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第5の不思議︰スニークさん-10

「もしかして、放送の最後に言おうとしてたのって」

「そう。それ」


 あっさりと認める霧島さん。


 馬っ鹿おまえそれ。それを全校生徒が聴いてる放送に乗せようとしてたのか。あぶねー。あと少し先生の到着が遅れたり、機材室の生徒が粘ってたらオレ終わってたじゃん。今更ながらに動悸が激しくなる。


「えっと。なんでそう思うんだ?」

「だって、調べたけど、そんなこと書いてあるもの、見つけられなかった、から?」


 クソっ。こいつヤル気あるのかないのかどっちなんだ。見た目どおりに面倒臭がってりゃいいものを、そんなとこまで下調べしてくるなんて。

 けど、それなら大丈夫だ。放送じゃ厳しいけど、この場限りの話なら切り抜ける用意がある。オレは一度深呼吸すると、なるべく落ち着いた声で切り出した。


「あれは実は、オレの勘違いなんだ」

「それって……捏造を認めた?」

「違う違う違う。ここだけの話にして欲しいんだけど」

「とりあえず、続けて」

「いや、ここだけの話」


 お互いの視線がガッツリぶつかる。1分程して、折れたのは好奇心に負けた霧島さんの方だった。


「約束する」

「あの話は鶴乃谷家の口伝、つまり言い伝えなんだ」


 霧島さんが怪訝そうな顔をする。


「副会長の鶴乃谷兎和さん、いるだろ? あの子から聞いたんだ。それが本当は公表しちゃダメな話だってのをオレが知らずに喋ってしまった。真相はそんなとこだ」

「? なんで鶴乃谷さんはそんな秘密の話を」

「オレがあの逆ラブ地蔵の台座を見つけたからだ。あれが何なのか解らなかったオレは兎和さんなら何か知ってるかもと思って尋ねた。そのとき教えてくれたんだ」


 考え込む霧島さん。


「そもそも鶴乃谷さんて、会長も同じ名字だよね。鶴乃谷市と字が同じだし……なんなの?」


 そこからか。まあ、地方都市の有力者なんて、昔からここに住んでるのでもなけりゃ知らなくてもおかしくないか。


「そうだな……。この土地に古くから住んでる有力者の一族だ」

「ヤクザ的な?」

「いや。違うと思う。でも睨まれたらヤバいな。物件借りられなくなるとか、ゴミの回収してもらえなくなるとか、市内で雇ってもらえなくなるとか、色々と噂はある。都会じゃともかく、ここみたいな土地じゃある話なんだよ」

「だとして、もし私が口伝のこと喋っちゃったら」

「最悪、よそへ引っ越すハメになるかもな」


 霧島さんは疑わしげだ。鶴乃谷古参でもなければ、威光も格式も権威も何もピンと来ないよな。


「なんなら兎和さん本人に確認してくれていい。なんで知ってるのかも説明すれば、いちおう理解はしてくれるはずだ」


 そう。この話は兎和公認、というかアイツの提案だ。そもそも逆ラブ地蔵の話を捏造したのはオレたちが兎和の圧に追い詰められたからで、今にして思えば何の偽装もなくただ架空の話をでっち上げたのは判断ミスだった。

 興味を持って裏取りするヤツがいないからいいようなものの、霧島さんみたいに少し調べれば出典なさそうなことはすぐ判る。現に湯川さんのときも……。


 さすがに兎和も少し悪かったという思いがあるらしく、誰かが疑ったら口伝だって言えばいい、と提案してくれた。


 ちなみに、口伝自体は本当にあるらしい。


“ウチみたいな傍流たちが本家に搾取されず渡り合うために持ち伝えてきた、いわば最終兵器みたいなものね。使えばこちらも相手も、諸共に破滅する。歴史にはそういうものもあるのよ”


