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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

オジサンとコドモ

作者: 茅野 秋人

????????

むかーしむかーし。


とっても昔のおはなし。


あるところに、やさしいオジサンと、どこかおかしなコドモがいました。


ある日の晩、オジサンはコドモに言いました。


「今日は、とっても怖いオバケがでるから、絶対にでてはいけないよ。」


「はーい。」


コドモは、素直に返事をしました。


そして、コドモは言いつけを守り、その夜は、お家から出ませんでした。


次の日から、オジサンは、夜にお出かけするようになりました。


コドモはオジサンに、


「ついて行きたい」


と駄々をこねるようになりました。


それでも、オジサンは、


「夜は危ないから、出ていったりしてはいけないよ。」


と言い聞かせました。


でも、コドモはオジサンと一緒に居たいです。


「そうだ!」


ある日の晩、オジサンがお出かけに行ったあと、コドモはこっそりついて行きました。


オジサンは迷路のような道を、迷うことなく歩いていきました。


コドモも、それについて行きます。


「(どこまでいっちゃうんだろう……)」


コドモは不安になりました。


その時です。


コドモの後ろから、怖いお兄さんがやって来ました。


「おい、ガキ。こんなところで、何してる」


まっくろなサングラスをかけたお兄さんは、怖い顔をして言いました。


「うわぁん、たすけてオジサン」


コドモは泣きました。


すると、その声を聞いたオジサンは、直ぐにやって来ました。


「大丈夫?」


やさしいオジサンは言いました。


でも、怖いお兄さんが、もっと怖い声を出して、こう言いました。


「ここら辺は治安が悪いからよ、お前らみたいなやつはスグ死ぬのさ」


お兄さんは、するどいナイフを手に持ちました。


「うわぁん!」


こわい声をきいて、コドモはオジサンの後ろに隠れました。


そして─────



パァン!パァン!!


夜天の住宅街に、銃声が鳴り響く。

空気に混じる、鉄と硝煙の匂い。それは、オジサンの持った拳銃───ワルサーP38。その拳銃から発せられた匂いだ。


それから発砲された真鍮の弾丸は、稲妻の如く、吸い込まれるようにしてお兄さんの眉間へと進む。

もう一度、殺意を持って引かれた引き金。それは、確実なる死を持って、胸の中心──心臓へと。弾丸は走る。植物人間という、万が一という奇跡すらも、その真鍮の死神は殺した。


赤い血潮が道路を濡らす。

驚くほど鮮やかで……美しくて……。そんな血潮が、お兄さんの身体から溢れている。


オジサンの拳銃の腕前は、惚れ惚れするほどの高みにある。目測を超えた早撃ちと、それでも誤差1mmもない正確かつ精密な狙い撃ち。プロの殺し屋だと一目でわかった。


お兄さんの身体が舞う。

壊れたあやつり人形のような。下手くそなサーカスのよに。尋常ではない血が、更に道路を“赤”に染め上げる。

まるで、伝統工芸のような鮮やかさだ。

人体から吹き出る、死色の赤に、僕は異常なほどの興奮を得た。

頬がほんの少し、朱色に染まる。口角と目じりが釣り上がる。


ドン、とお兄さんの身体が地面に倒れた。

その音が鼓膜に響き、僕の正気がもう一度舞い戻る。


ハッとした瞬間に、僕はオジサンの顔を見た。

普段は見せないような、冷徹な顔。氷をそのまま人にしたような冷たい(まなこ)

