第6の不思議︰呪われネットワーク-05
二人のいい雰囲気に割って入るのは気が引けるけど、オレは話を進めた。
「残るはやっぱり電話番号か……」
「そのことなんだけど、そこに書いたみたいに原田さんがいいと思う。もともとこの話考えたとき、思い浮かべてたの完全に原田さんだったから……。よく知らないけど原田さんなら怖がるより喜ぶだろうし、周りに話すだろうし、最後まで付き合うだろうし、拡散力もあるし。とにかくピッタリ」
「それで突然原田さんの名前が出てきたのか。その、悪かったな。ちゃんと理由聞かなくて。けど、そんな上手く行くのか?」
「あ、うーん。オカルト好きにも色々と種類があるんだけどね」
宮華の説明によると、オカルト好きの中にはガチで信じるタイプから湯川さんみたいに信じたくて色々と調べて、結局疑わしいところを見つけてしまうタイプ、ネタとして愛するタイプ、他にも資料収集に命を燃やしたり、検証することが好きだったり、まあ他の趣味と同じでいろんな種類の人がいる。
あくまで湯川さんから聞いて宮華が判断したところだと、原田さんは本気で信じるわけじゃないけど、面白がったりワクワクする気持ちが強く、深く掘るよりは広く話題を追いかけたいタイプ、らしい。
ライトじゃないけど、コアでディープでもない。ややガチ寄りのエンジョイ勢みたいなもんか。
「というわけで、原田さんなら絶対周りに喋ると思う。あの手の人にとって、実害ない限り自分がそういう体験するのって、最高にテンション上がることだから」
「宮華の予想が確かなら、ターゲットにピッタリだな。それで、原田さんの電話番号って……湯川さん、か? どうなんだろうな」
親しくても電話番号知らない可能性は高い。
「それはダメ」
真剣な表情で宮華はきっぱり拒否した。
「湯川さんは巻き込みたくない。本人があんまりこっちには関わりたくないって言ってたから」
宮華は浅く眉を立て、必要ならどんなことでもしそうな、そんな顔をしていた。目に込められた意志がオレをその場に縫い付けるみたいだ。
「そうか。だよなぁ」
オレの同意に宮華は表情を戻す。
「兎和さんは? 原田さんたちがオカルト部作るとかやってたときに聞いてるかも」
そう、日下さんが言った。オレは首を横に振る。
「その可能性はあるけど、兎和さんを頼るのは最後の手段にしたい」
「そうね。もし知ってたとして、教えてくれるかどうか。それどころか、止められるかもしれないし、前みたいに主導権を握られるかもしれない。悪気はないんだろうけど、そういう人だから」
日下さん自身も言ってはみたもののオレたちと同意見だったらしく、それ以上は何も言わなかった。
「オレも向いてそうな知り合い自体は思い浮かぶけど、LINEしか知らないんだよな。怪しまれずに電話番号教えてもらう方法が……。ま、電話番号のことはまた考えるとして、あとは……そんなところか?」
オレは二人を見る。
「そうだ。霧島さん、どうするの? たまに様子がおかしいし、いつまでもこのままじゃいられないと思うんだけど」
「ああ、あれな」
オレは思わず苦い顔をする。
霧島さんはたまに部活に来てオレたちに混じってダラダラして適当に帰るんだけど、たまにスイッチが入る。破滅願望スイッチが。
そうなると目は潤み、頬は上気して紅く染まり、悩ましげな息遣いを漏らしつつ思考が自分の破滅と、そこから得られるだろう絶頂に支配されてしまう。
一応、霧島さんがオレたちに疑惑があることをバラしてもこちらは報復なんかしないと伝えることで最初は抑え込めていた。
けれど先日。霧島さんは恍惚とした口調で言いやがったのだ。
“考えたんだけど、もしあのYoutuberが私だったとして、配信中に七不思議のことバラしたら多分そこから私も身バレもするし、バラした内容で注目もされるし、つまり私だけでも炎上はできるんじゃ……”
なんという自家発電。そんな一緒に地獄に落ちましょう的なことを口走られたときのオレの気持ちをみんなよく考えてほしい。
幸い、あのときはすぐに我に返った霧島さんが“もちろんあのYoutuberは私じゃないから、そんなことできないけど”と言ってくれたので助かった。
