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病的に人見知りな幼なじみと七不思議を創ります。  作者: ナカネグロ
第6の不思議︰呪われネットワーク
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第6の不思議︰呪われネットワーク-02

 返事を諦めかけたとき、ようやく日下さんが口を開いた。


「たぶん……」

「たぶん?」

「長屋くんは……何を一番大切だと思うかが問題なんだと思う」

「問題?」

「あ、問題じゃないけど。ポイント、かな。先のこととか気にしないで今、目の前をなるべくモメたりしないで乗り切れるかどうか、で判断してそう。いきあたりばったりの出たとこ勝負。だから余計に流されるしかなくなってくんじゃないかな」


 オレは日下さんの言ったことについてじっくり考える。


「つまりオレは臨機応変に対応する能力が高すぎる。そのせいで、状況をコントロールするよりも、流れに乗ってしまいやすい。それがオレの流されやすさに影響してる。そういうことか」


 今日イチで嫌そうな顔をする日下さん。


「ああ、その。まあ……微妙に間違ってないところがまた……」


 不満そうに呟く日下さん。オレはこの一年を思い返してみた。七不思議のこと、峰山さんのこと、ついでに紳士同盟のこと。


「どっちかって言うと、目の前のことに対処するので精一杯だっただけだな。いちいち先のこと考える余裕なんてなかった」

「かもね。私は別に、自分が正しいって言いたいわけじゃないから。もういい?」

「ああ。ありがとう」


 結局のところ、オレはどうなんだろう。高校入ってから……変わったけど変わってない。確かにそれが一番しっくり来る。いや、それは日下さんの意見に流されてるだけなんだろうか。

 いずれにしても流された結果が今のこの状況なら、悪くない所に流れ着いたんだと思えるんだけどなぁ。


「にしても意外だな。日下さんがオレのこと考えたりするなんて。少し驚いた」


 すると日下さんは軽く目を逸らし、言った。


「スクールカウンセラーの先生も言ってた。他人に目が向くのはいい兆候だって」

「そうか」


 どう反応すればいいのか解らなくて、オレは無難な言葉を口にした。日下さんの視線が戻ってくる。


「この頃、長屋くんとか他のみんなのこと考えてるのには理由があって」

「理由?」


 他のみんなってことは、なぜか気がつけばオレのことを考えてて、これって恋? みたいなことじゃないのは解る。いや、オレのことばかり考えてしまうのを隠す巧妙なカモフラージュかもしれない。


「このまま順調なら、2年からスクーリングじゃなくて普通のクラスに移ることになって」


 いまいちピンと来ないけど、スクーリング終わることと他人について考えることとは日下さんの中で繋がってるらしい。誰だ巧妙なカモフラージュとかバカなこと言ってた奴は。


 おめでとう、そう言いかけて言葉を止める。これからが本番なんだ。苦労も多いだろう。祝うのはまだ早い。

 がんばれ、も違う。入学するって決めたところから努力してきたから前に進めることになったんだし。

 ……前に進む? 勇気を振り絞って努力してきた結果手に入るのが、朝普通に家を出てダルいと思いながら教室に行って授業受けるっていう、オレや他のほとんどの生徒が別に価値なんて感じてないようなものってのは、よく考えると何とも言えない感覚になる。


「いよいよ、だな」


 結局、出てきた言葉はそれだった。


「とうとう、ね。考えるだけでストレスで吐きそうだし、残り時間が減ると思うと朝起きるのも憂鬱」

「そう言ってられるのも今のうちだぞ。普通の教室行くようになったら、逆ラブ地蔵のときに一部の生徒が目撃しただけのミステリアスな背が高い美人が来たってことでたちまち人気者だ。そうなると悪い気はしないだろうし、なんだかんだお誘いも多くて郷土史研究会なんて地味な部は切り捨てられるんだ」

「それ、本気で言ってるの?」


 不愉快そうに日下さんは顔をしかめた。


「あー。いや。実際は人気者になってもウチの部には顔を出し続けて、“日下さんは本当に郷土史に興味があるんだ。自分を持ってる。チャラくない”ってイメージアップに使うんだろうな」

