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彼が行きたいと言うから

作者: 尾花となみ

夏のホラー用に何か書こうと思ったら、全然ホラーにならないしお題とも関係ないものが完成しました。

でも書いたので読んでください。

 肝試しとか行きたくない。なんで好んで行くのか分かんない。

 作り物のお化け屋敷だって入りたくないのに、本当にいるかも知れない場所に行くなんてアホだと思う。


「由紀ちゃんも行くよね?」

「はい!」


 元気いっぱい答えた私の腕を美紀が掴んだ。

 小さく首を何度も横に振るその顔に「お前はバカだ」と書いてあった。

 でもさ、仕方ないでしょ。彼が行こうって言ってんだもん。


「へぇー女の子って嫌がる子多いのに由紀ちゃん大丈夫な感じ?」

「そうですねー得意じゃないですけど、大丈夫ですよ!」


 アホくさとは思うけど。


「じゃぁ今週のダブルデートはファミレスで飯食った後その出るって噂のトンネル通って首吊り自殺の名所な」

「はーい! 楽しみでーす」


 ご機嫌で帰って行く彼に大きく手を振って別れる。

 横の美紀にジト目で見られて肩をすくめた。


「ごめんって」

「意味分かんない。なんで肝試し?」

「彼が行きたいって言うからさ」

「最初の予定と違うじゃん」

「臨機応変? そんな感じで」

「なにそれ」

「どうにかなるなるー」


 まだ不満そうな美紀の腕を組むと、美紀はため息ひとつ。

 それが凄く可愛くておかしい。吹き出した私を見て美紀も笑った。


 私由紀と美紀は双子の姉妹だ。一卵性で姿形はそっくり。

 こんなに似ることがあるの? ってぐらいそっくりで、でもみんな私達を識別できる。

 ショートカットの私とロングヘアの美紀だから。


 性格は似てるなって思う時と全然違うなって思う時があるから、双子でもやっぱり別人なんだよね。

 たまによく分からなくなる時もある。私と美紀は本当に別人? 実は同じ人で別人格なだけじゃないのかなって。


 こうやって腕組んだりハグしたり出来るんだから二人いる事は絶対なんだけどね。

 よく分かんない事考えちゃった。私と美紀が姉妹で仲がいい事は確かなんだからどうでもいい事だった。





「へー美紀ちゃんがお姉ちゃんなんだ」

「そうですよ。私の方がしっかりしてるからよく間違えられるんですけど」

「なんでよー私の方がしっかりしてるよ」

「それはない」


 姉妹漫才で彼が笑う。エクボが浮かんでちょっと幼くなる。


「お二人は親友なんですよね?」

「そうそう、親友ってより腐れ縁だけど」

「小学校からずっと一緒なんだ」


 ダブルデートのもう一人の相手はそう言って微笑んだ。

 こっちの人もなかなかのイケメン。彼と同じ様に爽やかだけどどこかニヒルを感じさせる。


「でも本当に大丈夫? 女の子には今回のコースはキツイんじゃない?」

「そうだよ、男でもヒーヒー言うやつ結構いるよ」


 そう言って二人は笑う。

 漏らしそうになったヤツとか、彼女置いて一目散に逃げ出したヤツとかそんな話をする。


「そんなに怖いんですかぁ? でもお二人は全然平気なんですよね? 凄いです!」

「俺達は怖いとか思った事全然ないね」

「もしお化けが出ても俺達が助けてあげるよ!」

「きゃーカッコイイ!」


 1オクターブ高い歓声に美紀が俯いた。ねぇ、変に思われるから肩震わすのやめて。


「じゃぁそろそろ行こうか」

「あ、二人で二千円でいいよ」


 美紀が俯いたまま小さく「えっ」と言う。

 私は隣に座る美紀を押しのけ奥から鞄を取ると財布から二千円払った。


「私も由紀も一人千円以下の注文だった……」


 ボソボソ言う美紀の手を引っ張る。


「ごめんなさい、私達ちょっと化粧室行きますね」

「はいよー」


 レジへ向かった二人を横目で見ながらトイレに入ると盛大に溜め息をつく。


「ごめん」

「勘弁してよー」

「もうだいぶ限界なの」

「だからって今までの努力が泡になるの私はイヤ」

「私だって嫌だけど」

「もうちょっとだって」

「分かってる」


 お互いギュッと抱き合いおデコを合わせる。


「大丈夫かなぁ」

「どうにかなるって」

「うん」


 私達は見つめ合うと笑う。気合い入れないとね!





