表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/144

第5の不思議︰スニークさん-23

オレは深く考えないまま、とりあえず口を開く。


「たしかに、そいういうことはある、か。そうそう。おススメといえば文化祭お疲れさま。生放送、無事に終わってよかったな。これが配信なら、いいねボタンとか押したいところだった」


 な、なんだこりゃ。我ながら話のつながりが意味不明すぎる。


「? あ、ありがと、う?」


 そうだよな。そりゃ困惑するよな。でもそれまでの話と何か関係あるんだろうな、とか思っちゃうよな。とにかく話を続けよう。考える余裕を与えちゃだめだ。


「動画の方もオススメ度高かったのに、あっちは残念だったな……」


 なんでもオレたちと撮影した動画は“申請内容といくらなんでも違いすぎる。それなら最初から本当の内容で申請してほしかった。今は裏切られた気分でいっぱいです”という謎の理由で開始早々、1時間ほどで公開停止になったらしい。


「ドキュメンタリーなんだから……撮影前の申請どおりになんて……なるわけない、でしょ? 信じられない。先にシナリオ作って、そうなるように、ヤラセでも……しろってこと?」


 よっぽど頭に来てたのか、霧島さんはあっさりこっちの話に乗ってくる。いいぞ。この調子で時間を稼ごう。そのうちに兎和あたりが何か思いついてくれるはずだ。我ながら情けないけど仕方ない。こっちはなりふり構ってられる状況じゃないんだ。自力で事態をどうにかするなんて、そんなの物語の中でしか起こらない。


「酷い話だよな。ちなみに、なんて申請したんだ?」

「学内の噂話の調査を通して……口コミによる情報の拡散と成長を追い、視聴者に噂やデマの強力さ……メディアリテラシーの重要性を、実例とともに学ばせる」

「大嘘じゃねぇか。カスリもしてない。……けど、おかげで逆にバズったんだろ? 本物のスニークさんが映ってたせいで上映中止になったって噂で」

「それはそうだけど、おかげで……あの動画……観せてくれって訪ねてくる人がいて、面倒」

「相手するのが嫌なら、今度は正式に上映会でもしたらいいんじゃないか?」

「スニークさんなんて……映ってないのに?」

「あ、そうか」

「今は動画ファイルがなぜか……壊れて再生できないってことにして……断ってる」

「けどそれ、余計に怪しくないか?」

「もちろん、余計に……怪しい。けどそのほうが、普通に公開するより興味が……長続きする、でしょ? 封印映像は誰も観られないから……価値があるし、興味も持たれる。ね?」


 スニークさんが映ってたって噂の出元は放送部なんじゃないか。ふとそんな考えが浮かぶ。


「そうだ。話題になる、といえば……入部の件」


 は? なんでそこから戻った。もしかしてオレの戦法を見破り、さらにやり返してきたのか?


「もう一つ、郷土史研究会に……入りたい、理由があって」

「お、おう」


 なんだ? 全然予想がつかない。


「最終日に長屋君が変なこと……言うから、あれから私、自分を抑えるのが……難しくなってて……。責任取って。ね?」

「は? いや、ちょっ、バカ急に何てこと!?」


 思わず振り返るオレ。ちょうど助け舟を出そうとしてくれてたのか、立ち上がりかけてた兎和が無表情で椅子に座り直すところだった。その横では圭人がぽかんとしてる。

 一方の宮華たち三人はまるで汚物を見るような眼でオレを見て……って、湯川さんあのときあの場に居たよな。なんでそんな異世界生命体みたいな目をしてるんだ。おかしいだろ。


 再び霧島さんの方を向くと、一瞬で何があったのか頬をわずかに赤く染め、目を軽く潤ませてなんとも艶っぽい表情になっていた。ダメだ。これはダメだ。いまのセリフでそんな表情をみんなに御開帳したりしたら、ぜったい性的なアレだと思われる。


「責任って、変なことなんて言ってないだろ。そういうのはその、誤解されるから。っていうか心当たりない。なんの話だ?」

「それは……」


 なぜかそこでうつむき、足をもじもじさせる霧島さん。なんとなくその姿はどっかで見たような。あ、ひょっとしてあれか。

 オレが理解に達する一方、霧島さんはオレの後方、他の部員たちにチラチラと視線を走らせた。


「それは、ここじゃ……言えない」


 うんうん。だろうな。そうだろう。だって、言ったら圭人や兎和にまでYoutuberだってバレちゃうもんな。ちなみに霧島さん、あのチャンネルをまだ消してないどころか普通に更新してる。昨日の夜は配信もやってた。


 で、結局なんの話をしているのか。要は、霧島さんはあのとき。新しい性癖の扉を開いちゃったわけである。その扉の先にあったのは“破滅願望”。これまでも無自覚にそういう素質はあったんだろうけど、それがついに性的快感と一緒になって本人の意識へご降臨。たぶん、そういうことなはず。


