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第4の不思議︰あかずの首-04

 その後の一週間。オレは宮璃の宿題に付き合ったり、惰眠を貪ったり、空いた時間で七不思議について考えたりして忙しく過ごした。


 ちなみに宮璃はハチャメチャに忙しい。さすがに平日は学生の友達との予定しかないが、土日やお盆は社会人の友達との予定も多く、夏祭りも複数にヘルプで入っている。


 チラッと見せてくれたスマホのスケジュール帳は人智を超えた複雑なことになっていたし、2回行動、3回行動はもはや暇な日と言える。

 それだけの交際費がどこから出てるのか謎だが、きっと宮璃のお年玉貯金を何百倍にも増やしてくれる投資家の友達とかがいるんだろう。知らんけど。


 そんなわけで、神野家とわが家はベースキャンプとしてフレキシブルに利用され、家で一人だと寝ちゃう、という謎の理由で宿題はオレの監視のもと、隙間時間に少しずつ進められていた。宮華はおおむね、叔父の家にいるらしい。


 宮璃は正直あんまり成績が良くないのだけれど、宿題やなんかはキチンとこなすのだ。

 しかし、さすがにこの超人的なスケジュールは宮璃も手に余るらしく、峰山さんというヤンキーとギャルを足して割り切れなくしたような女子が付き人みたいに行動を共にしている。

 宮璃によると、峰山さんは父子家庭なうえ、父親が国際輸送船の船長だとかでほとんど家にいないとのこと。


 一度、家で三人で宿題をしていると峰山さんのスマホが鳴った。


「はい。もしもし。は? だからミヤリンはその日カラオケ行ってから町内会顔出すっつっただろ。 ナイトプール? 女子中学生つれてナイトプールとか、社会的に死ぬ気か? ありえないんですけど。てか、そんな金あるんなら藤田に金返してやれよ。甘いひとときは別金? おま、乙女みたいなこと言ってんなよ。甘いものは別バラだろそれ。マジウケんな。あーい。んじゃなー」

「あの、今のは?」

「バカだよ。バカ。同じガッコのセンパイ」

「ナイトプールって」

「イキってるだけだって。中学生三人でそんなとこ行ったら補導されるに決まってっし。あいつそんな金ねぇし。だいたい友達に借りた500円が返せねぇとかありえねぇだろ」


 まあ、そんな感じの娘だ。そしてオレとミヤリンこと宮璃と峰山さん。あと、二人の同中友達の女子たちとで8月に海に一度、花火大会に一度、行く予定になっている。


「イチニィにも夏休みっぽいこと、絶対あった方がいいって。何十年後とかに、きっと感謝すると思うよ」


 ということで強引に誘われたのだ。ちなみに、これについて峰山さんは──


「ミヤリンの年上のイトコがついてくって言うと、親の許可出るんだよねー。ほら、あたしら女子中学生っしょ? だけで海とか花火大会とか、マジありえなくね? ってなるわけ。あ、そうだ。ミヤリンには内緒だけど、あんた大学1年ってことになってるから。当日はもうちょいなんとかして。マジ頼む」


 と言っていた。よっしゃマジ頼まれた。お前からもイチニィって呼ばれるようになってやるぜと思ってるものの、今から失敗の予感でかなり胃が痛い。


 イトコ? そこで首を傾げてるキミ。気付きさえしなければ、明日からも平穏な心で生きられたものを……。

 まあ、イトコってことにしとくと説明が楽なんだよね。ウチの親もご近所さんに宮璃のこと、親戚の子って説明してるし。もちろん神野家公認の設定だ。


 ちなみに、1学期最後の部活でオレが曖昧にして、宮華が察した“予定”ってのがこれだ。なにせ宮華は人見知りが激しい。妹と二人で出かけることはできても、その友達も一緒となると絶望的だ。だから、そういうイベントではいつもオレが誘われる。


 娘二人が夏休み中ろくに家にいないにもかかわらず、宮璃たちの両親はあまり心配していない。神野家は“子供の自主独立を尊重する”という、アニメやマンガでよくある校訓みたいな教育方針なのだ。


「そもそもお姉ちゃんは叔父さんの家にいるだけだし、私も今まで危ない目に遭ったりしてないから。イチニィだって私のこと、そんなに心配にはならないでしょ?」


 確かに宮璃はオレより、いや、そこらの大人よりずっとそのへんしっかりしてる。きっと向こうの親も、そういうことなんだろう。信頼と実績ってヤツだ。



 そして、また木曜日。早めに着いたオレは日下さんの教室前の廊下で足を止めた。


 誰かいる。


 小柄な、見慣れない女生徒だ。ウチの制服を着てる。

 彼女は日下さんの教室の前に立ち尽くし、じっとそのドアを見つめている。


「あの」


 声を掛けると、女生徒は驚いたようにこちらを向いた。切りそろえられた髪が肩のあたりで揺れる。

 黒縁の野暮ったい眼鏡をかけた、これといって特徴のない地味な顔立ち。同じ学年なのでなんとなく見覚えはある気がするが、誰かは解らない。


「えと、あ、あの、すみません。ちょ、ちょと考え事を」


 向こうは早口にそう言うと会釈して、俺に背を向け走り去った。足音がガランとした廊下に響きながら遠ざかり、階段を駆け下りる音が小さくなって消えた。


「なんだったんだ」


 オレはさっきまで女生徒の立っていた場所まで行くと、ドアを見た。特に変わっところはない。仕方なく、来るときに買ってきたマンガを読んで二人を待つ。


 それから少しして。ふと、視線を感じて顔を上げると、いた。

 走り去ったはずの女生徒が、角から顔を覗かせてこちらをジッと見ていたのだ。


 オレがそちらを見るのと同時に彼女は顔を引っ込めたが、間違えようもない。


 そのとき一瞬目にした彼女は、さっきとはまるで違っていた。何かが微妙に、そして決定的に。厨二病臭い言い方だけれど、同じ人物の皮をかぶった得体のしれない何かが、二つの目の穴からこちらを覗いているようだった。


 わざわざ上履き脱いで、こっそり戻ってきたのか。なぜか、最初に頭に浮かんだのはそんなことだった。

 エアコンが停められて暑い廊下。それなのに鳥肌が立っている。そのことに気づいてやっと、オレは恐怖を感じた。



 それからしばらくして、宮華と日下さんが一緒に現れた。


「学校の前で一緒になって……って、どうしたの? 体調でも悪い?」


 宮華に聞かれて、オレはさっきのことを説明した。不安そうになる二人。


「誰か1年の女子なんだから、そんな怖がることもないけどな。よし、じゃあさっさと片付けるか」


 わざと明るい声を出すと、オレたちは中へ入った。



 引っ越しと言っても、たいして荷物があるわけじゃなかった。せいぜい段ボール1個で余るくらい。イスも日下さん一人で運べる。手伝いが必要なのは折りたたみ式の会議テーブル二つと、黒板代わりのホワイトボードだ。

 というわけでそちらはオレと、女子にしては力のある宮華が二人がかりで一つずつ運ぶことになった。エレベーターもあるけれど、稼働してない。


「そういや入学してすぐのとき、誰も乗ってないエレベーターが勝手に動いてるって、騒ぎになったよな」

「あれでしょ? 少しは動かしてないと駄目になるからって、一日一度自動で動かしてたってやつ。本当は夜中のはずが設定ミスってたんだよね?」

「そう。あれ、何か七不思議に使えないか?」

「エレベーターは題材に良さそうね」


 そんなことを話しながら、えっちらおっちら階段を上ったり下りたり。

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