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異世界転生と、サバイバル

 さぁ、ここからが貴大、生殺し大会のはじまりさ。


 是非とも生暖かい目で見守って欲しい。


 楽しんで頂けたら幸いです(ゲス顔)

 目を開けたら、そこは鬱蒼(うっそう)とした、木々に囲まれた森の中のだった。時間帯はわからない。月明かりと、言えれば良かったが、空を覆う枝葉が、空の大半を隠し、僅かに星が見えるだけ。だから、暗く、冷たい風が身体を撫でるたびに不安になる。


 低木の葉が風に揺れる音に身体を震わせ、孤独を感じている。


 目を開ける前、神から貰った力は元の体が持っていた記憶と、性能を具現化したと言っていた。だから、わたしは迷う事なくある言葉をつぶやく。


「『機能』、『メッセージ』、『作成』、『アドレス』、『貴大』」


 そして、わたしは誰よりも頼りになる、大好きなひとにメッセージを送る。いつもは陰気な表情しか見せない、でも、わたしと二人きりの時だけ、優しげな目で彼の求めに応じて色々な、それはもう色々な表情を浮かべるわたしを、それはもう優しい手つきで、時には乱暴に撫でる彼を求めて。


 きっと彼なら。わたしが転落しそうになった時、優しく受け止めてくれた。そんな彼ならきっと、なんとかしてくれる。


 しかし、反応は無い。送れている感覚はある。なのに、返信が来ないのだ。焦る気持ちを抑えながら、今度は『通話』を試す。そして、わたしは思い知り、一人小さく溢してしまった。


「あぁ、そっか。向こうのわたしはもう、死んでるんだね」


 元スマホ。しかも、それなりに新しい機種でカメラ機能が進化が進み、暗闇でも撮影可能になっていた。だから、光のない森の中も見える。


 だけど、見えたところで、どうしたら良いかなんてわからない。所詮は元道具なのだ。こんな時どうしたら良いのかなんてわからない。


「助けて。ねぇ、助けてよ、貴大〜」


 泣きながらわたしは、見知らぬ森を歩き続ける事となった。毎日、一縷(いちる)の願いを込めて、貴大にメッセージを飛ばし、そして、ようやく報われたのは日が七回登り、中天を過ぎた時だった。


 その時、既に着ていた服はあちこち木の枝に引っ掛け、破れていて、そして、泥に汚れていた。木の根で足を滑らせ転倒した時に膝や肘、腕に擦り傷と、何箇所も赤く腫れ、喉は乾き、彼の好みにして貰った顔も、白くきめ細かな肌や頬は強い疲労と空腹により、瑞々しさを失っていた。

 ◆◆◆


『で、ようやく連絡取れたら、忘れられてるし。違うスマホ(おんな)に乗り換えてるし。本当最低』


 不機嫌を隠さない、彼女、ユーカの声に焦りながら貴大は誤解しすぎだ、と何度も説いていた。


「いや、待ってくれ。機種は同じで色が違うだけだぞ?」


『は? それ、ゲームのキャラに面と向かって言えますか? 差分が色だけで、別キャラ? ふざけんなって。ねぇ? 言えるの?』


「ぐぅっ、いやだがな、修理不能だったし、いや、それよりちゃんと街につけたか?」


 まさに、理不尽な言葉を浴びせられたが、貴大は【同じ色なら良かったのか?】とは口が裂けても言えなかった。理由は、どのみちパスコードの為にはユーカを頼らざる得ないからだ。


『むっ、また話逸らす。とりあえず、貴大のおかげで着けたよ。まさか、マップアプリ機能使えるとか思わなかったよ。あと、ストレージが収納に代わってて、替えの衣服はいってたし、本当に常識通じないんだね、異世界って。本当、ありがとね貴大。大好き』


「い、いや、貰った能力の説明聞いた時に、もしかしてって思っただけで」


『でも、おかげで食べれるものとか、検索で調べられたし。湧水の飲水とかの場所調べられたし、雨水だけで本当に終わりが見えてたから』


「その割に、一昨日はかなり喋ってたし、ビデオ通話は疲れた様子じゃなかった気がするんだけど? 服も綺麗だったし」


『通話って言っても声に出さなくて良いから。その代わり思ってる事全部筒抜けになるから、まぁ、今更だけどね。ビデオ通話も、VR再現みたいなものだしね。ほら、好きな人にボロボロで、汚い姿見せたく無いし……あ、あの時の格好なんて見せられないし』


