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第4の不思議︰あかずの首-10

 しらばっくれる。脅す。頼む。そうじゃない。湯川さんに言うべきことは一つだ。


「もし湯川さんの言うとおりだったとして、どうするつもりだ? 自分たちにできなかったオカ研を作った腹いせに、みんなにバラすか?」


 さっきからそうだ。意図が解らないから怖い。たとえどんなつもりでも、ハッキリすれば対策も考えようがあるし、未知への不安は消える。訳がわからないものを、訳がわかるものにする。まずやるべきはそれだ。実際、こうやって会って喋ってるだけで、その前までの得体の知れなさはずいぶん消えた。


「そんなことしません。ただ、私も仲間に……」


そこでハッとして言葉を切る。


「あの、えと、すみませんすみません。好きなことになると夢中に……」


 なんだ? 急にまたオドオドしだしたぞ。一瞬で湯川オルタさんから湯川さん(無印)に切り替わったみたいだ。さっきまでの禍々しさも消えている。


「私みたいなのが、みなさんみたいなハイクラスのグループに混ざっても上手くいかないですよね」


 もしかしてこれ、入部希望者なのか? そんな。自力で七不思議創り暴いて、部室やら日下さんの教室で不気味なエンカウントして、それで入部希望です、って。嘘だろ……。手段と目的が関係なさすぎる。


 よし、いったん違う話して落ち着こう。さっき湯川さん妙なこと言ってたよな。


「ハイクラスのグループって、オレたちが?」

「え、あ、すみません。神野さんと日下さんはキレイな人で成績もトップで、生徒会長とか、あの兎和さんもいるし。あの、それで、原口さんたちみたいな、えーと、華やかな感じじゃないんですけど、もっと落ち着いた……」


 言いながらどんどん元気を失い、声が小さくなる湯川さん。

 ふとオレは帯洲先生の邪悪な笑みを思い出した。なんだろう。なんでこんなときに。変な暗示でも掛けられてんのかな……。嫌だよ。オレの思考を帯洲先生で支配しないでくれ……。

 ああ、そうか。これあれだ。部員増えるときの帯洲先生の顔だ。なるほど、実情知らない外部の人間からはオレたちって湯川さんが言ったように見えるのか。


 湯川さんはさっき俺の名前を挙げなかったけど、これは情報不足のせいだろう。なにせ逆ラブ地蔵を見に行ったとき、オレのこと“ラノベ主人公かよ”ってコソコソ言ってる奴らがいたんだぞ。

 それってあれだろ。なんか周りの女子がどんどんオレのこと好きになっちゃうんじゃないかってことだろ。やれやれ。


 うーん。現状だと宮華も日下さんも実はオレのこと好きで、兎和も圭人がいるけどオレに心揺さぶられてて、帯洲先生はオレが卒業までフリーだったら……なんて考えてて、宮璃も義妹から脱却して二人の関係を進めたくって、もし湯川さんも入部するようならいずれはオレに初めての恋心を抱くってことだ。


 ははっ。まいったな。……それが本当なら命の危険を感じる。誰を選んでも誰も選ばなくても、来年の春まで生きられないんじゃないか。


「原口さんとはたまに二人でオカルトの話とかするんですけど、あの、いつもの友達と出かけるとかそういうの誘ってくれるんです。でも、ああいうグループに私が混ざったら、変に浮くし周りから笑われたり、悪く思われたりするに決まってます。私それに、オカルトの話くらいしかできないんで、原口さんの友達と話せることもないですし」


 普段から考えてることなのか、わりとスラスラ哀しいことを言う。ただまあ、確かにそういうことってあるんだよな。


「原口さんたちのことはよく知らないけど、オレたちは湯川さんが思ってるような人間の集まりじゃないぞ」

「原口さんもそう言ってました」

「原口さんのことは一回忘れよう。な? とにかくオカルトに限っても、宮華が多少詳しいだけで他の部員は全然だぞ」

「はい。それはもう、それでいいんで。さっきのは勢いでつい。元からダメだと。すみませんでした」


 そう言うとペコペコしながら立ち上がろうとする湯川さん。やれやれ──。


「待った!」


 とっさに引き止める。あっぶねー。関係ない話してて忘れてた。


 この状態の湯川さんを野に放つのは危険だ。本人の言うとおり暴露する気がないんだとしても、今後変わらない保証はない。そもそも今だって、本当に暴露しないって証拠はない。となると、言い方は悪いが目の届く範囲にいてもらって、監視できた方がいいんじゃないか。

 

 ただ、オレの独断で入部させることはできないし、湯川さんだってさっきから入部はしないって言ってる。となると、えーと、どうなりゃいいんだ?


