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第5の不思議︰スニークさん-09

 放送現場へ教師二人が踏み込んできたときは、こりゃもうダメだと思った。ところがオレは割とあっさり解放された。どちらかというと被害者だと思ってもらえたらしい。

 一方の霧島さんとその場にいた放送部員2名は何らかの罪状により、進路指導室という名の取調室へ連行されていった。日下さんがスクーリング受けてるのと同じタイプの部屋だ。

 ちなみに日下さんはあかずの首を口実に、今は別の校舎の同タイプの部屋へ引っ越している。



 そして放課後。オレたちは呼び出されて部室に集まっていた。なのに呼び出した張本人の兎和は生徒会が忙しいとかで来ていなかった。ついでに圭人も生徒会室にいるとかで来ていない。それで一体どうしろというのか尋ねたところ、ただ待ってろってことだった。

 普通ならあり得ないような、みんな帰っちゃってもおかしくないような話だけれど、兎和様の言うことは絶対だしね。解散って言われるまでは飢えと渇きで一人倒れ、二人倒れしても待ちますとも。


 一見すると、みんな思い思いに過ごしていた。と言っても基本、みんなスマホで原稿を書いてる。ただグループチャット上では、そこそこに会話があった。


宮:今日のあれ、なに?

長:知らん。台本にもなかったし。

日:心臓に悪かった

長:日下さん聴いてたのか?

日:わざわざ本校舎まで聴きに。

長:湯川さんはどう思う?

湯:さあ。すみません。

宮:七不思議のこと、気づいてるかな?

長:どうだろうな。

日:最後、もう一度って何か言いかけてたけど、どういう意味だったんだろ。

長:謎だ。その前に先生来たから。


 さすがに三度目ともなるとバレたかも、という不安はあっても、それで硬直してしまうことはなかった。宮華も表情こそ曇っているけど、唇蒼くして不安で吐きそうなほど緊張したりはしていない。


長:兎和さんは何を待たせてるんだろうか。


 既読はつくものの、誰も返事しない。


宮:もし放送部が七不思議のことを掴んでるなら、なんとか口止めしないと。霧島さんだけならいいんだけど。


 正論だが、下手に同意したくない。他の二人も同じ気持ちなのか、既読だけが付く。とりあえず後でここの履歴消しとこう。


 しばらくすると、おもむろに湯川さんが立ち上った。


「あの。すみません。私やっぱりこういうのは、ホントちょっと。なので、はい。すみません。えっとあの、ほんとすいません。もうあれなんで」


 カバンを持って小さく手刀を切りながら身をかがめて失礼しようとする。


「待った。あの、ほら。湯川さんが心配してるようなことは全然ないから。大丈夫。そもそも湯川さんは何もしてないし。な? それにオレたち、そんな悪いことしてないし」


 すると湯川さんはスッと目を細めた。


「それ本気で言ってます?」


 暗黒湯川さんとも違う、ただただ素で醒めた口調だった。その言葉は呑み込むには苦すぎ、吐き出すにはベタつきすぎていた。


「イチロ! 無理に引き止めないで。それは違うから」


 宮華はオレに言うと、今度は湯川さんに向かって詫びるように声をかけた。


「ごめんね。妙なことに巻き込んだつもりはないけど、不安だったよね。もし落ち着いたら、そのときはまた、遊びに来てくれると嬉しいな」

「はい。私もここは居心地いいんで。あでも、本当に、こんなときでちょっとすみません。ほんとすみません。なんていうかほんと、あの……ごめんなさい」


 そして今度こそ湯川さんが部室を出ようとしたその時、ドアが開いた。


「わっ!?」


 そこには霧島さんが立っていた。


「あ……」


 そう呟いてどんよりした顔で右手を前に伸ばし、左手をだらりと下げてゆっくり入ってくる霧島さんはこの上なくゾンビっぽかった。


 霧島さんは唖然としている湯川さんの前をゆっくり通り過ぎると、部室の真ん中で正座した。そして、ゆるゆると体を前に倒し──土下座だ、これ。


「このたびは、放送内で行き過ぎたことをしてしまい、本当に、申し訳、ありませんでした」


 抑揚のない、棒読みみたいな謝罪。ふざけてる。謝る気がない。でも、放送外の霧島さんはだいたいこんな調子だったので、今ひとつ本人がどういうつもりなのか解らない。


「と、とにかく顔上げて。立って。あ、そこら辺に座ってくれ」


 霧島さんはヨロヨロと立ち上がり、オレたちと向かい合うような形で椅子に座った。なぜか湯川さんもつられて元いた席に戻った。もしからしたらさっきのは無意識に霧島さんの接近を察知して、逃げようとしたのかもしれない。


 オレはそんな霧島さんたちを横目に見ながら、大急ぎで兎和に連絡してた。


長:兎和様! 霧島のやつが謝りに来やがりました!


 すぐ返事がある。


兎:やっぱり。先生に謝って来いって言われると思ってた。

長:なんで先に言ってくれなかったんですか!?

兎:言ったらあなたたち集まらないでしょう? 霧島さんに会いたくなくて。


 正論過ぎて言い返せない。日下さんや湯川さんは確実に来ないだろうし、宮華も怪しい。


兎:ともかく、がんばって。

長:わかりました! お任せください! 必ずや期待に応えてみせます!!

兎:さっきからその口調なに? バカにしてるの?

長:ごめん


 ともあれ、オレたちが霧島さんを待ってた理由は解った。そして兎和に言われるまでもなく、霧島さんがどこまで知ってて何を考えているのか。それを突き止める意外にやることはない。


 さて。現状で日下さんと湯川さんは霧島さんを見ないようにしてるし、宮華は平然として見えるけど滝汗状態でたぶんあれ駄目だ。

 解っちゃいるけど、こういうとき初期に動けるユニットがオレだけってのはどうにかならんものか。


「で、どうしたんだ急に?」

「なんか……先生が謝って来いって。郷土史研究会の評判を落とすようなことしたから」


 そうか。七不思議創りを知らなきゃ、オレたちは風評被害に遭いかけたように見えるのか。心当たりがありすぎて、逆にその考えはなかった。


「怒られたのは放送内容がマズかったからか?」

「そう。えっと。みだりに生徒の不安を煽ったり、野次馬根性を掻き立てるような放送をしたから、だって。あと、先生来たとき最初ドアの鍵開けなかったからよけい怒ってた。私が開けないよう言っておいたからなんだけど、あんな怒らなくても……」


 不服さを滲ませる霧島さん。宮華もたいがいやっていいことと悪いことの判定ガバガバだけど、まさかそれを超えてくるとは。


「そもそもなんであんなことを?」

「あー。面白そう、だったから?」

「は?」

「だから……そのまま話聞いても退屈そうだったから、面白くしようと思っただけ」


 ボソボソと喋る霧島さんの話をまとめると、こういうことだ。

 オレたちと言えば逆ラブ地蔵。逆ラブ地蔵と言えば呪われたかけら。そういえばウチは新設校なのに怪談系の噂が多い。そのあたり突っ込んでみよう。


「そりゃ、まあ、あんな放送事故みたいなの、無関係に聴いてる奴らは面白いだろうけど……。当事者のオレたちはちっとも笑えないぞ」

「ごめん。でも」

「でも?」

「逆ラブ地蔵って、捏造、だよね」

「えっ?」


 なんっ──なんなんだ。なんでいきなりそんな爆弾投げてくるんだ。というか。え? なんでバレて??

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