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第4の不思議︰あかずの首-11

 ドアを出たところで日下さんはオレを待っていた。並んで歩きだす。


「さすがにゴメン。全部任せちゃって」

「ああ、いや……そうだな」

「怒ってる?」

「それどころじゃなかった」

「ジュースおごるから」


 オレの人権、安すぎじゃね? 今どきそんなの子供でもたいして喜ばないだろ。


「いいよ自分で買うから」

「それだと、どうやって償えば……」


 なんでジュース オア ナッシングなんだ。


「逆の立場でオレが同じこと言ったらどうだ?」

「あっ……ごめん」


 やけにおとなしく謝る日下さん。今のジュースの件、素だったのか。


 部室棟を出てすぐの自販機でオレはペプシを、日下さんはレモンの天然水サイダーを買った。日陰のベンチに座る。


「何もできなかった自分を悔やんでもいいんだぞ」

「スクーリング支援の人と話してるとき、できないことは気にしなくていいって」

「そりゃもっともだ」

「……やっぱり怒ってる?」

「どうしたんだ? 今日はやけに素直じゃないか」

「私だって、悪いと思ったら謝るくらいの常識はある」


 これまでも散々に言われたことあったけど、あれは悪いと思ってなかったのか。コイツの罪悪感どうなってんだ。ちょっと戦慄した。


「とにかく、怒ってない。日下さんたちがどれだけ人見知りかよく知ってるからな。いまさらそれで腹立てたりはしない」


 会話が途切れる。オレたちはセミの声や部活の声を聞きながら放心してた。


「宮華さん、よくあんなに喋れたね」

「んぁ? ああ、たぶんオレが湯川さんと話してる間にどうするか決めて、セリフをビッチリ考えたんだろうな。あとはそれを言ってるだけ。初対面の相手にアドリブは無理だろ。下手したら喋りながら半分意識ないまであるぞ。……まあ、なんだ。オレも日下さんもオカルト詳しくないからな。あれは宮華にしかできないことだ」


 あんな厨二病みたいなのが刺さるとは思わなかったけど、ガチのオカルト好きってああいうのが多いんだろうか。



 しばらくして終わったという連絡があり、オレと日下さんは部室に戻った。

 宮華はげっそりしていた。後ろで結った髪の輪もゆるんでるし、サイドの髪がほつれて顔にかかってる。顔色は悪く、目も少しすわってるみたいだ。

 一方の湯川さんは落ち着いていて穏やかな満足感に浸っている。二人が並んでいるところは除霊した霊能力者と浄化された霊みたいだ。


「はい、これ」


 宮華から入部届けを渡される。湯川さんの名前が書かれていた。妙に黒茶っぽい色してるけど、こんな色のボールペンあるんだろうか。それと、部室入ったときから湯川さんが左手にタオルハンカチ握りしめてることには何か関係があるんだろうか。

 ……たぶん変わった色のボールペンしか見つからなかったのと、湯川さんは急に左手だけ手汗が止まらなくなったとかそんなことだろう。深く考えるのはよそう。


 こうして郷土史研究会は冥界から来たような新部員を迎えた。兎和といい湯川さんといい、オレたちちょっと頭の上がらない相手多いなぁ。



 明日また集まることにして家に帰ると、宮璃がいた。だらしなくソファに横たわり、アイス食いながらスマホをいじってる。


「おかえり」

「ただいま。今日はヒマだったのか」

「このあと夏祭りの練習に行くけど、その前にちょっと休憩」

「あれ? そういや峰山さんは?」

「一回家に戻って着替えてくるって」


 正直、今は峰山さんに会いたくないので助かった。たぶん向こうも同じなんだろう。こんなことで明後日の海、大丈夫だろうか。


「なんかお姉ちゃんから湯川さんのこと聞かれたんだけど、何か知ってる?」

「あー。まあ、なんか入部することになった」

「へぇ……」


 宮璃は驚いた様子もない。


「あの人、霊能力者なんじゃないかって噂されてたけど、そんな感じなの?」


 聞かれて思い返す。確かにオレたちの活動をどうやって突き止めたのかは今も謎だし、千里眼的なもので知ったって言われたらあの雰囲気と合わさって説得力あるけど……。


「どうだろうな。オカルト好きみたいだし雰囲気が独特だから、そのせいじゃないか?」

「そっか。会ったことないけど、私はシャーロック・ホームズみたいな人かと思ってた。ちょっとしたことを集めて並べて、答えを推理する感じの」

「あー。そっちの方が霊能力よりありそ──いや、どっちもどっちか。とにかく、今日は特にそんな感じじゃなかったぞ。どうした。気になるのか?」

「けっこうガチで霊能力者なんじゃないかって怖がってる人が何人か居るらしいんだよね。で、その人たちあんまり言いたくないけど、湯川さんのことイジメようとしてた人みたいで。いったい何があったのか、気になるでしょ?」

「なるほど。オレはそいつらみたいにならないよう気をつけるよ」

「イチニィは大丈夫だよ。そんな人ならお姉ちゃんたちとやってけないと思う。私とも」


 宮璃が膝を曲げてくれたので、オレは空いたスペースに腰を下ろす。宮璃の足が俺の太ももに軽く触れる。

 よっぽど疲れてたのか、宮璃の足から癒やし成分が放出されてるのか、オレはいつの間にか寝てしまった。


 目覚めると両親はもう帰宅していた。ふと左手に違和感を覚えて見ると、なにやら紙切れを握っていた。

 紙には宮璃の字で“海、楽しもうね(微妙にリアル寄りで下手なカニの絵)”とあった。


 もう、もうね。これだよ。ただメモがあるだけでもいいけど、寝ているオレを起こさないよう気をつけながら宮璃がそっと左手に握らせてくれたんだと思うと、ずっと暖かい気持ちになる。

 ここ数日かなりキツい日々だったけど、その終わりがこれってのはなかなか悪くなかった。


 まあ明日も部活あるし、峰山さんのこともあるけど。

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