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病的に人見知りな幼なじみと七不思議を創ります。  作者: ナカネグロ
第6の不思議︰呪われネットワーク
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第6の不思議︰呪われネットワーク-08

 部室に戻ると、いつの間にか湯川さんと圭人も来ていた。これでフルメンバーだ。

 オレはみんなに、さっきの出来事を話した。小田泰成おだたいせいって名前に最初はピンと来てなかった宮華や日下さんも、オレがどんなヤツなのか説明すると不安そうになった。


「──というわけなんだ。みんなの意見を聞きたい」


 沈黙。もっとすぐにみんなオレをののしったり、反対してくるかと思ったのに。


「私は部員じゃないから賛成も反対もできないけど」


 最初に口を開いたのは兎和だった。


「長屋くんが帯洲先生を見て判断したことなら、それは間違ってないと思う」

「? どういうことだ?」

「これは確かな筋から聞いた話なんだけれど、この頃、帯洲先生が困ったこと言い出したら長屋くん呼んでくるようにしてはどうかって、そういう話が出てるらしいの。先生たちの間で。そもそもしばらく前から先生たち、長屋くんのこと“帯洲テイマーの彼”って呼んでるし」

「ふぁっ!?」


 驚いて思わず声が出た。するとオヒョオッ、とか変な音が聞こえたのでそちらを見ると、宮華が手で口を押さえ、体を震わせ、全力で笑うのをこらえていた。


「あの、それ、本当なのか?」

「私が冗談でこんなこと言うと思う?」

「いや、そういう意味じゃなくて」

「確かな話よ。とにかく、机並べてる同僚から認められるくらい、長屋くんは帯洲先生を熟知してる。その知識をベースにした判断なんだから、私は正しいんだろうと思うの」

「帯洲先生の有識者……」


 ひとこと呟き、宮華はまた笑いの波に呑まれる。


 湯川さんがスーッと息を吸ってから言った。


「あの、ちょっとすみません。あの。単純に仲井真先生は帯洲先生の判断の根拠を言えないって言ったんですよね? あのだから、つまり、その、それってそれなりの根拠があるってとこじゃないですか? えと、はい」

「僕も湯川さんと同意見だ。部費じゃなく、内申点を上げるって条件も筋がいい」


 圭人がうなずく。


「日下さんは?」

「仲井真先生が単純に問題児を押し付けるだけみたいなこと、しないと思ってる」


 どうやったら日下さんの好感度をここまで上げられるのか、仲井真先生にはぜひ教えてもらいたい。あれだろうか。紐から吊るした五円玉が関係してるんだろうか。


「私は、別に」


 霧島さんが肩をすくめる。


「ヤバそうなら放送部にだけ……行けばいいから。さすがに……事情話せば納得してくれるだろうし……、なんなら……小田くんが入るって知ったら……もうこっち行かないように言われる、かも、でしょ?」

「あー。まあ、あいつら霧島さんに激甘だからな」

「そんなこと……ない」

「いや。霧島さんは一度、自分がどれだけ甘やかされてる箱入り娘かよく考えたほうがいい。それが当たり前になったら、高校出てからキツいぞ」

「まさに今……長屋くんの方が口うるさい母親みたい……でしょ?」


 そしてみんな、ようやく笑いの発作が治まった宮華を見る。宮華は視線に気づくと、呆れたように言った。


「イチロ、本当に帯洲先生のこと好きだよね」

「どこをどう取ったらそうなるんだ」

「だって、帯洲先生のこと、さんざんクズだの我欲の獣だの言ってるじゃない」


 ……我欲の獣? どっから出てきたんだそんなフレーズ。


「もしそれで本当に嫌なら、こんなに付き合ったりしないでしょ」

「なにも好きで関わってるわけじゃない」

「そう? それでもかなり興味があるみたいだけど?」


 オレは一瞬、帯洲先生の各種SNSアカウントを追ってるのがバレてるのかと不安になった。そんなはずはない。そもそもアレは学校で一応教師ヅラしてる帯洲先生がプライベートではっちゃけリア充ぶってるのが面白いからで、帯洲先生本人への興味で見てるわけじゃない。


「まあ、それはどうでもいいとして。とにかく私は反対。新しい人が来るってだけでかなり大変なのに、それが薬物やってるはデマにしても、そんなに情緒不安定な人間だなんて。みんなも、別に積極的に歓迎したいわけじゃないんでしょ。イチロだって。そもそも報酬が出るにしても、なんで引き受けたりなんてしたの? 先生たちに流されただけじゃない? いつもみたいに」


 オレは反論しようと口を開き、閉じた。反論できないってこと自体が宮華に流されてるってことなんじゃないかとも思ったけど、このあたり考え出すと自分の意思とは? みたいな泥沼にハマるのでとりあえず無視。


「どうしたの?」


 煽る宮華。オレは説得力だの正しさだの解りやすさだのを諦めた。そういうことを考えようとするから言葉が出てこないんだ。オレはあの時あの場で先生たちの要望を受けたときに自分が考えたこと、感じたこと、その一瞬の時間を拡大して言葉にしていく。


「そもそもは、話を聞いてるうち最初に感じだほどヤバいことにはならなそうだと思ったんだ。で、じゃあ何なんだろう、と。先生たちはオレたちに何を期待してるのか。なんで入部させようと思ったのか。入部させたらどうなるのか、ああ、オレたちも小田くんも、お体外に。っていうか小田くんって本当はどんな人間なんだ? ただのヤバイやつがウチの入試に通るか? 先生たちがこんな無茶な交渉持ちかけてくるほどの何があるんだ? そう。気になったんだよ。“私、気になります”ってやつだ。見てみたくなった。知りたくなった。それに、意外とリスク低そうってあそこまで匂わされた上で断るのは難しかった。オレには」