その眼差しは僕を捉えて、観察していた。


すると、オジサンは拳銃を僕の方へと、ゆっくりと狙いを定めた。鉄製のライフリングと、ブラックホールのような銃口が、僕の目の前に突きつけられた。

きっと、逃げようとしても、持ち前の早撃ちで数発、頭と心臓を撃ち抜くだろう。


オジサンは、冷ややかな声で、言った。


「今死ぬか、“組織”に入るか。選べ」


それは、僕にとっては、後にも先にも人生の分岐点であり──選ぶ道が、ひとつでしかない選択だった。

これは恐怖から出た答えではなく……例えるのなら、正義の味方の勧誘に乗る、無邪気で無垢な子供の答え。

“組織”に入れば、どんな困難が待ち受けているのだろうか。僕は、それを考えるまもなく、ただ一言、


「“組織”に入りたいです」


と、敷き詰められた鋭い針の道を選んだ。

すると、オジサンは、拳銃を下ろした。拳銃の銀が線を描く。


そして、言った。


「そうか……。そうか……。」


二言目の言葉には、僕にだけわかる程の“温かさ”があった。それは、決して確実に言ったという保証はどこにもない。だが。僕は、そう言ったと確信できる。


“組織”という、底無しの沼。

少しでも足を踏み外せば、立ち待ち僕は死ぬだろう。

僕の決断は、首から下全てを沼まで浸からせる事と同じだ。一方通行で、今にも壊れそうな道を、沼に浸かったまま僕は歩むことになる。


「……これを渡しておく。死ぬなよ。絶対に、だ。」


胸ポケットから出された拳銃。

その名はH&K USP。ドイツ製の自動拳銃。

漆黒に塗られたその拳銃は、新たな主人を待つかのように、月明かりに照らされ、輝いていた。


「弾は入ってる。使い方は組織についたら教えよう。ついてこい。」


くるり、と踵を返して、オジサンは一歩を進める。

その背中は大きく、優雅で、そして、尊敬の念を、僕の心から引き摺りだした。

黒いコートが風で靡く。

その姿は偉大で。美しく────。


「……?どうした、速くこい」


思わず、見蕩れていた。

そんな事を言う訳にはいかず、僕は黙って歩みを進める。

拳銃を右のポケットに入れて、僕はオジサンに向かって手を差し伸べた。


また、あの時のように。

ギュッと握られた手は、大きく、優しく──暖かい。


「……」


言葉は、もう必要ない。

夜天光が僕の……いや、僕達の道を照らし、祝福する。






私は、今もう、この道を歩むことは出来なくなった。

齢82。病におかされたこの身体はもう、死へと刻一刻と歩みだしている。あと数年後に死ぬのだろうか。または、数ヶ月後か。もしかすると、数日後かもしれない。


私の手は、血に濡れている。子供の頃、あれほど鮮やかで、美しいと思っていた鮮血は、今となってはただの“赤”だ。絵の具を水に溶かした物と同価値の色だ。


ああ、そういえば、いつだったか……。

幸せな記憶はとうに色褪せ、消えていった。

だが。まだ、私の脳髄は生きている。


恩師であり恩人である、彼の名を、この脳髄は知っている。

彼と出会った日のことを、この脳髄は永遠と忘れまい。


手元に置いてある、H&K USPを手に取る。最初で最後に選んだ拳銃だ。手に取れば、あの日々が脳裏に浮かぶ。


欲望に負けた仲間を撃ち殺し、かつての同胞の亡骸に泣く。黒く欲望に塗れた、暗黒の日々。この道を歩んだ事実は、覚悟として、僕の味方をする。


彼は、私のせいで死んでしまった。

才能の蕾が開花したことで、私は調子に乗り続けていた。即ち、油断。油断をしていた私を、彼が庇って死んでしまった。

私がいる間は、もう二度と仲間を死なせない。


そう誓って。殺して。殺して。殺して。殺して───。


“組織”は、一種の革命を起こそうとした。

だが、その革命は直ぐに鎮圧され、“組織”は死んだ。

私はもう“組織”の連中ではない。

どれだけ叫ぼうと。どれだけ後悔しようと。


もう、あの頃には戻れない。


水性絵の具のように、塗り終わったキャンパスは、もう白紙には戻れない。後戻りは出来ないのだ。


人は、皆水性だ。

ほかの色と混ざり。より美しくなるものもあれば、より醜くなるものもある。


私はもう、“組織”の幹部ではない。


ただただ死をまつ、哀れな老人だ。


愛銃のスライドを引く。


こめかみにそれを当てる。


セーフティレバーはもう回してある。


引き金を引けば。この長い人生が終わる。


「─────ありがとう。」


その一言は、誰に向けた訳でもない。


人生の出会った全てに向けたものでもある。


これから死にゆく自分に向けたものでもある。


そして。


天国にいる、彼に向けたものでもある。


もう迷いはない。


もう救いもない。



ならば、僕は───────







引き金を引いた。

ガバガバ銃知識で許してください!

なんでもするとは言ってない

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