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第3の不思議︰逆ラブ地蔵-11

 ご満悦で兎和が帰った後。部室は妙な空気に包まれた。


「それで、その」


 どうにかしようと口を開いたものの、言葉が続かない。


「夏休みは活動あるのか?」


 ようやく出てきたのがこれだった。


「そのことなんだけど……。できれば週一くらいで集まれない? 残りの不思議の案出しをして、少なくとも四つ目を決めて、できれば仕込みにも入りたいと思ってて」

「続けるの?」


 日下さんの言葉ももっともだった。なんというか、あまり何もしてない割に逆ラブ地蔵の話はひどく疲れる案件だった。兎和に少し免疫のあるオレでも心折れそうになってるんだ。日下さんなんかはかなりゲージ削られたことだろう。


「もちろん、気が乗らないなら無理に手伝ってくれなくていい。それで日下さんがを悪く思ったりするほど私も身勝手じゃない」

「それは私も解ってる。でもねぇ。このまま続けて大丈夫? バレたら身の破滅じゃないの。私はまたスクーリングに引きこもってればそれで済むけど、宮華さんは」

「私たちは最初からその覚悟でやってるから。たしかにここで手を引くのが安全で楽な道かもしれない。でも、七不思議創りをしてたから、私には日下さんっていう初めての大事な友達ができたの。その切っ掛けになった七不思議を簡単に諦める気にはなれないの」


 いま、さり気なく“私たち”って言ったよな? オレはさすがにそこまでの覚悟は……してない、と言えば、じゃあバレたら破滅しそうなことに気づかず軽い気持ちでやってるのか、ってことになって、流石オレもそこまでアホじゃないわけだが……。

 あと“初めての大事な友達”って、オレは? オレも七不思議創りなければ宮華と接点ないよな? あれか? 言葉の厳密な意味でオレは昔から知ってるから“初めて出会えた”わけじゃないってことか?

 それと日下さんがオレは別に破滅してもいいって思ってるくさいことが解った。


 そんなふうにアタマの中で忙しくツッコミを入れながら、オレは無言で二人を見守った。たしか“百合の間に挟まる男はなるべく長く苦痛が続くように拷問を受けた上で死ね”って格言があったよな。


「私だってついこの前まで二度と友達なんてできないと思ってたし、宮華さんは大事な友達だと思ってみたりしてるところではあるけれども。……その、出会えてよかったな、とは、ね?」


 かなり気恥ずかしいんだろう。小声で回りくどいことを言う日下さん。顔もうつむいてる。

 宮華はそんな日下さんを見て、なんとも痛々しい微笑みを浮かべた。


「やっぱり、日下さんは七不思議創りから外れない? だってよく考えたら、大切な友達をこんな危険なことに巻き込みたくないもの」


 今さら言うかそれ? 日下さんにもさんざんアレコレさせてきただろ。まあでも、今になって気づくところとか、気づいたらすぐにそれを認めて改めようとするところは宮華らしい。

 あとオレのことが出てこないのは言葉の厳密な意味ではオレが“大切”じゃないってこと……だとダメだな。“友達”じゃないってこと……でもヒドいな。そうか。オレは厳密な定義では“頼れる相棒”枠だからってことでいいかな?


「さっきも言ったじゃない。私は失うものなんてほとんどないの。宮華が思うような危険に晒されてなんていない。だから遠慮しないで手伝わせて。その……友達、でしょう? 友達が危険なことをしてるときに、見ないふりなんてしたくない」


 オレが思っていた以上に、二人のあいだには色んな想いが渦巻いてたんだなぁ、と気付かされる。友情と絆を確かめあい、深めあういい場面なんだけれど、阻害感がスゴいのとツッコミに忙しいのとでオレの気持ちは醒めている。


