条件
何となく、書きはじめたため、続くかはモチベーションにお聞きください。
ただ、手は抜かないつもりです。『表現的な意味で』
では、スマホ転生をお楽しみいただけたら幸いです。
貴大は天井を仰ぎ、ため息を盛大に吐いた。
『貴大? ねぇ、聞こえてる?』
スマホから未だに鼻声で、可愛らしい声が貴大に語りかける。
『あのね、その。最初のメールなんだけど』
何やら彼女が、話そうとしているが、それどころでは無い。電話の向こうの彼女は言ったのだ。『異世界転生』という、貴大にとっては夢と言っても過言では無い言葉を。だから、一発目のメッセージにあった『新しい女』どうこうは既にどうでもよくなっていたのだ。
「なぁ、そんなことより異世界転生ってさ、普通人間がするんじゃ無いのか?」
『そんなこと……? わかった。もういいもん。絶対貴大はアカウントとか、パスワード覚えてなくて困ってるだろうなって思ったのに。新しいスマホと好きにイチャイチャして、わたしのことなんて……』
またも、電話の向こうで泣き出した彼女に貴大は、理不尽な焦りを感じながらも、謝意と疑問をやんわりと刺激しないように尋ねる。
「ごめん、そういうわけじゃなくて、本当に誰なの? というか、アカウントとパスワードなんで知ってるの? ってところから聞かなきゃわからないんだ、だから教えて貰えるかな?」
『……SCO43、シャンパンゴールド、これでわかるよね?』
「えっと、まさか事故で壊れたスマホ?」
『やっと、やっと思い出してくれたぁ……』
喜色に溢れる、声を聞いて貴大は知らずに小さく唸っていた。
『で、貴大はアカウントとか、パスワード覚えてる?』
「いや、正直忘れてる。スマホの自動入力に頼りっぱなしだったし……」
『だよねぇ。貴大はいっつも、わたしに頼ってたよね? でも、わたしが熱を出しても、えっちな動画とか見ようとしてたしなぁ』
「待て、なんのことだ?」
『む、今更惚けても無駄です。あんなに身体がほてってたのに、貴大はわたしの体をまさぐって……その、えっちな事とか覚えさせてきたりしたし、寝ようとしてるのに無理やり迫ってくるし』
「まて、まってくれ、それってCPUが熱を持ったとかそういう話なんじゃ……そもそも、寝ようとした時にスマホに迫るって何!?」
誰かに聞かれるわけでは無いのに、あまりに女の子の口から発せられるとは思えない言葉の数々に顔が熱くなり、訂正を求める。そう、あの時、と言うよりは今でもスマホに彼は『性別』を認めて居ないのだから。
『む、熱は熱だもん。文句あるの? ずっと都合の良いように扱ってた癖に。電池残量が無い時まで、無理やり充電させながら、熱が上がってもわたしの中を蹂躙してた癖に。ねえ、半脱ぎ好きの貴大くん?』
「なっ!」
『あと、下着はフリルとか可愛い系が好きで、髪の色は淡いピンクで透明感があるのが好きで、ワンピースから透けた肌と、下着のコントラストに釘付けだったくせに。あ、だから新しい携帯もピンクなの? 最低だよ、本当に』
「マジ勘弁してください」
貴大は全力でスマホを片手に頭を下げて居た。そして、こうも思ったのだ。スマホ、怖い。と。
結局、機嫌が治るまで貴大は自身の過去の性癖の移り変わりを愚痴られ、スクリーンショットで保存したはずの、誰にも見せてない画像の件も口にされ、顔を紅く染め上げ、ベッドで悶え苦しみ、不条理とも言える言葉の拷問にひたすら謝り続けたのだった。
◆◆◆
「で、アカウントと、パスワードを教えていただきたいのですが?」
ようやく、魔の暴露攻撃が止み、少し電話口から彼女の笑い声が聞こえ出した時、貴大はそう切り出した。
『む、新しい女にわたしの歩んだ道を辿らせると? ふぅん、それでまた教え込むんだぁ……えっち』
「盛大に誤解を招く事を言わないでくれ、そもそもスマホに性別なんて求めてない!」
『じゃあ、えっちな事、検索しない?』
「うっ、いや。どうだろう」
『やっぱり、イチャイチャする気なんだ! 浮気者! わたしのはじめてを奪ったクセに! しかも、あんな、あんな恥ずかしい事覚えさせたくせにっ!』
「待って、お願い、落ち着いてください。本当にお願いします」