 いつの間にかオレは思いっきり苦い顔をしていた。霧島さんに向かって手を立ててみせる。


「あー。たぶん、解ったと思う。けど、それでなんでここに? 逆効果じゃないか?」

「前にも言ったけど、私はべつに……破滅、したいわけじゃない。なのに、自分一人じゃ抑えるのが……難しくなってきてて……。だから全力で……止めて、ほしい。当事者なら死ぬ気で……止めてくれる、でしょ? それと、あなたたちがやってることの……決定的な部分は見せないで。もしそんなの知っちゃったら……私もう、後戻りできない。動画撮って公開しちゃうかも」


 ああ、おお。解る、解るぞ。霧島さんが何のこと言ってるのか完全に理解できる。


 つまり今、霧島さんは破滅願望と、破滅したくない常識とで板挟みになっている。けど、一人じゃ抑えきれなくなりそうだ、と。そこでオレに助けを求めてきたわけだ。

 だから霧島さんが暴こうとしてたこと、その決定的な証拠は見せないでくれ、そういうことだ。見てしまったらこの間のオレの失言どころじゃない。暴露動画の完全版を作って公開し、オレたちから報復の身バレを受けて盛大にバズりながら社会的に破滅したい欲望を我慢できなくなってしまう。

 注目と破滅の両方を最大規模で受けたらどれほどの快感が……そんな危険な妄想に囚われつつある自分を恐れ、これからも生きたい、破滅したくないという思いが霧島さんを郷土史研究会に向かわせたのだ。


 死にたくない、生きていきたい。欲望の濁流から聞こえる弱く、細く助けを求める声。そう思うと確かに手を差し伸べたくなる。


「ここじゃ言えない……破滅……抑えきれない……決定的なところを見て動画を公開……うぐっ」


 圭人が畏敬の念と共になにやら呟いている。完全に誤解されてるな。いや、オレだって逆の立場なら同じだ。なんならさりげなく脚を組んで隠そうとするまである。最後の“うぐっ”は兎和に肘鉄でも喰らったんだろう。


 オレはおそるおそる振り返る。


圭人:脇腹を押さえて悶絶している。それでも組んだ脚をはずさないのはさすがだ。

兎和:虚無な顔をしている。

宮華:嫌悪感丸出し。

日下さん:嫌悪感丸出し。

湯川さん:相変わらず宇宙的恐怖を感じさせる目をして、薄ら笑いを浮かべている。コイツさては霧島さんが何の話してるか解ってて黙ってるな?


 ……もうダメだ。冷静に考えたらオレの方がまさに今、部内的に終わったわ。オレは急になんかもう何もかもどうでもよくなり、霧島さんから力なく入部届を受け取ると適当にそこら辺に転がってたボールペンでサインし、返した。

 霧島さんはそこでようやく我に返った様子で物凄く恥ずかしそうな顔をすると、そそくさと帰っていった。部室を出る時オレを指さしたのは、たぶん後でみんなの誤解を解くように、ってことだと思う。


 それから少しして、気まずそうに圭人が兎和さんを連れて帰っていった。部室を出る時に兎和がオレを指さしたのは、たぶん後で報告しろ、ってことだと思う。なあ、霧島さんとも兎和ともこんなに通じ合ってるってのに、なんで誤解されてこんな目に遭ってるんだろうな。オレ。


 それから宮華と日下さんの誤解を解くのに、オレは2時間かかった。まず話を聞いてもらうまでに110分くらい。説明に10分くらい。湯川さんは早々に解ってて黙ってたことが確定したので、眼鏡のフレームを歪ませないよう気を付けながらアイアンクローで軽くこめかみをへこませておいた。


------

●星高七不思議の5

 スニークさんはひと気のない教室や廊下に一人でいると現れる。突然背後で人の走り去る音がするのに、振り返ると誰もいない。掃除用具のロッカーが急に開いて、誰かが走って教室を出ていく音だけが聴こえる。そんな感じで姿は見えないのに逃げていく音だけがするだけで、出会っても何も起こらない。


 そして放送部には、スニークさんの映っている動画の入ったUSBメモリがあるらしい。動画を消したりUSBメモリを捨てようとすると不幸なことが起きたので、今でも捨てることができず部室のどこかに隠されている。


 それは最初ぼんやりした影みたいなものが廊下を右から左に移動していくだけだったのに、再生するたびだんだん姿がはっきりしていった。

 今ではどんな姿なのかほとんど解りそうなくらいになっていて、その状態でも観た人は気が狂いそうなほど恐ろしいという。実際そのせいで、文化祭での上映会はすぐ中止になってしまった。

 次に再生したらはっきり姿が見えてしまい、観た人は恐怖のあまり本当に発狂するんじゃないかと言われている。

------

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