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第5の不思議︰スニークさん-08

 それは何の前振りもない、完全な奇襲だった。


「なるほど。ゴシップやスキャンダルも100年たてば歴史になるんですね。そういえばウチの学校も色々妙な噂がありますよね。ヒキコサンに部員の幽霊、逆ラブ地蔵の呪いにあかずの首。最近では誰もいないのに足音だけがするスニークさんなんてのもありますよね。こういうのもいつか、郷土史になるんですか?」


 いきなりのキラーパス。いや、違う。ウチといえば逆ラブ地蔵、からの連想ってだけだろう。他意はない。頭が真っ白になりかけながらも答える。


「そうですね。誰かが記録を残していれば」

「じゃあそれはリスナーさんどなたかぜひ。それで、長屋さんはどう思います?」

「どう?」

「だって、一番最初に誰かが言い出したわけですよね? 特にヒキコサンは実際に見たって生徒が何人かいますし、逆ラブ地蔵の呪いは台座のかけらが出回ってるとか。あかずの首もサッカー部で見たって人が実際にいますし、スニークさんもそうです。ってことは誰かが何かを見てる、誰かが噂のもとになるようなことをしてるってことですよね?」


 そこで言葉を切り、霧島さんはオレをじっと見据えた。その目は何かを掴んでいるようにも、何かを掴もうとしているようにも見えた。……って、そうじゃない。神経質になりすぎだ。深い意味はないはず。

 スマホが震えた。マナーモードにし忘れていたのだ。慌てて手にとると、宮華からのメッセージ。短く一言“ふざけたら殺す”。オレはあえてそれを霧島さんに見せた。


「おっと、部員さんからしっかりやれと言われてますね長屋さん。ここはひとつ名推理を期待したいところです」


 しまった失敗だった。話を逸らせられるんじゃないかと思ったのに。やっぱり動揺してるらしい。


「推理って言っても……」

「たとえば逆ラブ地蔵の呪い。先生が台座を撤去して終わったはずが、今もひっそり台座のかけらだっていう石が出回ってる。それは知ってましたよね?」

「え、まあ、はい」


 下手に嘘をついても、つきとおせる自信がない。


「いったい誰がそんなことを。そう思ったりしません?」

「あいや、えっと、たぶん誰かが嫌がらせか悪ふざけで適当な石を……」

「なるほど。発見者としてはさぞ残念でしょうね」

「……そうですね。あの台座から流出したかけらなんて、ただのデマです。だからそいういうものをもし目にしても、本気にしないでください」


 オレは内心、かなり辛い思いでそう言った。いや、言わされた。他に答えようがないけれど、これで逆ラブ地蔵の噂話としての魅力は大きく薄れてしまう。七不思議として語り継がれるどころか、じきに消えてしまうかもしれない。


「とのことですが、はたして真相はどうなんでしょうか」


 え? なんでわざわざ真偽不明にするんだ?


「いま一番ホットなスニークさんはどう思います?」


 そこで霧島さんはスニークさんにまつわる話を具体的に紹介した。


「という話なんですけど」

「ああ。さぁ。不思議ですね……」

「心当たりがあったり?」

「しませんね」

「ですよねー」


 なんなんだろう。仮に何か知ってたとして、こんなところで言うわけない。そもそもオレが何か知ってるかもしれないって本気で思ってるんだろうか。

 それにそんな笑顔であっさり引き下がるなんて、意味が解らない。というかそもそも、放送外での霧島さんを見ていると、放送中の笑顔やなんかは全部嘘、でなければ演技なんじゃないかって気がしてくる。

 言動の一つ一つが疑わしく思えてくる。一方で、自分が勝手に疑ってるだけなんじゃないか、って気もする。ダメだ。混乱してきた。


「やっぱり自分たちに直接関係あるものじゃないと、特に何も出てこないですよね。というわけでもう一度──」


 と、そこでふと霧島さんは顔を上げた。その視線がオレの背後に向けられる。


「おっと。そろそろお時間ですね。残念。それでは最後にリスナーの皆さんへ告知とメッセージを」


 唐突に話が元に戻った。オレは機械的にメモを見て、そこに書かれた内容を読み上げる。


「郷土史研究会では月曜から金曜まで毎日、放課後部室で活動しています。ゆるい部活なので、興味のある人はぜひ見学に来てください。ちなみに今は部誌造りの真っ最中で、これは文化祭1日目にWebマガジンとして公開されます。URLなんかは文化祭の公式パンフに載りますので、そちらもぜひチェックしてみてください」

「はい、ありがとうございました」


 オレが喋っている間も背後に目を据えたままだった霧島さんは最後の“た”を言い終わるか終わらないうちにもうスイッチをオフにした。と同時に背後の扉が開き、オレは振り返った。


「今の放送。いったいどうしたんだ?」


 そこには放送部の顧問と、地獄から呼び戻された死者のように冷たい顔をした仲井真先生が立っていた。

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