 だそうだ。


「長屋さんたちと鶴乃谷さんが一緒になって私を騙そうとしてる、とか?」


 どうもまだ納得行かないようだ。まあ、一緒になって騙そうとしてるんだけど。


「それを検証するかどうかは兎和さんに会ってから決めるのでも遅くないだろ」


 会いさえすれば、鶴乃谷家うんぬんは抜きにしても、兎和と敵対するのは危険だって感じてくれるはずだ。


「それで言えなかったからいいようなものの、あの場でこのことは言えないし、本当に捏造しててオレが弁解できなかったり認めてたらどうするつもりだったんだ」

「うーん。そこは、成り行きで」

「そんな……。下手したらオレの学校生活終わってたかもしれないんだぞ!?」


 思わず大声になる。けれど、霧島さんは気にした様子もなく首を傾げる。


「でも、捏造なり口伝の扱いミスるなりしたのは長屋くんが悪いわけ、でしょう?」


 そう、なのか? いや。駄目だ。自分を客観視したら負ける。


「だからって、大勢の前で晒し上げていいってわけじゃないだろ。やり過ぎだ。オレに恨みでもあるのか」

「恨んでなんて、ない……。でも……もしそれが、長屋くんとは全然関係ない人に起こったんだったら……どう? “おいおいマジかよ。どうなるんだこれ”って、興味津々で、楽しむん、でしょう? そのとき私は長屋くんを……楽しませてる。そういう、こと」


 否定できない。


「それに……言わせてもらうけど、晒されても炎上しても……よほどの有名人、でもなければ、どうせ半年もすれば……みんな忘れるよ? たとえば」


 霧島さんはTwitterやYou tubeで1年以上前に大炎上した出来事をいくつか挙げた。オレでも知ってるようなものばかりだ。


「どう? 思い出すことなんてなかった、でしょ? それに、アレで騒ぎになってた人たちが、今後身近に現れて、長屋さん気付く?」

「いや、それは」

「たいして違わないよ? 破滅だ終わりだって言ってるけど……そんなの“ウケようと思って盛り過ぎちゃいました”って深刻にしてなければ、“まったくオマエはしょうがねぇな”くらいで終わる……。だいたい、それで失うようなものなんて……どれくらい、あるの?」


 ボソボソボソボソと聞き取りづらい平板な調子で、霧島さんは畳み掛けてくる。結果、オレは話を聞き取ろうと耳を澄ませ、霧島さんの言葉がより深く浸透してくる。


 いかん。冷静になったら負ける。


「そうかもしれないし、違うかもしれない。オレは自分がそんな危険に晒されて、許せるわけないだろ。おまえだって自分だったら、やっぱり許せないだろ。やめてくれってなるだろ?」


 返答に間があった。


「まあ、そうか。そう、だね」


 自分は違うとでも言いたげだ。


「とにかく、オレの件はこれで終わり。他のやつにはこんなマネするなよ。エンタメ感覚で追い込むなんて最悪、逆上されて霧島さんも刺されるぞ」


 これぐらい脅しておいても充分とは言えないだろうけど、何も釘を刺さないよりはマシだろう。ところが、霧島サンのは目を見開いた。


「そっか。そうなったら凄いよね!」


 唐突だった。放送のときのあのテンション。煩わしくない程度の明るさ。声の張り。活性化した霧島さんがそこに居た。


「刺されたら事件になって、報道も来るよね。そしたら私、もう伝説だよ。いっときバズって終わりじゃない。学校の歴史になってずっと語り継がれる、よね? いろんな尾ひれがくっついて、それこそ化物みたいな噂話になるんだ。もしかしたら学校の怪談みたいな話だってできるかも」


 喋りの心地よさと内容の奇妙さが分離してる。


 何年も、何十年も学校で語り継がれる話への憧れ。それは宮華が七不思議創りをしている動機に似ているけれど、まったくの別物だった。


「そのためなら刺されてもいいのか?」


 なにか言わないと呑まれそうな気がした。


「え? 嫌だよ? けど、それはそれとして、刺されたら凄いよね」

「……まあ、大惨事って意味じゃ凄いけど」


 なんとなく理解する。霧島さんにとって話題になること。それも長ければ長いほど、インパクトが大きければ大きいほど、それは素晴らしいことなんだ。そして時にそれは、個人の人生よりも優先される。逆ラブ地蔵の捏造を指摘しようとしたことだって、そう考えればいちおう筋は通る。


 駄目だ。通じ合える気がしない。オレたちがいくら話をしても、それはどこにも到着しない。

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