 そして、貴大が強く出れないもう一つの原因が、この会話の合間に好意を隠さない素直で可愛い一面に、すでに陥落させられているからだ。


「……」


『な、なんか言ってよ。わたしだけ思ってる事全部筒抜けになるとか、恥ずかしいよ』


「なぁ、ビデオ通話って、ユーカの見たものをそのまま送る事も出来るのか?」


『へっ? あぁ、うん。出来るよ? なんで……ねぇ、貴大。まさか、女湯行ってエルフひゃっほーとか、ケモ尻尾でゅへへ、とか考えてないよね?』


「記憶にございません」


『じゃ、パスコードは要らないんだね? わかった、素直に見たいって言えば少しは考えてあげたのに。ばか』


「えっ!? ちょっ! リトライお願いします」


『ねぇ? そんなに他の女の裸みたいの? 正直に言わないと、静江さんに不慮の事故で画像送っちゃうかもなぁ』


「ぐふ、み、見たいです。いや、正確には裸よりははだけたくらいで、エルフやケモナーな姿を拝みたいです。でも、いや、なんでもない」


 危うく、ユーカの冒険姿を拝みたいと、口にしそうになってすんでで、なんとか止めた。たしかに、美少女で、こちらに好意を寄せてくれてる。つまり、頼めばきっと普通に喜ぶだろう。そして、頼んだ貴大自身も歓喜するだろう。


 だが、それはきっと苦痛を伴うと貴大は信じて疑わない。


 遠距離恋愛、それも異世界遠距離恋愛なんて、ゲームにも起こり得ない。なにしろ、その壁は越えられないのだから。


 薄く厚い、曖昧でハッキリと分断する、世界の壁。


 だからこそ、貴大は自身の気持ちを伝えない。たとえ、既に恋していようと。元スマホだ、と言い聞かせても惹かれる心は止まらなかった。だからいっそ、魅力的な女の子として、認めて、その上で『届かない』と諦めて胸に秘めた方が楽だったからだ。


 貴大はその胸に宿る『それ』をなんとか胸の奥深くに仕舞い込み、ビデオ通話を求めたくなる心を落ち着かせる。


「ユーカ、今日初クエストなんだよな? なんにしたんだ?」


『薬草採取だよ〜、なんかね、辺境に近いから薬になる野草が足りないんだって。貴大のおかげで昨日の夜から、いい宿に泊まれたし、お風呂も入れたし。前みたいに貴大と入れたら良かったのに……そしたら、今度はわたしが貴大の背中とか、色々洗ってあげれたのに』


 ユーカの言葉は色々危ない。貴大は声こそ漏らさなかったが、脳内で今の姿のユーカに身体を洗われる映像が無駄に鮮明に流れ、早朝から熱くなりそうになっている身体と頭を冷やすように頭を振る。


「ユーカ、本当に勘弁してくれ。刺激が強すぎる」


『むっ、なんで? わたしは色んなところ貴大に洗われたのに。貴大だけ、ずるい』


「わかった、お叱りは後で受けるから、早く採取すませてきなよ。周りには注意しろよ?」


『はぁい。まぁ、もう着いてて、採取始めてるけどね』


「は? ユーカの声しか聞こえないから、まだ街の中だと……」


『だから、通話は思念で飛ばしてるってば。もしかして、こっちの音聞いてみたいの?』


「あ、うん。出来たら聞きたいかな?」


『……おトイレの音はダメだからね?』


「なぁ、ユーカよ、僕はそんなに倒錯した趣向の持ち主だと?」


『たしか、お漏らし系が全百三十八冊の中に三〇冊はあったかな。動画をあわせると……』


「ほんと、もう勘弁してください。おねがいします」


 そのあと、異世界の森の中の音を背景に少しだけユーカは喋っていた。少しだけというのは、森の中、独り言で見えない誰かと会話しているのが、他人に見られたら痛すぎるだろうとの貴大の配慮によるものだった。


 正確には、歩いたり、しゃがんだりで呼吸音や、時折漏れる、透き通る声の『んっ』とか、『いたっ』とか『あっ』とかに色々捗りそうになったためだが。


 男子高校生には、色々と厳しかったのだ。そう、色々と。

 ちょくちょく危ない言葉が飛んで、貴大にささりますね。なかなか、難しい。


 どうやって苦しめてやろうか(悶絶)、冒険者なのに別の冒険をするユーカ(意味深)、本当は、惹かれてるのに口に出せない(欲望)貴大、誰かの面白いに刺さる事を願って。

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