もしあのままアッチにイきっぱなしだったら、“ちょっとトイレ”とか言って席を外し、トイレの中から衝撃の告発ゲリラ配信をやりかねない雰囲気だった。
「霧島さんのあれがなんなのか、イチロから聞いて知ってはいるけど……」
「私たちに被害が出るから困る」
「うーん。でもなぁ。いったいどうすればいいんだか」
「破滅願望と、社会的に死にたくない気持ち」
言いながら宮華は手の平を上に向け、右手と左手を軽く上げる。
「今は揺れながらバランスが取れてる」
言いながら左右の手を小さく上げ下げする。
「でも、バランスが崩れると──」
左手を下げ、右手を上げる。宮華は自分でその右手を見詰めると、言った。
「つまり、私たちとは無関係で破滅願望がもっと満たせるネタがあればいい」
「そっちかよ!?」
オレのツッコミに宮華は手をもとに戻す。
「社会的にまだ死にたくないってもっと思わせる方法ある?」
「じゃあ、宮華が言うようなネタはあるのか?」
「……たしかに、ないけど」
不服そうに答える。
「とにかく、だな」
「あ、そうだ。イチロがスマホにエゲツないロリコンの写真、はさすがにダメだからイラストをたくさん保存してバレてみせるのはどう? それで霧島さんに社会的に破滅した人の末路を見せてああはなりたくないって強く思わせる」
頭痛がしてきた。普通なら冗談だと思うところだけど、宮華の場合は7割くらい本気なんだよな。反対されれば諦めるけど、採用されたらそれはそれで構わない。そんな温度感だ。
「まず、ロリコンじゃなくて宮華が言いたいのはロリな。ロリコンの画像だと、おおむね成人男性の画像ばっかりになるぞ」
「やけに詳しいじゃない」
「いや普通だろ。それはさておき。じゃあ何か? オレに犠牲になれと?」
「一人の犠牲で他のみんなが助かるでしょ。ちゃんと社会的命日には朝早くに登校して一輪挿しに活けた花を机に供えてあげるから」
「それ、登校してきたオレが見て絶望するやつだろ。単純にイジメだぞ」
「その頃にはもう居辛くて転校してる想定だから」
「そしたらその花見るの無関係のヤツじゃねえか。余計たち悪いわ。いやそうじゃなくて。それはどうでもいい。とにかくオレを破滅させるな」
「ねえ」
日下さんに呼びかけられる。
「ん?」
「考えるだけで面倒で死にそうなんだけど、いっそ仲間にするってどう?」
「どういうことだ?」
「いま霧島さんの背負ってるリスクって、黒歴史な配信やってるYoutuberだってバレることくらいでしょ? それって恥ずかしいけど、言ってみればそれだけじゃない。けど私たちの仲間になって一緒に活動してバレたら、恥ずかしいどころじゃない。それくらいのリスクだとさすがに我慢できるんじゃない?」
オレと宮華は日下さんの提案について検討する。
「うーん。でもその場合、たとえば良心の痛みに耐えられない、みたいな感じで内部告発配信されたら終わりじゃない?」
「あー。いや、待った。それだと日下さんは一人だけ破滅どころか助かる可能性がある。そうなれば大騒ぎにはなるけど、肉よ……欲望は満たされない」
危ない。さすがに女子相手に肉欲とか言うには、オレは清楚ぎる。
「じゃあ、試してみる? ……あれ? でも告発とかじゃなくて、Twitterとかで見かけるバカみたいに、霧島さんが悪いって少しも思ってなくて、むしろちょっと自慢とか身内ウケみたいなノリで暴露配信したらどう?」
「炎上どころか大爆発。オレたち全員消し炭ならまだマシ。カケラも残らないくらいのことになる」
オレたち三人はお互いに顔を見合わせる。冷や汗出てきた。
「この件はもう少し検討しよう」
「せっかく日下さんが提案してくれたけど」「むしろ、私の方で取り下げる」
「いやでも、これはこれであとひと工夫すれば使えそうだから、ボツではないな」
こうして霧島さんの件も電話番号のことと同じく、結論は持ち越しとなった。宮華は別の話も考えてみるって言い出すし、まさか“適当なヤツの電話番号が解んないから”で詰みかけるなんて、思ってもみなかった。
それにしても霧島さん、本当にどうしよう。




