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第5の不思議︰スニークさん-11

 そもそも今、なんのためにこうして話してるんだっけ。ああ、霧島さんがどこまで知ってるのか、だ。それは解った。現状では逆ラブ地蔵の捏造を疑ってるだけだ。

 それと、どういう意図があったのか、か。これも答えは出ている。話題になりたい。それだけだ。


「決めた! 長屋くん、スニークさんの犯人探しを手伝って」

「あ、え!?」

「ここだけの話なんだけど、放送部では文化祭当日の生放送に加えて、動画の上映会を企画してるの。もう教室も申し込んである。内容は極秘なんだけど、スニークさん騒ぎの犯人を追うって内容のドキュメンタリーにしようと思ってるの。みんな好きでしょ? そういうホラーっぽいの」


 先生たちが霧島さんの今の発言を聞いたら、膝から崩れ落ちるに違いない。にしても、なんでオレに手伝いを?


「私一人だとさすがにやりづらいし、万が一のときに危ないでしょ。だから放送部の男子を連れてく予定だったんだけど、長屋くんと一緒の方が面白くなりそうだから」


 これまでのどこでそう判断したのか、激しく気になる。そもそも、なんで引き受けてもらえると思ったのか。そしてなにより──。


「大丈夫か? それ」

「大丈夫だって。もし犯人見つからなくても、それはそれで面白くできると思う」


 いや、企画内容が学校的にぶっちぎりでアウトなのを心配したんだが。今日のこともあるし、完全に挑発してるみたいじゃないか……。とはいえ、オレはそれを口にしなかった。どうやっても理解してもらえる気がしなかったのだ。


「今日の放送はそのための前ふりだったってことにするから。そしたらこの部に何かあるんじゃないかって思う人もいなくなるだろうし、ね?」


 普通なら断る。けどオレは直感的に同意していた。後になって思えば、理由は三つ。

 まず、このタイミングで霧島さんとの関係を悪くしたくない。それに、一緒に行動してればすぐ飽きるだろう。

 二つ目に、たしかに今日の放送が仕込みだったってことにできれば、痛い腹を探られる可能性は減る。学校から睨まれないようにする言い訳を考えないといけないけど、もっと真面目な内容だって聞いてたとかなんとか言えばどうにか切り抜けられるだろう。

 三つ目。そもそもオレたちもスニークさんの犯人を捕まえようとしてた。取材協力って隠れ蓑があれば、やりやすくなる。


「本当に? ありがとう」


 並の人間ならオレがあっさり引き受けたことを不審に思うだろう。でもそんな常識、霧島さんにはなかった。


「じゃあ、詳しいことはまた。今週中に連絡するから、打ち合わせしよ。ところで」


 そこで初めて、霧島さんは心配そうな顔をした。


「長屋くん以外誰も喋らないんだけど、ひょっとして怒ってる?」


 ひょっとして、だと? いまさら? いやあ、脱力感て物理効果あるのな。その場でしゃがみ込みそうになった。


「ああ、いや。怒ってるかは知らないけど、みんなすごい人見知りなんだ」

「そうなんだ? へぇ」


 とりあえず自分がこの場で糾弾されることはないと判断したのか、霧島さんは心底興味なさそうに言った。



 霧島さんが機嫌よく帰っていくと、オレはどっと疲れが出た。体がエネルギーを求めている。冷蔵庫からアイスを取り出すと、運良くいい具合に冷えていた。

 イスまで戻るのも面倒でその場に座って食べていると、ようやく人見知りの呪縛から解放された宮華たちも冷蔵庫からアイスや飲み物を取り出し、なんとなくその場で食べたり飲んだりしだした。


「妙なのに目をつけられたじゃない。可哀想に。けど、手伝いを引き受けたのはいい判断だと思う」


 宮華が珍しく褒めてくる。


「一緒にいれば、もし犯人捕まえてそいつが七不思議のこと言いそうになっても、すぐに始末できるものね」


 いつもなら宮華の危険思考にツッコミを入れるところだが、言われてみれば今回ばかりはそんな場面がないとも限らない。 さすがに殺すなんてことはないにしても……どうするか。厄介だな。


「あの、すいません。ちょっと」


 珍しく湯川さんが自分から発言する。


「どうしたの?」

「えと、あのさっきの霧島さん。前に自分が炎上したことあるんじゃないですか? いやちょっと思っただけなんで、はい。あれなんですけど」

「炎上しても大丈夫って言ったとき、やけに自信ありそうだったもんな。過去の炎上騒ぎもよく憶えてたし。実体験だったって考えれば納得できる。まあ、霧島さんにそういう普通の考えが当てはまるか謎だが」

「あっ。すみません。それだけです」


 すると宮華が湯川さんの腕にそっと触れた。


「ううん。気づいたことは何でも言ってってお願いしたもの。話してくれてありがとう」


 湯川さんはその言葉に照れ笑いを浮かべた。


 だからなんてコイツは湯川さんにだけそんな優しく気遣いできるんだ。あれか。親近感があるのか? まあ、宮華が湯川さんのメンタルケアをしてくれてるってことだから、理由はどうでもいいか。



 帰宅して、一人あれこれ今日のことや今後の不安に胃を痛めていると(峰山さんからは“なに暗い顔してんだよ。マジでウケるじゃねえか”と言われた)、湯川さんに言われたことが遅効性の毒みたいにジワジワ効いてきた。


“それ本気で言ってます?”


 もちろん本気だ。確かに褒められたことじゃないけれど、悪質なことをしているつもりはない。周りに隠してるのだって知られたら七不思議創りは失敗だからであって、本当のことを言ったところで大勢から非難されたり社会的に抹殺されることはないと思ってる。

 悪目立ちしたり、ドン引きする人が多少は出てくるだろうけど、逆に感心したり面白がる人だっているだろう。


 けどそれって、本当に霧島さんとは違うんだろうか。上手く言葉にできないけれど、意外と似てるんじゃないかって気がしてくる。湯川さんの軽蔑したような顔が浮かぶ。


 迷ったすえ、オレは宮華に通話してみた。


「今度はどんなトラブル?」


 まずそれか。そりゃそうか。


「いや、そういうんじゃない」

「じゃあ、なに?」

「部活でオレが悪いことしてないって言ったとき、湯川さんから本当にそう思ってるのかって言われただろ。そのあと霧島さんと話をしてて、なんかその辺がスッキリしなくてな」


 あらためて言葉にしてみると気恥ずかしくなる。


「私だって何度も計画がバレそうになるし、知らない人は来るしでかなりストレスなんだけど。もちろん予想はしてたけど、それでマシになるってわけじゃないでしょ。あのね。愚痴なら宮璃かあの、えーと峰山さん? にでも聞いてもらえば?」

「できるわけないだろ。そっちこそストレス溜まってんなら宮璃にでも聞いてもらえよ」

「できるわけないでしょ」

「だよなあ」


 いつだって妹にはいいカッコしたいものなのだ。


 少しして、宮華が言った。


「私は今ここで自分にしかできない難しい目標にチャレンジしてるって気持ちがあるから、湯川さんの言葉だとか霧島さんの考えだとか、そんなことに揺さぶられたりはしない。日下さんも兎和さんも、自分なりの理由があるから大丈夫だと思う。でも、イチロは……。正直 私だって、面白そうってだけでよくイチロここまで危ない橋渡ってるな、とは思ってるよ」

「は?」


 驚愕した。まさかそんな。ウソだろ。

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