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第4の不思議︰あかずの首-08

 オレたちの注目に対して、宮華は力まず言った。


「あのメガネの娘をどうするか。いちおう考えてきたよ。あ、その前に。イチロ、宮璃から何か聞いた?」

「いや。会う機会はあったんだけど、ちょっと、な」

「なに? まさかと思うけどケンカでもした?」

「違う。宮璃の友達と、ケンカとかじゃないんだけど」

「……そう。大丈夫? 警察呼ぶ? 自首する?」

「事案でも淫行でもねぇよ!」

「ああ、そう。まあ、あんまり他人に迷惑かけないようにね」

「解ってる。そういうんじゃないんだ」

「ま、あんまり詳しく聞いたりはしないけど。とにかく私の方は昨日ようやく宮璃と話ができて、眼鏡の女子生徒に心当たりないか聞いてみた。情報が少なすぎるから無理かと思ってたんだけど、いちおう候補っぽい生徒が一人。1組の湯川裕乃さん。知ってる?」

「いや、知らん」

「原口さんとオカルト同好会作ろうとしてたらしいんだけど……」

「あれ、原口さん一人じゃなかったのか」

「あんまり表立って動いてはいなかったみたい」

「にしてもオカ研かぁ。どちらかっていうと、あの女子は研究するよりされる側って感じだよな」

「それはヒドい」

「言い過ぎ」


 二人からガチめのトーンで叱られる。


「で、基本的にはおとなしくて目立たない生徒なんだけど、気になることがあるの。一つ目は、兎和さんが彼女のこと苦手らしいの」

「え? あの兎和さんが!? いやだって、あの人って無敵なんじゃないのか?」

「でも、前に本人が宮璃に言ってたんだって」


 どういう話の流れだったんだろう。それ以前に、あの二人に接点があったことの方が意外だ。


「もう一つは彼女、中学のころ周りから霊能力があるんじゃないかって思われてたみたい。何でも、たまに知ってるはずないことを言い当てたりしたみたい。本人はたまたまだって言ってたらしいけど、それもあってなんとなく周りから距離を置かれてたって話」


 兎和が苦手意識を持つ霊能力者……。


「そんなのオレたちの手に負えないだろ。どうすんだ?」

「そのことなんだけど、結局それでも生身の女子なわけでしょ」


 “生身の女子”って言い回しに嫌な予感がする。


「だからイチロが捕まえて陵辱でもして、その様子を動画に撮って脅せばいいんじゃないか?」

「なるほどね。あの娘には可哀想だけど、真相を知られてバラされるよりはいいのかも」


 オレこんな人らと部活やってんの? マジか。さすがに最低だろ。


 そんなオレの思いが現れてたのか、宮華が慌てて言う。


「冗談だって。女子ジョーク」

「なんだそりゃ」

「ほら、女子同士だけだと意外とエグいシモネタを言ったりするっていう」

「いまのシモネタだったのか……。というか、あれ本当なのか? 本当にそんな話してんのか?」

「さあ、知らない。私そういうのナシな人だから」


 ありなし以前にそういう女子の会話に入った経験ないだろう、と指摘して自分が仄暗い水の底から来た哀しい生命体だってことを思い出させようかと思ったが、可哀想なのでやめておいた。優しい世界。


「で、本当はどうするんだ?」

「教室の前に居るところを捕まえて話を聞く。イチロが」

「長屋くんなら大丈夫」


 確かに、あれこれ考えるより直接話した方が早いってのは解る。あと、この中で初対面のヤツとまともに話せるのはオレだけだから、それはまあいい。


「どうやって呼び出すんだ? 来るかどうかも解らないのを待つのか?」

「宮璃の話だと、兎和さんなら連絡取れるかもって」

「つまり、兎和に呼び出してもらうのか……オレが?」

「そう。あれで兎和さん、イチロのこと気に入ってるみたいだから」

「長屋くんなら大丈夫」


 日下さん、ちょっと飽きてきてないか? なんで兎和さんが湯川さんの連絡先なんか知ってるのか謎だが、宮璃がそう言うんならそうなんだろう。


 オレは兎和さんにメッセージを送った。


“ちょっと頼みたい”

“なに?”


 すかさず返事がある。手が空いてれば兎和はレスがめちゃくちゃ早い。


“1組の湯川さんって女子を部室前に呼んで欲しい。オレたちのことは伏せて”

“解った。待ってて”


 少しして、返事があった。


“今から行くって”


 今から? オレはとりあえずそのことを二人に伝える。すると、すぐにまたメッセージが来た。


“今向かってる”

“もう着く”


「は?」


 なんかそんな怪談あったよな。最後は“今、あなたの後ろに立ってる”とか言われるやつ。

 誰もいない廊下を歩く足音が近づいてくるのが聞こえた。校内に居たのか。背筋が薄ら寒くなる。


「もう着くって」

「「え?」」


 困惑する二人を放って、オレはダイイングメッセージ並のスピードと必死さで兎和にメッセージを送った。


“ありがとう”


 “いえ”という返事が届くのとほぼ同時に足音は部室の前で止まった。慌てたように宮華が声を潜めて言う。


「いい? イチロが廊下に出て話しかけて足止めする。その間に私たちが出て行って逃げ道を塞いで、そのまま部室に連れ込む」


 それ、ワゴンとかで拉致るときのアレみたいだな。ともあれ、やるしかない。オレは廊下へ出た。


 そこにいたのは、あの女子だった。灰色のTシャツによくわからん野暮ったいデニム風ワンピースを着ている。


「えっと、湯川さん、かな?」

「えぁっと、は、はい。あの、人に呼ばれて、その」


 言い終えるより先に反対側のドアから宮華たちが出てきて、湯川さんの背後に立つ。驚いて振り返った湯川さんが目にしたのは、人見知りを発動してこわばった顔の宮華たち。いまの二人なら、普通に湯川さんが脇を通り抜けても何もできないんじゃないか。ヤバいな。


 と思ったが、またこっちを向いた湯川さんの顔もまた、緊張していた。宮華と日下さんの表情を“厳しい顔”とでも思ってくれたらしい。


「あの、すみません。その、邪魔でしたよね。すみません。あの、あの」

「兎和さんなら来ないぞ。オレたちが頼んで、湯川さんを呼んでもらったんだ」

「え?」

「とりあえず、中に来てもらおうか」


 オレたちは湯川さんを取り囲んだまま、ぎこちなく歩いて部室に入る。ドアを閉め、二つあるそれぞれに宮華と日下さんが立つ。逃げられないようにしているんだろうけど、事前の打ち合わせもなしに自然とそういうことができるのってなんか怖いな。


「適当に座って」

「は、は」


 はい、が出てこないらしい。ガクガクと首を縦に振ってる。

 座った湯川さんは脂汗を流し、メガネはずり下がり、怯えてる気弱な女子にしか見えない。廊下やモニターで見たときの印象はオレの心が生み出したものだったんだろうか。


 うーん。それにしてもメガネ以外の特徴がないな。痩せてもいないし太ってもいない。細くも太くもない眉の下の目は大きくも小さくもない。鼻は高くないし、低くもない。その下の口もまあ普通だ。言葉でこれほど説明しづらい顔もない。


 ──さて。話を聞くことにはなったけど、どうしたもんか。

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