第6の不思議︰呪われネットワーク-09
月曜日。兎和が部のグループにメッセージを流してきた。小田泰成についてだ。
兎和︰調べてみたけど、暴れたりで目立ってたわりにこれといった話はないみたい。親しい人が本当に少ないらしくて。ただ、中学の途中からは金髪のヤンキーと見るからにギャルと三人でよく行動してたみたい。その二人も誰か解らないけど、たぶん星高には来てない。
オレは何か気の利いたジョークで返そうかと思ったけれど、もう二度と冗談は言わないと誓ったことを思い出した。
オレ︰ありがとう
兎和︰いつもみたいに余計なこと言わないの? アカウント乗っ取られた?
オレ︰重要情報ありがとう。これで明日からはなんの心配もなくやってけそうだ。
兎和︰
宮華︰
オレ︰空白で返すのやめて。そっちが期待したんだろ。あと、宮華はしれっと混ざらないように。
兎和︰怒
宮華︰怒
そんなわけで、非常になごやかな雰囲気でオレたちは火曜の放課後を迎えた。
その日はみんな、早々に集まった。圭人と兎和も生徒会があったけど、遅れていくことにしてこっちに来てる。
落ち着かない不安そうな緊張感が部室に漂っている。いつも以上に会話は少なく、何をしていてもどこか上の空だ。
普段ならたんに初対面だってだけじゃそれほど緊張しないオレも、なんだかふわふわした感じで少し鼓動が早い。
やがて、廊下の遠くから足音が聞こえてきた。いよいよ空気が張り詰める。足音はそんなこちらを焦らすようにゆっくりと、ときどき立ち止まりながら着実に近づいてくる。やがて、何時間も経ったかと思うくらいの時間が過ぎて、とうとう足音は部室のドアの前で止まった。ややあって、ドアがノックされる。
「どうぞ」
つい、即座に返事をしてしまう。
「こんにちは」
ドアを開け、背の高いがっしりした体格の男子が入ってくる。小田泰成だ。
小田くんはボサっとした髪に角張った顔立ち。眉も目鼻も口も大きくてハッキリしていて、なかなか濃い顔だ。その顔はときどき見かけたときと同じで、どこかぼんやりしている。
「俺、小田泰成です。郷土史研究会に入部するように言われて」
オレは浅めの深呼吸。とにかく他のヤツと同じように接することだけを自分に言い聞かせてきたんだ。やっぱり一人だけ目の前で態度を変えられると、嫌な気分だろうから。
だから、そうするためのちょっとした心構えだ。
「話は聞いてる。えっと、ようこそ。オレは部長の長屋一路。で、こっちは──」
オレは端から順に部員の名前を紹介していく。言われたヤツは会釈する。
「とまあ、そんな感じ。あー。じゃあ、圭人と兎和さんは生徒会に行くんだよな?」
「ああ。小田くん、僕と兎和は生徒会もやってるから他の人ほど会えないかもしれないけれど、よろしく」
そして二人は出て行った。
「他のみんなもありがとう。後はいつもどおりで」
日下さんはそれを合図に椅子に座ると、スタンバイモードに入った。宮華は何やらノートを広げ、湯川さんはこちらを気にしながらスマホを取り出す。霧島さんは豪勢にタブレットだ。あいつあんなもの持ってたのか……。イヤホン着けてやたら周りから画面見られないよう警戒してるけど、Youtube用の動画の編集でもやってるんだろうか。
「えっと、自己紹介とかは……?」
「え?」
「え?」
無言で数秒、見つめ合うオレと小田くん。
「あ、そうか。ごめん。今まで誰もやってこなかったから、思いもしなかった。あー。やる?」
「いや、いい」
そこで会話が途切れ、オレは焦りそうになる自分を抑える。
「それで、俺は何をしたら」
「それなんだけど、ウチの部は開始も終わりも特になくて、放課後なんとなく来たいヤツが集まるんだ。まあ、オレは部長だしヒマだからたいてい来てる。で、普段やることは特にない。みんな好きに過ごしてる。文化祭のときに部誌は作ったけど、全員それまで郷土史なんて触れたこともないようなメンバーでも調べながらどうにかなったから、まあ大丈夫じゃないか? 次の予定も未定だし。ちなみにオレは読書したりスマホいじったり、あと教室のあそこの棚に鶴乃谷の郷土史関係の本が色々あるから、たまにそれ眺めたりするくらいだ」
するとなぜか小田くんはもの凄くニッコニコになった。そりゃあもう、ご機嫌を絵に描いたような顔だ。
「なんだ! そうだったのか。いや、俺、郷土史なんて全然知らないし、どうしようかと思ってたんだ! いやぁ、良かった良かった。なぁ?」
「ああ、うん」
突然の変化にかなりドン引きしながら、オレは相づちを打つ。やっぱり小田くん、かなり情緒不安定なんじゃあ……。
「それにしても困った。特に何も用意してない」
いきなり満面の笑顔を引っ込めると、素に戻って感情のない声で言う。
「あー。んー。スマホでもあれば……あ、せっかくだから今日は部誌でも読んだらどうだ」
オレは部誌のアドレスをLINEで送ろうとして連絡先が解らないことに気付く。あらためて連絡先交換してグループにも招待し、部誌のページを教える。
「本じゃ、ないのか」
小田くんはスマホで部誌を見て呟く。
「紙の本作るの面倒だし、特にそうしたいヤツもいなかったから。それで、明日からは適当に何かやるもの持ってきてくれ。あとさっきも言ったけどウチの部は自由参加だから、適当に来て、自分でいつ帰るかも決めていい。来なくてもいいけど、小田くんの場合はちゃんと顔出すように言われてるんじゃないか?」
さっそく読もうと画面をタップしかけた手を止めて、小田くんはうなずく。
「最低、週に三日は行くように言われてる。あと、泰成でいい」
「じゃあ、泰成くんで」
こうして小田くんあらため泰成くんの部活が始まった。オレもこれで読書ができる。
泰成くんは途中で一度、何がおかしかったのか爆笑しだしてこっちが不安になったけど、それ以外はおとなしく部誌を読んでいた。湯川さんと日下さんが帰ったあたりで読み終える。
「どうだった?」
「知らないことが多くて面白かった。でも、みんなどうやって?」
「ああ、そこらの郷土史の本を見て、興味持ったことをさらに他の本を調べたりとか、人に話を聞くとかしてまとめる。レポートの宿題みたいなもんだ」
「そうか」
それから少しして、泰成くんは帰っていった。