 ()()と噂のトンネルは割と近い所にある。

 彼の運転する車は少し乱暴だったけど、私は気にしなかった。

 後部座席に座った私達はしっかりと手を繋ぎそれぞれ窓から流れる景色を眺めていた。

 そんなに遅い時間じゃないのに車通りは少ない。

 前も後ろも暗闇。街灯の間隔は遠く、対向車も来る気配はない。


「着いたよ。ちょっと降りてみる?」

「えー怖ーい」


 そう言いながら私と美紀は車から降りた。

 同じ様に降りた彼らの後ろに隠れるように正面のトンネルを見る。


 確かにこれは()()()だ。


 対向車とギリギリすれ違える位の車幅しかない。

 トンネル自体は短く、続く道路を見る事が出来るのに真っ暗なせいで出口がないみたいに見える。


「何か、変な声聞こなかった?」


 美紀が私にしがみついたままそんな事を言った。


「え、やだ、美紀変な事言わないで」

「もしかして美紀ちゃん見えちゃう人?」

「そんなの知らない」


 完全に震える美紀の手を握った。


「ちょっと歩いてみようよ」


 そう言って彼は私達の後ろに周り押してくる。


「えっ、ヤダ」


 美紀が焦った声を出す。私は震える美紀の手を握ったまま歩き出した。


 彼の友人が先頭を歩いた。

 車は来る気配はない。静まり返ったトンネルに私のヒールの音が響く。


 カツーン カツーン


「由紀! なんでヒール履いてきたの!?」


 そんな事言われてもそんな気分だったから。


「山歩くって言ってたのに!」

「でも美紀だって何も言わなかったじゃん」


 ピリピリ怒る美紀にイラッとする。私にしがみついてるクセに何それ。


「まぁまぁ美紀ちゃん。怖いなら俺が支えてあげるよ」


 彼の友人がそう言って美紀に手を伸ばした。


「由紀ちゃんは俺と手繋ぐ?」


 彼は私の背中をそっと撫でた。ゾクッとする。


「……はい」


 私は美紀の手を放すと彼の手を握った。少しカサカサしてる。

 私に逃げられた美紀は彼の友人の服を握っていた。


 そのまま私達は歩いて出口まで行く。途中ハプニングもなく、Uターンして入り口に戻る。


「このトンネルは大した事ないだろ?」

「充分怖いですよ!」

「次行く自殺の名所はさ、マジでやばいよ。実は俺の知り合いもしてるんだよね」

「……え」


 グッタリとした美紀は彼の友人とそのまま後部座席に座り、私は彼に促されるまま助手席に座った。


「でも久々に俺もちょっとドキドキしたよ」

「本当ですかぁ? 全然平気そうでしたよ」

「違う意味でドキドキしちゃったからね」

「えっ、それって……」

「きゃぁ!!」


 良い所で美紀が悲鳴を上げる。


「もう何よ?!」

「あ、あそこ……」


 後部座席から美紀は正面のトンネルを指差した。


 何?


「えっ……」

「なん、だよ……あれ」


 彼と友人の戸惑った声がする。運転席に座る彼を見ると口が開いていた。

 後部座席を振り返ると美紀は俯き、友人は一点を凝視している。


 みんな、何を見てるの?


 もう一度トンネルに視線を戻しても何もない。当然。


「……帰るか」

「え? 次の所に行くんじゃないんですか?」

「いや、そうだけど」


 明らかに動揺してる二人と俯いたまま何も言わない美紀。

 変な汗が吹き出てきた。


「きっと気の所為だよ」

「そうだよな、とりあえず進むか」


 少し冷静さを取り戻した彼がアクセルを踏んだ。

 車が走り出しトンネルを通過する。歩きとは違ってあっという間に出口に近付いた。


『……まって……』


 え?


 何か聞こえた、と思った瞬間車のスピードが加速した。


「えっ!?」


 山道で運転するには無謀なスピードに非難の声を上げると、彼は顔面蒼白だった。


「おい! 今の!?」

「知らねーよ!!」


 取り乱し叫ぶ二人について行けない。


「おいなんでここに来てんだよ!!」

「知らねーよ! 気付いたら来てたんだよ!!」


 車を停めた彼は降りると友人と二人何か言い合っている。

 私は車を降りて後部座席に滑り込み美紀の手を握った。


「きつい」 

「ごめん」

「帰りたい」

「もうちょっとだけ」

「由紀のバカ」

「ごめん」


 さっき迄ギャーギャー騒いでいた二人の声がピタッと止まる。

 静寂が訪れ、車の窓から外を見る。


「あの人達いない」

「連れ去られた?」

「分かんないけど、多分」

「帰れる?」

「うん、帰ろう」


 そう言って私達は車から出る。しっかりと二人手を繋ぐ。


 首吊り自殺の名所と呼ばれる大きな木に何かが2つぶら下がっていた。


 ゆらゆらと、揺れている。


『……ありがとう……』


 気分は良くないけど、あんなクズ共死んで当然だと思う。


「成仏出来るかな?」

「多分? 分かんないよ」

「悪霊にならない?」

「……なら私が祓う」


 言ってからバカだなって思った。

 祓うなら最初から復讐なんてさせないで祓っちゃえば良かったんだ。


「由紀は優しいから」

「クズ男は死ねばいい」

「……そうだね」


 何が肝試しよ。何が自殺の名所よ。自殺する程追い詰められた人の思いも知らないで。

 だから自分達も死んでみたらいいんだ。


「よく我慢したね」

「……それは美紀でしょ」

「いや、由紀が。いつ殴らないか心配してた」

「それは、確かにめちゃくちゃ我慢した!」

「だよねー」


 いつもの調子が戻って来たのか美紀が笑う。私はホッとして抱きついておデコを合わせる。


「本当にごめんね」

「なんとかなったから良いよ」


 霊が見える美紀と。見えないけど祓える私と。

 本当は二人で一つの筈だったのかな。なんで私達はお母さんのお腹の中で分かれちゃったんだろう。


「で、どうやって帰るの?」

「ん?」

「車の免許持ってないよ」

「当然じゃん」

「だからどうやって帰るか聞いてんの」

「え、歩いて?」

「は?! バカじゃないの? 考えてなかったの?」

「え、美紀だって何も言わなかったじゃん!」

「由紀は歩くつもりだったのにヒール履いてきた訳?!」

「あっ……」


 言われて改めて自分の足元を見る。お気に入りのパンプスが泥まみれだった。


「美紀〜」

「本当にそう言う所だよ!」


 美紀にしがみつくと歩き出す。大木はもう目に入らなかった。

 ただ、その横で何かが光った気がした。


 美紀が頷いて、私も頷く。


 本当はもうちょっと違う復讐させてあげたかったけど、彼女が満足そうだったからいいかな。

 地獄とか天国とか分かんないし、生まれ変わりとか知らないけど、出来れば新しい人生ではクズ男達に騙されないで幸せになってね!



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