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第5の不思議︰スニークさん-12

「私のことよく“SNSに放ったら秒で炎上する”だの“発想の治安が悪い”だの言うけど、“面白い”だけでここまで来るイチロの方が人間的にはヤバいからね」


 ウソじゃなかった。けど……あれ? “面白そう”しかなかったのは最初だけだぞ。あと最初の最初は“美人の女子と二人で部活”って状況に下心も少しはあった。そっちの方はすぐに消え去っていまや跡形もないけど。いやしかし、さすがに伝わってると思ってたのに……。


「いや、あのな。別に面白そうってだけでこんなことしてるわけじゃないぞ」

「違うの?」


 シンプルに意外そうだなおい。前もこのことについては話したはずなんだが、こうリアクションされると、あれは夢だったんじゃないかって気がしてくる。


「ああ、あれ? 私たちが気楽に楽しく過ごせる場所を続けたいっていう。でもあの話、後から考えたら七不思議創りじゃなくて、郷土史研究会を続けたい理由だよね」


 ん? そういや、あのとき話の途中で宮華が笑いだして……。言ってなかったかもしれない。いや、それにしたって解ってくれててもいいと思うんだけどなぁ。


「だからつまり、あのとき言いたかったのは、ほら、あれだ。宮華が七不思議創りをしたいんなら、オレは手を貸したいってことだよ。挑みがいとか楽しさとか、そういうのは今じゃオマケみたいなもんだ」


 日下さんの“友達である宮華を手伝いたい”って動機と似ている。


「それだけ? 他には?」

「他にって、充分だろ……」


 とはいえ、いちおう考えてみる。


「ああ、さすがに宮華たちが人見知りしてるとこ見てたら、オレは抜けるから自分でなんとかしろなんて残酷すぎてできない、ってのはあるな。オレいなかったら圭人や兎和さん、湯川さんに霧島さん。とにかく誰でもいいけど誰か来たとき詰んでたはずだ。そもそも最初、そういうときのためにオレを誘ったんだろ」


 いくら待っても、宮華は何も言わない。


「どうした? 聞こえてるか? もしもーし」

「あっ。ごめん。聞こえてる。ちょっと驚いて」


 今の話に驚くポイントなかったろ。


「えっと確認なんだけど、イチロは私たちを心配して七不思議創りを手伝ってる。そういうこと?」

「まあ、そうだな」


 人から言われると照れくさい。


「えっと。うん。うんうんうん。そっかー。うーん。なるほどね」


 あれ? 宮華オレと通話しながら、別の誰かとも通話してるのか?


「うーん。あの、ちょっとごめん。思ってたのと違いすぎて気持ちが付いていかない。あの……それって……イチロ、そんなのいい人すぎじゃない? そんなだったっけ? なんか逆に嘘くさいよ。なんでそこまでしてくれるの?」

「なんでって──」


 それ、本当に説明しなきゃダメだろうか。さすがにそもそも過ぎて言いたくないし、あらためて言葉にするのは恥ずかしくて言いたくない。

 にしても、ここまで伝わってないとなるとオレの一方的な思い込みなんじゃないかって気がしてきて、確かめるのが怖いって意味でも言いたくないな。


 とはいえまあ、仕方ない。大事なことほど口に出さなきゃ伝わらないっていうしな。


「あの。なんだ。オレたち、力を合わせていろいろ乗り越えたてきた仲間だろ? なんなら……その……親友、くらいのつもりなんだが」

「んんっ」


 宮華が妙な声をあげたせいで、気恥ずかしさがどこかへ消え去る。


 これあれだな。ネトラレものなんかでよくあるシチュエーション。アレでアレをあれこれしてるときに夫に電話掛けさせるやつ。宮華、あの状況なんだろう。オレは夫じゃないけど。はぁー。なるほどね。まさかこんな自分でその場に出くわすことがあるとは。いやあ、人生経験が深まるなぁ。


「ごめん。びっくりしちゃって」


 オレが現実逃避してると、宮華が言った。


「私だってイチロのことはまあ、仲間だと思ってるし、友達だとも思ってる。けどイチロの方は……なんかこっちのこと職場の同僚? 社会人じゃないからよく解らないけど、それくらいの感じだと思ってた」