 二人が黙って見つめ合ってるあいだに、ちょっと寸評してみよう。


 七不思議創りの中ではどうしても怯えさせられたり怖がらせられる犠牲者が出てくるものの、二人がそのことに対して少しも葛藤していない点には、彼女たちの社会経験や社会的想像力の乏しさがよく出ています。

 また唐突かつ猛烈に距離を詰め合おうとするあたりには、二人の対人関係における不器用さが感じられます。ドヤァ。


 などと最高に馬鹿なことを考えたせいか、ふと恐ろしいことに気づく。

 ──あれ? この百合みがかったやり取り、最後まで見守ってたら終了後すみやかにオレ消されるんじゃねえの? こうしている今も、危ない危険に身を晒し続けてるんじゃねえの? 向こうが勝手におっぱじめたとは言え、明らかに他人に見せるようなものじゃない。


……よし、逃げよう。


 オレは颯爽と死地から脱するべく、足音を殺してドアへ向かった。すると。


「ちょっとイチロ。どこ行くの?」

「いや、邪魔しちゃ悪いかと思ってさ。帰ろうかと」


 さっきまでのやり取りがどれだけ熱い二人だけの世界だったかに思い至ったのだろう。一瞬で宮華たちの顔が朱くなる。


「ちょっ、バッカ! 馬鹿! なに見てんのよ!?」

「こういうときはそっと席を外すくらいのこと出来ないの?」

「いやだから、今そうしようとしてたんだって。オレのことは気にしないでほら、続けてくれ」


 目を合わせて固まる二人。先に復帰したのは宮華だった。


「いやあのほら、違うって。ちょっともう勝手に帰ろうとしないでよ。これから、あの、ああ、あれ。1学期の振り返りをするから。イチロが帰ると困るんだってば」

「そう。それ。もう話は終わったから。ごめんなさい待たせちゃって」


 ひと目で判るくらい動揺する宮華たち。オレは理不尽さに泣きたくなるのをグッとこらえて言い返す。


「そんなこと言ってあれだろ。どうせ我に返ったら恥ずかしすぎて、二人きりになんかされたら気まずさで悶えそうだからって引き止めてるだけだろ。知るかそんなこと」

「ちゃ、ちゃ、ちゃうわ」

「ちゃうわぞ。ちゃうわぞ」


 二人ともテンパりすぎて言葉遣いがおかしくなっている。


 ……とまあ、からかうのはこれくらいにしておこう。人間関係貧者の二人は煽り耐性ないどころか、そもそも煽り耐性のパラメータ自体存在していなさそうだ。あんまりやりすぎると冗談じゃすまなくなりかねない。

 オレはいかにも渋々といった様子で椅子に座る。


「振り返りの前にハッキリさせておきたいんだが、七不思議を続けるんなら条件がある」

「イチロが条件出すって言うの?」

「んー。よし。振り返りはまたにするか。じゃ、お疲れ」


 オレは立ち上がろうとする。


「待って。聞くだけ聞くから、言うだけ言ってみて」


 それ、あんまり賛成する気ないよな?


「別にたいしたことじゃないぞ。まず最初に、呪いだとかが残るようなものはやらない。それから、学校新聞は使わない。そして兎和に手伝いを頼まない。この三つだ」


 さすがに二人とも、これには反対はしなかった。


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●星高七不思議の3

 星高には逆ラブ地蔵のかけら、という呪われた石がある。逆ラブ地蔵はラブラブ地蔵と同じ男女ペアの石像だったのだけれど、破壊されて離れ離れになってしまったことを恨んでいる。


 この石には逆ラブ地蔵の怨念がこもっていて、手に入れてしまった人間は3日以内に他人へ石を押し付けるか、少しも好きじゃない人間と付き合わないと死ぬ、

 また、この石にはカップルを別れさせたり、告白を失敗させる力もある。


 かつてこの石の呪いを打ち破ったカップルがいたけれど、今でも残りの石のかけらが生徒から生徒へ、ひそかに出回っているらしい。

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