない凡人では勝てないですよ」
「なら、パパっと強いの味方にする?動物に好かれやすくなるとか!」
「動物好きとしては、とても心の惹かれる提案」
と言う葵の表情は優れない。
「あれ?ダメ??」
「…飼うなら、食事や遊んであげたりの手間が増えるので、ちょっと躊躇しますね…。
100歩譲って食事は、『自分で取ってこーい!』で良いとしても、構わないのは飼い主失格なので…。
あと、戦わせて怪我されると心が痛い…」
「そっか〜。ん〜…、ならなぁ…、あ!!ネクロマンサーは!」
「ネク、なんか聞いたのとがある…」
「ネクロマンサーね。いわゆる、ゾンビやスケルトンを操る人の事だよ!」
「まさかのダーク側」
「まあ、そう言わないでよ。実際は、便利だと思うよ?
魂を召喚しなきゃ、本当にただの操り人形だし、すでに死体だから、何度でも復活可!!心が痛まない!!」
「死体蹴りな気はするけど…、まあ、生きてるよりは…?
ただ、ちょっと不気味…」
「動物系を重点的に集めたら?まだマシじゃない?」
「ん〜、そう、かも…?」
「レベルアップすれば、皮膚や毛の新陳代謝や体温があるようにしよう!!あと、肉片からも再生するようにしよう!」
「その機能いる??」
「ついでだから付けちゃおう!オプションは付け放題だから!!」
「ノリ軽!」
「ここに来てる時点で、神様のお気に入りだからわりとゆるゆるで付けてくれるよ。
現世に降りちゃったら、僕らは手だし出来ないからね。ここに居る間に、精一杯、次の人生が良くなるように下準備したいんだよね。
温かい動物は、人の心を癒すっていうし、付けちゃおう!」
「…まあ、そこまで言うなら?」
「OK!OK!
とりあえず、
1、時代は、人にとって未開の地のある時代
2、人里離れた森の中での生活になるように設定
3、暑過ぎず、寒過ぎない地域
4、天界を介して繋がるスマホ
5、安全対策のネクロマンサー
以上の5つでいいのかな?
あ、容姿とかどうする?絶世の美女にしとく?」
「あ、いえ、この顔は、早くに亡くなった両親との繋がりなので、そのままでお願いします」
「う〜ん、欲がない…!!」
「いや、そんなことないですよ。10代の頃に言われてたら、きっと喜んで自分好みのフリルやリボンの似合う、儚げな可愛い系ボンキュッボン美女にしてもらってたでしょうし。
ただ、30年程付き合うと、『自分の不完全な凡庸な容姿も、味があっていいかな?』って思えるようになっただけです」
「そう?じゃあ、転生する準備はいい?」
「はい」
「じゃあ、いくね!『ほいさ!』」
光の玉の掛け声と共に、葵の意識が遠のく。
(あ、やべ、頭の回転が良くなりたかったの忘れてた)
最後にそんなことを思いつつ、葵の意識は途切れた。
「この子もポイント全部使ってくれないな…」
【利用ポイント:5】