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第4の不思議︰あかずの首-12

 部室へ行くと他の三人はもう居た。日下さんはスタンバイモード、宮華は何かノートを前に考え込んでるし、湯川さんは本を読んでるので、本当に居ただけだ。平常運転。全員の視線がオレに向けられる。


「じゃあ、これで全員揃ってるか?」

「どういうこと?」

「いや。とにかく始めるか。えーと、湯川さんが昨日入部してくれたわけだけど」

「その前にいい?」


 宮華が割って入る。


「今やってるあれだけど、噂になってるみたいだし、とりあえず終わりにしたいんだけど。ほら、湯川さん」


 促された湯川さんが慌てて言う。


「えっと、あの、部活前にあの部屋見に行こうと思ったんですけど、あの、日下さんの新しい部屋ですね。そしたら足音とか聞こえたんで引き返してきました。たぶんっ、幽霊を見に来たみたいで、足音からすると三、人、です」


 足音で人数割り出すとか、どこの訓練されたアサシンだよ。ともあれ、そいつらは湯川さんと遭遇しなくて幸運だった。廊下の角から覗いてる湯川オルタさんを見た日にゃ、悪夢にうなされるのは不可避だ。なんなら妖怪覗き女とかいう新しい七不思議が生まれかねない。


「そうだな。あとは噂が残ってくれれば成功ってことで。新学期まであの辺には近づかないようにしよう」


 さて。ここからが本題だ。


「で、話を戻すとだな。湯川さんが入部してくれたってことで、これからよろしくな」

「あっ、はい。よろしくおねがしまっ、お願いします」

「普段は放課後、なんとなく集まってるだけだから湯川さんも適当に来て、適当に過ごしてくれ。七不思議以外でみんなでなにかすることはない……し」


 一瞬、部誌という言葉が呪われた烙印のようにうずいたけれど、オレはどうにか鎮めた。


 さて、本題終了。昨日のまま解散じゃ色々と宙ぶらりんだろうってことで集まったものの、ほか特にすることはない。……ああ、そうだ。


「逆ラブ地蔵の岩がどこにあるかって、どうやって知ったんだ?」

「あ、いや、あれはですね。全然そんなたいしたことじゃ、はい」


 こういうときは饒舌なオルタさんに出てきてほしいな。


「湯川さんが突き止めたってことは、他にも誰か気づく人がいるかもしれない。そこから他の話もな。だから今後の参考にぜひ教えてほしいんだ」



 湯川さんはためらっていたけど、やがて折れた。


「そういうことなら。あのですね」


 岩の行方が気になった湯川さんは帯洲先生が言っていた歴史的価値がどうこうという言葉から、そういうときは教育委員会経由で郷土史研究家や大学、博物館なんかに回されることを調べ上げた。

 そこで教育委員会に問い合わせたところ、岩は帯洲先生に返却されたという。で、今度は帯洲先生のところへ行ったら、岩は忽然と消えた、と言われたらしい。


「誰かが盗んだんじゃないかって」


 そこから話は一気に怪しくなる。ある日突然、あの岩は白瀬川の河川敷にある、と閃いたらしい。しかも具体的な場所の候補までセットで。


「閃いた?」

「はい、あの、ときどきあるんです。急に。言葉だったり、映像だったり」


 候補を巡ってみると、その中の一箇所にあの岩が置かれていたという。裏に漢字みたいなものの一部があり、写真ともそっくりだったので間違いないという。なんとも判断に困る。


「じゃあ、ヒキコサンのことは?」

「私、先に日下さんのこと知ってたんです。ヒキコサンの話が盛り上がったとき、それでどうしてか“それは日下さんなんじゃないかな”って思って」

「日下さんのことはなんで知ってたんだ?」


 当初の日下さんは、ゲームに例えるなら、ソースコードをハックしてようやく存在が判明する、本編未登場キャラみたいなものだったはずだ。


「うちの生徒数ってホームページにありますよね。それで、あの、学校始まってすぐに何か変だなと思って。それで各クラスの人数確認したら、ひとり足りないんですよ」


 湯川さんが言うと、怪談話みたいだ。


「それで、兎和さんにそのことを話したら、日下さんのことを教えてくれたんです」

「学校始まって何かおかしいと思って、うん。なるほど。それは人数が少ない気がしたから、名簿で数を確かめたってこと?」


 オレの言葉に湯川さんは首を振った。


「さあ……解りません。なんとなくおかしいと思って、それは人数とかそういうことじゃなくて、ただ違和感があったんです。クラスの人数は、急に調べてみようって思って。調べてから、これじゃ一人足りないってなったんです」


 オレの理解力の問題だろうか。湯川さんの説明が下手なんだろうか。宮華たちも困惑してるところを見ると、オレの問題じゃなさそうだ。


「つまり、自分でも何がどうおかしいか解らないけど変だと思った。急にひらめいて人数調べたら一人足りなくて、違和感の正体はこれだと思った。そういうことか?」

「はい。です」

「それで、ヒキコサンの噂が出たとき、なぜか解らないけど日下さんなんじゃないかと閃いた」

「はい……」

「部室の幽霊がウチだと思ったのは?」

「さぁ……。あ、そうだ。そうだそうです。あの、たぶん他の部なら話をするとき何部か言うはずだから、ですかね……?」


 こっちが尋ねられても困る。というか、なんなんだこれは。全体的にフワフワしてる。

 ところどころで調査や推理っぽいことはしてるけど、それをした理由や、導き出された結果がなぜそうなのかは本人にも説明できない。なのに正解を出してる。

 宮璃の言葉を借りるなら、ホームズと霊能力者のハイブリッドってところか。さすがに少し気味が悪くなってきた。

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