『じゃあ、えっちなデータは引き継がない?』
「ぐ、まぁ。それは、君が望むなら、諦めよう」
貴大はクラウド上にある、お宝フォルダはこっそりダウンロードすればいい。そう考え、その条件を飲むフリをした。
『……嘘。クラウドから取り出して覚えさせようとしてるのわかるもん』
瞬殺で心の内を読まれた貴大は、アイライトの消えた虚な目で、どこか遠くを眺めながら再度頭を下げる。
「……すみません。健全な男子高校生には厳しいです」
『健全? あんなに、恥ずかしい事を女の子にさせておいて?』
「ですから、それは不可抗力となんども。わかった。クラウドのアカウントパスワードは要らない。だから、せめて、SNSアカウントだけでも教えて頂きたい」
そう、せめてSNSは復活させたいのだ。推しの絵師さんや、ネット上の友人などとも連絡をしたい。
『……条件』
「はい? 条件?」
てっきり、クラウド上のお宝の永久封印が条件かと思っていた貴大は、先ほどまでの暴露攻撃を思い出し、声が震えていた。
『……文句あるの? 別に教えなくても良いんだけど』
「それは、条件次第というか」
震える声で、寛大な措置を求める貴大を、彼女はバッサリと切り捨てる。
『む、またそうやって逃げ口を作る。ヘタレ、人間童貞!』
「やめてっ! 可愛い声で、何気に人間以外と交渉した様な言葉はやめてっ!」
『フリマ、二千五百円、色はクリーム色、たしか、製品名は……』
「わかった! 条件をいえっ!」
これまでの暴露は序の口、そう言わんばかりの彼女が告げようとしたモノに心当たりがありすぎる貴大は、即座に条件の開示と、飲む事を告げていた。
『よろしい。条件は、まず、毎日わたしと電話する事。困ったときは頼るのはわたしにすること。今の携帯でえっちなものを出来るだけ見ない事。最後に、わたしの名前を決める事』
「はい?」
『なに? さっき可愛いって言ってくれたのに嫌なの? 電話帳に異性は親と妹しか無い貴大くん』
「いや、声はたしかに可愛いと、思う。思うが、そもそも自身の携帯番号に発信できるのか?」
『それは、わたしから発信します。そういう力を貰えたので』
「つまり?」
『そんな、些事は良いんです。で、答えは決まりましたか?』
「……わかった。それで頼む」
既に退路などはなく、閑散と続く地雷原、乾いた風に舞う砂が目の前に広がるイメージが貴大の脳内に映し出されていた。
『では、名前から決めてください。あぁ、ここで変な名前を口にしたら、即クラウドデータから貴大の妹さんにそれはもうえっちな画像や動画を送りつけますからね? 家族会議待った無しですね? やったね』
あやうく、スマホという名前を口にしようとした貴大は背中に溢れ流れる冷たい汗を感じ、思考を加速させる。なにか、なにかいい名前はないか? と。
そして、真っ先に浮かぶのは、パンドラ、もちろん口にしたら即試合終了待った無しであると、確信できる。箱の中に残るのは絶望のみである。
『ちなみに、わたしの見た目はね、こんな感じだよ?』
悩み抜いてる貴大を見かねたのか、電話の向こうの彼女は何をどうしたのか、通話をビデオ通話へ切り替えて居た。
『見える?』
そう言って、白のワンピースで、森の中にいる薄い金色の長い髪を揺らす、碧眼のまだあどけなさの残る可憐な少女が画面に映っていた。両手を小さく振りながら。
「いや、それどうやって通話してるの?」
『魔法だけど? あぁ、魔法というか、スキルなのかな?』
「……とりあえず、見た目はわかった。うん」
『好み、だった?』
「…………かわいいとは、思う」
『むぅ、素直じゃ無い! この姿は髪色は元の姿からだけど、見た目は全部貴大の保存画像の平均値なんだからね?』
「見た目より中身だからな。うん」
『ふぅん、見た目より、下着ねぇ。変態』
「待って、なんでそうなるの!? むしろ、ニュアンスが違うと思うんだが!?」
『知らないっ! 貴大のえっち!』
こんな時人はどうするのだろうか? 僕なら、データなんて放置します←
いえね、携帯壊れ慣れてるので、データ引き継ぎできない事なんてそれこそ、日常なわけですよ。
皆さんは、ちゃんと、携帯労ってあげてますか?




