第4の不思議︰あかずの首-05
土曜日。部室へ行くと宮華がいた。
「ねえ。イチロが日下さんの教室で見た生徒って、小柄でメガネしてて、おとなしそうな子?」
「ああ」
「私が来たとき、部室の前に立ってたの。ドアのほう見てたからどうしようかと思ってたら向こうが先に気がついて、考え事してたとかなんとか言いながら逃げちゃった」
「オレのときと一緒だな」
嫌な予感しかしないが、それ以上に怖かった。そいつ、オレたちの周りで何やってるんだ。
「なあ、取り憑かれてる、とかないよな? 七不思議創ろうとしたせいで呼び寄せたとか?」
「そんな話聞いたこともないけど、七不思議創り自体が前例ないしね。けどあの子、何度か見かけたことあるから取り憑かれてるわけじゃないと思う。生身の人間に執着されるのも同じようなものかもしれないけど」
一気に暗い空気になるオレたち。すると日下さんが入って来た。
「えっと、もしかして、見た?」
オレたちを目にするなり尋ねてくる。
「オレは見てない」
「日下さんも?」
「ええ。廊下の角を曲がったら部室の前にいたから、すぐに引き返して時間潰してた」
誰を、あるいは何を見たのか。言うまでもなく通じ合える。
「日下さんは見覚えある?」
「ない」
沈黙に呑まれる。前は日下さんの教室。今度は部室。もしかしなくても、オレたちにとってかなりの危険人物なんじゃないか。
少しして、宮華がなにかを決意するように言った。
「イチロ。私とあなた。先に宮璃に会ったほうが、何か知らないか聞いてみよ? あの子勘が鋭いから疑われないように気をつけて」
「そうだな。そうしよう」
最初から思わぬ恐怖体験にテンション下げられてしまったが、落ち込んでるわけにもいかない。
「じゃあ、二人とも考えてきた? イチロはどう?」
「オレか日下さんが宮華にメイクしてもらって窓に立つってのはどうだ? 特殊メイクもできるんだろ?」
「できるけど……。元の顔が解らないくらいのメイクだと、どうしてもマスクに近い、つまり本物と見間違えるほどにはなかなかならないの。特に明るい場所だと見抜かれちゃう。私の腕前を抜きにしてもね」
あっさり否定されるが、まあ予想してたことだ。
「じゃあ、プロジェクターで窓に何か映すとか」
「窓はプロジェクターの光を──」
「通すから映像が映らないって言うんだろ。なんかガラスにプロジェクターの映像映すための透明なシートがあるって見たぞ」
「あるにはあるけど離れていても、特に見上げるとか角度があると、平たい映像がガラスに映ってるだけだってのは意外と解るからね。少なくても、部屋の中に何かがいる、みたいには見えない。他にもいろいろと……実際に見せられれば早いんだけど」
「いや、思ったようにならないのは解った」
「じゃあ、他には?」
「これだけだな。話は仕掛けが決まったらと思ってたから」
「そう。日下さんは?」
「私は話を考えてきた」
答えると日下さんはメッセンジャーにテキストを送ってきた。
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使われていない校舎の使われていない部屋には、使ってはいけない部屋が一つある。
その部屋には星高に合格したのに入学前に事故で死んでしまった生徒の霊が現れる。
もし誰もいないはずの部屋の窓に誰かが立っているのを見ても、その他に何を見ても、絶対にその窓のある部屋まで確かめに行ってはいけない。それは生徒を呼び寄せるためにやっている霊の仕業だから。
生徒の霊は今も、ほとんど人の来ない校舎にみんなが登校してくるのを待っている。誰かの体を乗っ取るために。
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「シンプルでいいな。本当にこういう話ありそう」
「私はむしろ、怪談っていうよりホラー映画の導入みたいでいいと思った。うちの学校って、ほとんどが使われてない建物でしょう? そのどこかでひっそり犠牲者を待ち構えてるって感じはウチの生徒にウケそう。こういう話って“解る”って思ってもらえないと根付かないから」
確かに、この広い校舎のほとんどが無人だとあらためて思うと、なんとなく不気味だ。
ふと、先日の日下さんの引っ越しのときに出会った生徒のことを思い出して、慌てて打ち消す。
「実際この話で行くとしたら何をやるかと、どうやって話を広めるか、だな」
「どうやって話を広めるかはともかく、何をやるかについては考えてきた」
宮華は床の大きなバッグから何かを取り出して机に置いた。
それはアルミっぽい金属と木材を組み合わせた台座に、髪の長い不気味な女性の頭部を載せたものだった。
「中学のときに作ったんだけど、よくできてるでしょ?」
「お前が作ったのか? この、頭も?」
「そう」
「すごい……」
思わず、といった感じで日下さんがつぶやく。
「でしょう?」
宮華が得意げになるのも無理はない。その頭はよくできていた。さすがに本物と見間違えるようなことはないが、貞子とか伽椰子とかそういう感じの女の幽霊っぽい顔には狂気と迫力、気持ちの悪さが出ていた。デッサンも確かだし、造形レベルが高いのはオレにも解る。中学生で作ったとは思えないクオリティだ。
「天才少女かよ」
「私、美術の成績良かったでしょ?」
そういえば昔から図工、美術の作品のデキが飛び抜けてたっけ。興味なくてあんまり意識してなかった。
見た目が良くて成績優秀、身体能力も高いのに美術の才能はあるわ溶接なんかの技術はあるわで、これは明日にも運営から弱体化させられるんじゃないか? もしくは公式戦だと使用不可にされるとか。
「それで、ちょっとこのヒモ引っ張ってくれる?」
言われてオレは台座から伸びる細いワイアを引いた。ゴロンと頭が台座から転がり落ちる。
「あっ、ごめん」
「そういうものだから大丈夫」
宮華は床から頭を拾い上げる。
「つまりこれを窓から見せるってことか? うーん。デキはいいけど、さすがに本物と見間違えるってことは……」
「もちろん、顔は見せない。窓に背を向けて立たせるの」
そして宮華はやろうとしていることを図も交えて説明してくれた。それはなかなか上手く行きそうな計画だった。
「話についてはどんな形になるか読めないけど、誰もいない部屋に何かが出るってところはクリアできると思う」
そして、火曜日にオレたちは新しい七不思議創りを実行することにして終わった。