「なんでだよ!?」


 思わず突っ込む


「だってイチロ、自分のことほとんど話さないでしょ。私、未だにイチロはラノベが好きで、すぐ人をイビってくる、くらいのことしか知らないんだけど。あ、あとたまに熱血。友達なら普通、もっと他愛ないこととか喋ったりもするんじゃないの?」


 ──なるほど。たしかにそれはオレのミスかもしれない。しかし。しかしだな。


「じゃあ、おまえ他の友達についてどれくらい知ってるんだ? 日下さんと兎和と湯川さん。逆にそいつらに自分のこと話してきたか?」

「……あっ」

「あっ、じゃねぇよ。あっ、じゃ」


 いったいコイツの認知能力はどうなってるんだ。一気に力が抜けて、いろんなことがどうでもよくなる。


「とにかく、オレは今の部員みんな大事な友達くらいのつもりでいるんだ。で、友達見捨てるなんてできないし、したくない。それでいいだろ」


 脱力ついでに、わりと照れなく言える。


「うん……」


 宮華の声は少しだけ、いつもより温かいような気がした。今度こそ伝わったんだろう。たぶんきっと。よく知らんけど。


 沈黙が流れる。でもそれは部室にいるときみたいで、決して居心地悪くなかった。


「んんっ」


 だからさっきもそうだけど、それなんなんだよ。体のどっかになんか入ってんじゃないか? まあ、普通に考えれば咳払い的なものなんだろうけど、そうは聞こえない。下手くそか。


「話、戻るんだけど」

「なんだよ」

「私たち、別に他の人が驚いたり怖がったりするのが楽しくて七不思議創りをやってるわけじゃないでしょ?」

「そうだな」

「でも、それを知らなければ私たちのやってることって、他人に迷惑をかけて喜んでる悪質ないたずらに見える。湯川さんはたぶん、そのせいで私たちのしてることをよく思ってないんじゃない?」

「話せば解ってくれる、か?」

「完全には無理だろうけど、多少はマシになるといいな、ぐらい」


 そこからオレは湯川さんが現状だと部活で居心地悪いだろうとか、あの性格で七不思議創りを断ったり、今日みたいに途中で帰ろうとするにはどれほど勇気が必要だったか、とか、その他いろいろ、とにかく、えーと、湯川さんの……オレは何を聞かされてたんだ? 無理にまとめるなら宮華が湯川さんについて思ってること、感じたことを聞かされた。

 その話だけで本物を知らない人なら、湯川さんは内気な性格が災いしていわれのない苦労をしながらも、持ち前の性格で独自の世界観を持って現実に対峙し、不器用ながら決して逃げることなく生きている健気な女の子だと思うだろう。

 

 もちろん実態は異界生命体に体を乗っ取られがちなオカルト好きの超探偵女子高生である。何それすげぇ。西尾維新の小説に出てきそう。

 これはあれだな。湯川さん、異界能力で無自覚に宮華のこと洗脳しちゃったかな? まあでも日下さんといい、宮華のやつ気に入った人間に対しては心のダム決壊させて甘やかし放題に甘やかすからなあ。


「とにかく、私から湯川さんには話をしておくから」

「そうだな」

「戦術的に考えて、イチロだけは面白がってるだけのクズってことにしておくから。共通の敵がいると絆が深まるでしょ」


 半年足らずの付き合いでも解る。これ冗談じゃなくマジな口調だ。しかもちょっと名案思いついたと思ってるときのやつ。


「お前そういうとこな!」


 ドンっ! 峰山さんの抗議。風呂から上がったらしい。にしても、えぇ……? そこまで大声じゃなかったぞ。在室中の峰山さんって聴覚の感度3000倍だったりすんのかな。


「とにかく、部長がそんなクズだと湯川さんも居辛いだろ。そこはよろしくいい感じにしてください」

「……解った」


 なんでちょっと不服そうなんだ。


 そんなこんなでオレたちは通話を終えた。少しして。


 コンコン──。


 おや? こんな時間に誰か来たようだ……。


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