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第4の不思議︰あかずの首-01

 夏休みに入って最初の木曜14時半。部室へ行くと日下さんがいた。


「早いな」

「ちょっと用が……」


 机にぐったりと突っ伏したまま、日下さんが答える。ちなみに部活自体は15時からだ。


「そうか」


 オレは特にそれ以上なにかを尋ねることもなく、さて持ってきたマンガでも読むか、と座りかけたところで日下さんが体を起こした。


「どうした?」

「あ……。やっぱりいい。宮華来てからで」

「そうか」


 それきり会話が途絶える。とくに仲が悪いわけでも、気まずくなるわけでもない。お互い無理に話さなくていい。そんな感覚でいたら、自然と会話が起こらないだけだ。その意味では、親しくなった結果、あんまり喋らなくなったと言ってもいい。


 しばらくすると、二人のスマホが鳴った。宮華からだ。


“先にこれ読んでおいて”


 続いてレシートみたいな長文が届く。どうやら七不思議を考えるにあたってのコツや注意点などが書いてあるらしいのだが、正直読む気がしない。日下さんもチラッとだけ画面を見て、すぐに閉じてしまった。


「これ、本当にオレたちが読むと思ってるかな」


 日下さんは視線を宙にさまよわせて少しのあいだ考え込むと、ため息をついてスマホの画面をつけた。オレも宮華の文書に目を落とす。

 しかし本当にこれ長いな。しかもなんか、こうしている間にも追加が送られてきてる。


 冒頭は七不思議創りについて宮華なりの哲学が語られていた。そこから七不思議とは? みたいな話になってそこでも宮華なりの持論が展開されていた。

 本題出てこねぇ……。けどそれぞれの文章は解りやすく理論的で、これだけ読んでると宮華って頭いいんだな、って思わされる。いまにも炎上しそうな言動が多く、案外ポンコツなところもある普段の宮華とは大違いだ。って、まだ本題出てこないのか。


「だいたい解った」


 オレがまだ半分も読んでないうちに日下さんはわざとらしく言うと、画面を切った。読むの諦めたな。


 日下さんは再び机に突っ伏すと、何をするでもなくぼんやり視線をさまよわせている。

 今に限らず、日下さんはすることがなくなると楽な姿勢になって、ぼんやりしている事が多い。こういうときは何を考えているでもなく、目を閉じてても寝てるでもなく、本人いわく“無。無よ”らしい。オレはスタンバイモードと呼んでる。

 これといった趣味もない日下さんは引きこもっていたときも勉強や食事、入浴など最低限やることをやっているとき以外はその状態で時間を過ごしていたそうだ。


 “勉強さえしてればいつでも戻れるって安心感があったから”と言っていたけど、復帰の予定もなく、どんな見通しもなく、静まり返った平日の昼間にひたすら何もせずじっとしているなんて、オレだったら耐えられない。たぶん精神構造が全然違うんだろう。


「今日は案出しってことだったけど、考えてきたか?」

「考えてはみたけど、まとまらなかった」


 少しも動かず、日下さんは答える。オレの方に目を向けもしない。


「そうか」

 

 会話が終わる。いつもそうなんだけど、これ、あれなんだよ。オレが会話のボール投げても、日下さんキャッチしたらそれをそっと足元に置くんだよね。別にそれでもいいんだけど、いつか投げ返してくれるって、部長信じてる。


「宮華の送ってくれたやつはどうだ? 何かヒントになりそうか?」


 オレは日下さんの足元に置かれた会話のボールをわざわざ自分で拾ってもう一度投げた。それにしても、思春期の娘に話しかける父親みたいなセリフだな。

 日下さんはなにか言いかけてやめ、結局こう返してきた。


「そんなに簡単じゃないんじゃない?」


 そう言いながらも、再び画面をつけて続きを読みはじめる。



 しばらくすると宮華がやって来て部活が始まった。


「さっそくだけれど、二人ともなにか考えてきた?」

「上手くまとまらなくて」

「オレも考えはしたけど、できなかった。怪談サイトとか見てネタ探しして、なんとなく怖そうな話を思いついたりもしたんだけど、それをウチの学校でオレたちが何かして、話として広めて残るようにする。って、どうやってもそこがサッパリ思いつかない」

「たとえば?」

「お札がなにかの裏に貼られてる、とか。実際やっても、そんなのただのイタズラだとしか思われないだろ? そこからどうにかならないか考えたりしたんだけど、どうにも、なあ」

「裏にお札ってのは誰でも知ってるし、発想としては悪くないけど……。そうね。成立させるには工夫が必要そうね。でも、案出しなんだから、そういうのでもオッケー」

「宮華はどうだ?」

「私も実現できなくて諦めたんだけど。廊下を一人で歩いてたら後ろから足音が近づいてきて、追い抜かされるんだけど誰もいなくて、足音だけが先に行って消えちゃう、とか」

「できるのか?」

「立体音響設備を、見てバレないような形で施工できれば……。つまり技術的には可能そうだけれど、実現はできないってこと。日下さんは?」

「あかずの間。あかずの間に誰かいるって、怖いんじゃない? 入学してすぐに、一度スクーリングしてるあの部屋から出たら、たまたま他の娘が通りかかったところで、凄く驚かれて、走って逃げられちゃった。私が油断してたの。そっちが昼休みだったのよ」


 入学直後ってことは、日下さんが髪ボサボサで顔隠しながら、白いワンピース着てたころか。そんなのがいきなりドア開けて出てきたら、そりゃ驚くだろう。オレでも悲鳴あげると思う。


 その後もオレたちは考えきれずボツにしたネタを披露しあったり、宮華がそれについてコメントしたり、考え方について軽く講義したりして過ごした。

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