 オレは宮華を見た。宮華は目をそらす。日下さんを見ると、まだ横になってる。が、いま頭おろしながらスッて目ぇ閉じたよな。いつの間に復帰したんだ。


 とにかく、二人から見捨てられたオレは一人でどうにかしきゃならないらしい。二人の薄情さについて言いたいことは山ほどあるが、今この瞬間はそんなことに気を取られてる場合じゃない。


 オレは思考をフル回転させて考える。


 えー、ひとまず湯川さんが入部を希望して、オレが他の部員と検討するから待ってくれって答えて、縁を切らずに時間を稼ぐ。そんな状況にするのがいいんじゃないだろうか。というか、それしか思いつかない。


 ひとまずウチの部活をアピールせねば。

 

「実は、ウチの部員はみんな他人と関わるのが苦手なんだ。だからこそ、同じようなタイプの人からは居心地がいいとご好評いただいてまして……」


 そう言って愛想笑いを浮かべる。


「だから原口さんたちとは全然、もう全然違うから。そもそもオレたちのことなんて、普段誰も気にしてないだろ? そういうことだよ。この部活棟の片隅でひっそりと過ごしてるだけなんだ」

「はぁ」


 急にプレゼンが始まったことについて行けず、湯川さんは戸惑ってるようだ。


「湯川さん、部活は?」

「してませんけど、あの」


 立ち上がろうとする湯川さんを手で制する。


「ウチはノルマとか、毎回来なきゃいけないとか、時間の縛りなんかもないし、掛け持ちもオッケー。とにかく緩いんだ」

「いやっ、でも私」

「入部とか抜きにしてさ。もし湯川さんが言ったようなことをオレたちがやってたとして、一緒にやらないか誘われたら、どう?」

「どうって。あの、すみません。私。そういうのは、ちょっと。みなさんがしてることに気づいて、きっとオカルト好きなんだろうとか勝手に思っただけで、自分がやるのは、なんか、怖いですし」


 おっと。


「でも、自分の考えた話があんなふうになったらいいな、とか」

「いえ。特には……。すみません」


 おおっと。これ詰んだな。てっきり七不思議創りに加わりたいんだと思ってた。

 前提が崩れたうえにオカルト仲間を求めてただけなら、オレにできることはない。オカルト好きなふりしときゃよかったと一瞬だけ思いもしたけど、入部されたらすぐバレるような嘘をつく意味はない。


「あの。もし言いふらされること心配してるんでしたら、大丈夫です。だれにも絶対喋りませんから」

「ああ、うん」


 オレは投げやりに返事する。湯川さんの言葉が本当だろうがどうだろうが、どのみちオレに打つ手はない。あとはただ、湯川さんがこのことを秘密にしててくれると信じる、いや、願うことしかできない。相手の希望がシンプルなだけに、打つ手のなさがすぐにわかる。


「ゆっ、湯川さん。待って」


 上ずった声がした。宮華だ。


「ごっ……合格、よ」


 そして一歩踏み出す。たぶん力強い足取りとかを目指したんだろうけど、膝が震えてて生まれたての子馬みたいだ。


「あなっ」言葉に詰まり、宮華は深呼吸した。「あなたの見破ったとおり、こっ、ここは郷土史研究会を隠れ蓑にしたオカルト研究会。ただし、そのことを知っていたのは私だけ。ああ、うぅ、そう。私だけ。そして私はイチロたちに真の目的を隠したまま、あなたが言ったようなことをしてきたの。まるでメイソンの内陣がイルミナティに通じていて、何も知らないその他の会員が、知らぬ間にイルミナティの手先として動いているようなもの。なぜそんなことをするのか。それはあなたのように真実を見抜いてここまで到達する、優れた同志を手に入れるため」


 喋るうち熱中してきたのか、だんだん小芝居に調子が出てくる。……芝居なんだよ、な?


「そしてあなたは見事、あちこちに散りばめられた手がかりから自力で真実にたどり着いた。オカルトを愛する同志として、ふさわしい観察眼と洞察力ね。この会の内陣へ迎え入れるのに、ふさわしい人材」


 なんのことだかサッパリだが、オカルト好き的なやり方でめっちゃ褒めてるんだろう。

 まさか宮華にこんな引き出しがあるなんて知らなかった。ホラーとか好きなわけだから、自然なのかもしれないが。


 一方の湯川さんは感動した様子で、さっきまでとは違って目に光が宿っていた。


「それじゃあこれから入会の秘儀をするから、イチロと日下さんは部室から離れてて」


 すると、気絶したふりをしていた日下さんは椅子から立つくらいの自然さでムクリと起き上がり、部室を出た。オレもあとに続く。

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