「面白くない上に話が長い」

「あ、はい。ごめん」


 即斬されて思わず素で謝る。


「もし万が一私が教室で人気者になっても、ここを辞めたり幽霊部員になったりするわけないでしょ。あっちで人に囲まれてても、ここならボッチになれるんだから」


 普通逆だろうと思うけれど、気持ちはわかる。郷土史研究会はボッチ属性の人間が自然体でボッチになれる部活だ。


「そう言ってられるのも今のうちだぞ。みんな人気者になる前はそう言うんだ。なのに結局、いざ人気者になるとフェードアウトしていく。おまけにオレは男どもから“なんでアイツのパッとしない部活にハイスペ女子が集うんだ。どうせあれだろ? 最終巻でその中の誰かとくっつくんだろ。まあ、それがそのままお前の人生の最終巻になるわけだが”とか言われるんだ」

「私、しばらくこのネタでイジられるわけ? それにさっきも言ったけど、冗談が長いし面白くない」

「あ、はい。ごめん」


 ついまた謝ってしまう。


「だいたい長屋くんの冗談て無神経で笑えないこと多いんだから、気を付けたほうがいいよ」

「そりゃあな。オレだって自分が面白い人間だとは思ってない。けど、冗談で少しでも雰囲気が明るくなればと思って……」


 あんまりな言われように思わず反論すると、なぜか急に日下さんの表情が和らいだ。


「つまり、周りのために苦手なことにチャレンジしてるってこと? 偉いと思うけど、あんまり無理しなくていいんじゃない?」


 キツイこと言われるより、その勘違いから来た優しさが余計に深く突き刺さるのはなんでだろうな? もう二度と冗談は言わない。


 なんとなくお互いに話が終わった空気感が漂う。気軽な気持ちで雑談を続けたら大怪我した感じだけれど、この時間は一体何だったんだ。そんなことを思っていると、湯川さんが入ってきた。


「あの、あれ? 神野さんは?」

「歯医者で休み」

「あ、そうなんですか。あー。……いやあの、さっきまで原口さんと話してて、面白いこと聞いたから神野さんにも聞いてもらおうと思って」


 湯川さんはがっかりした様子で言うと、椅子に座ってスマホをいじりだした。なんかセリフの終わったNPCみたいだ。けど、前はこういうときすぐに帰ってたから、ずいぶん部活になじんでくれたんだと思う。


 日下さんはスタンバイモードになり、オレは文庫の続きを読む。ただオレの方はさっき日下さんに言われたアレコレが頭の中を巡って、あまり集中できなかった。


 しばらくすると、兎和と圭人がやって来た。


「あれ? 今日は生徒会じゃなかったのか?」

「今日はもう終わりだ。文化祭乗り越えてみんなの決断力やら事務処理能力がアップしたおかげで、予定より早く終わった。残念だけどその点については先生たちの無茶振りも有益だったな」


 圭人の言葉に兎和が反論する。


「それは予想外の副産物なんだから、教師を許すようなものじゃないと思うけど?」

「……そうか」


 オレは二人のやり取りを見ながら、意外に感じていた。圭人が他人の成果を素直に認めるなんて。前ならそれを自分の手柄に含めるようなことを言ってたはずだ。“みんなの能力がアップしたのは僕の指導がよかったからだ”とかなんとか。

 夏休みに何があったのか知らないけど、圭人も成長してるんだなぁ。兎和? 兎和様はすでに究極生命体だから、これ以上どうにかなることはないだろう。ただでさえ無敵みたいなもんだ。これ以上なんて考えたくもない。


 二人は並んで座ると、スマホで塾のサイトを調べだした。圭人の新しく通う塾選びをするためだ。

 隣の市にあった前の塾は大手チェーンでこそないものの、それなりに大きかった。なのに、夏休み開けると同時にいきなり廃業してしまったのだ。ただ、文化祭対応があって通えないだろうからと、これまで代わりの塾を探さずにいたそうな。


 そこでふと、オレは妙なことに気づいた。なんでみんな宮華が歯医者だって知らないんだろう。世界の常識とかそういうことじゃなくて、部活のグループに書いてあったはず。


 オレはスマホを取り出して履歴を確認する。グループの方にそんな書き込みはない。おかしいと思いながら他を見ると、あった。


“お姉ちゃん、今日歯医者で部活休むって”


 宮璃からオレ宛だった。そりゃ誰も知らないわけだ。なんで宮璃から知らされたのか謎だけれど、とにかく家では二人とも会話があるようでなによりだ。あの姉妹、別々に会ってるせいか家でどんな感じなのか逆に想像しにくいんだよな……。

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