 意識が反転して宮華へ向かう。


「オレの個人的な理由はそんなところだ。なあ、付き合ってくれたっていいだろ。宮華だって自分から望んだわけじゃなくても、今の部員みんな結局は入ってくれてよかったと思うだろ? 人見知りも秒速5センチメートルくらいのペースで軽くなってきたろ? ここらで一発キツめのチャレンジしてみてもいいんじゃないか? ダメなら先生たち恨みながら部を解散しよう。それでもここまで来てたら、あとは大丈夫だ」


 ふう。思ったより喋れた。オレのダラダラした考えを浴びせられて、宮華はどうリアクションすればいいか解らないって様子だ。

 思ったことを本当にまるっとそのまま無加工で相手にぶん投げるなんていつぶりだろう。なかなかスッキリするな。


 宮華は少しのあいだ天井を見上げ、それから頭を軽く左右に振ってオレを見た。


「私を説得する気ゼロで驚いたけど、イチロが何を考えてたのかは解った。でも、それだけ。反対する気を変えようとは思わない」

「そもそもなんだけれど」


 オレたちのやり取りを眺めてた兎和が言った。


「宮華さんて誰かが新しく入部するときに賛成だったことってあるの?」

「え? いや、それは……」


 後ろめたそうにみんなの顔へ視線を走らせる宮華。


「これまで毎回、他にどうしようもなかったり、成り行きで受け入れてきたんじゃないの? 入部前の時点では」


 宮華は答えない。肯定するのは気まずいけれど、否定が嘘なことくらい、ここにいるみんなが知ってる。ただそれは宮華が重度の人見知りだからだってことをみんな知ってるし、それを踏まえたうえでそれぞれが宮華との関係を作ってきた。

 だから宮華が兎和の質問に“そうだ”って答えても、誰も気にしない。宮華本人以外は。


「でも、みんなはキレて暴れたりする人じゃないでしょ」


 兎和に答えることなく、宮華は話を進める。


「あら。今さっき小田くんは噂ほど危ない人間じゃないんじゃないか、そう結論が出たと思ったんだけれど。それとも宮華さんは別意見なの? もしそうならどんな意見か聞かせて。もっとも、長屋くんの報告から他に説得力のある予測を立てるのは難しいと思うけれど。逆に私たちと同意見なら、あなたは危険人物が入ってくるなんて思ってもいないのにそう主張してることになるわね」


 宮華は答えられなくなる。


 いやまあ、宮華の気持ちは解る。ようは単純に人見知りが辛いし、暴れて停学になったりするようなやつに来て欲しくない。それだけだ。オレだって他のみんなだって、そういう気持ちはある。

 ただ、“ワンチャンそんなに酷くない可能性ありそう”という見込みがあるから先生たちと対立して拒否するより、受け入れることを選ぼうとしてるだけだ。


 正直、兎和が指摘したようなことはオレも思ってた。……本当だぞ!? なんなら他の部員も思ってたんじゃないか。ただそれを指摘しなかったのは、宮華の気持ちも解るからだ。

 けれど兎和はそんなこと気にもしないで宮華を理屈で追い詰めた。兎和なりに意図はあるんだろうけど、なかなかエグいことをする。


 しばらくして、宮華はしぶしぶ、本当にしぶしぶという感じでうなずいた。


「解った。でもせめて、年度内は仮入部ってことにして欲しい。それでもしその期間中に問題を起こしたり、来年度のときに私たちや本人が続けたくないって判断したら退部させる」

「そうね。仮入部はいい考えね」


 兎和も同意する。結局、宮華としては納得はしてないけど説得はされた。そういうことなんだろう。理詰めで反論できなくなって、そうするしかなくなったというか。


「一つ、いいか? 僕が言うのは気まずいんだけど、僕が言うべきだろうから」


 今度は圭人だ。


「小田くんには最初に、宮華さんたちの人見知りのこととか、説明しておいた方がいい」


 圭人、最初それでしくじったもんな。


「確かに郷土史研究会は先に知っておいたほうがスムーズなこと、多いものね。じゃあそれは私がまとめるわ。部外者のほうが冷静にまとめられるでしょ。夜には長屋くんに送るから、それを帯洲先生経由で……。日下さん、仲井真先生の連絡先知ってる?」

「知ってるけど?」

「じゃあ、まとめたもの夜には送るから、仲井真先生経由で小田くんに共有してもらって」

「解った」


 たしかに、その方が早いし確実だろう。帯洲先生の場合は自分のこと優先して、平気で忘れかねない。


「ああそれと。日下さんは知ってるかもしれないけど、仲井真先生、結婚指輪してるけど奥さんとはずいぶん前に死別してるから」

「えっ?」


 見たことないくらい動揺する日下さん。


「え? な、なな、なんでそんなこと今、私に?」

「さあ。なんでかしらね。なんとなく?」


 ホント、なんでなんだよ。こんな、ついでみたいな感じで意味もなく日下さんをここまで揺さぶるなんて。兎和様絶好調すぎるだろ。強キャラ感すごい。


「じゃあ、火曜はできるだけみんな部活に来るようにしましょう。私も行くようにするから」


 なぜか終盤は兎和が仕切って、その日の部活は終わった。特に違和感はない。生まれながらの全環境対応型にして万能属性、通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のリーダー。それが鶴乃谷兎和だ。


 ああ、永久に火曜日が来なければいいのに。オレたちのエンドレスエイトが始まったりしないかな……。

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