第3の不思議︰逆ラブ地蔵-07
放課後オレは帯洲先生に呼び出され、やんわりと釘を刺された。大発見はいいけれど、よく考えて、浮かれて先走らないように。勝手なことをせず、まず顧問に相談するように、と。
「これがきっかけで陰湿なイジメがおきたらどうする? さすがに先生も立場上、きみに全責任を負わせることはできないんだからな」
まるで、責任を負わせられるなら別に構わないような口ぶりだった。実際そうなんだろう。
「それに私の名前の下に無難な感じで発表してさえいれば、校内での私の評価も、きみたちの評価もアップしてwin win だったはずだぞ」
それって先生タダ乗りでは? と思ったけど、言うだけムダだ。相変わらずすがすがしいクズっぷりで逆に爽やかだ。
生徒指導室という名の尋問部屋を出ると部室へ向かう。途中、ひと気のない廊下で兎和にエンカウントした。
「どうだった?」
「どうもこうもない。帯洲先生だったから実質無害だったけど、他の教師だったらヤバかった。ったく。まさか撤去しに来るなんて。しかもあんな早く」
計画だと“最初にそれっぽく見えるように”宮華が加工した岩を埋めて逆ラブ地蔵の台座跡として注目を集め、それから上の部分を砕いた同じような岩と埋め変えて誰かに発見させる。そして拡散される台座のかけら……っていう流れを予定していたのだ。
なのに肝心の岩が撤去されたんじゃその後の予定を変えるしかない。でも、どうすればいいのか。
「ま、早々に岩がなくなってよかったじゃない」
小声で兎和が言う。
「は?」
つられてオレも声を落とす。
「だってそうでしょう。岩が注目されればされるほど、誰かに見破られる可能性は高くなる。おまけに、すぐ撤去されれば仮に歴史同好会が嫉妬したからってすぐ冷めるでしょ。それに、“すべてが終わった。誰もがそう思っていたのに、それは始まりでしかなかった”。そっちのほうが怖いじゃないの」
「けど岩がなくなったおかげで、ここからの計画やり直しだぞ」
「なぜ? 岩のかけらは普通にターゲットへ持たせればいいじゃない。あんまり間をあけなければ、逆ラブ地蔵の話をみんな思い出すでしょ? そもそも撤去されたはずの岩のかけらがなぜか自分のところにあるってなったら、それって余計に不気味だと思うけど」
言われてみればそのとおりだった。そして、あまりにもそのとおり過ぎる。
「なあ。先生たちが速攻で岩を掘りに来たのって……」
「私は学生新聞を読みながら独り言をいっただけよ。混乱が起きる前にすぐ岩を撤去して事態の収拾ができれば、撤去した人の評価はあがるだろう、って。たまたまそれを帯洲先生が聞いていたとしても、私のせいじゃない」
わざとだ。絶対にわざと帯洲先生が通りかかったとき、聞こえるように言ったんだ。思わずため息が出た。なんだか頭がくらくらする。これはあれだ。急に頭に血が上ったせいだ。うん。
オレが口を開いて何か言う前に、兎和は言った。
「さっき、岩がすぐ撤去されたメリットについて説明したでしょ。それにこれは、今後の展開にとってもプラスでしかない。それともさっきの私の意見に、長屋くんは納得いってなかった?」
「──っ、ああ、クソっ!」
オレにはそう呟くのが精いっぱいだった。
「私は協力する、完遂するって約束した。忘れたの? 果てしなく傍流って言っても、鶴乃谷の女が約束を破ってあなたたちの邪魔なんてするわけないじゃない」
「じゃあ、なんでこんな裏切りみたいなマネすんだよ。最初っから話してくれたらよかったじゃないか」
「万が一にも、あなたたちが撤去について知ってたんじゃないかって周りに思われたくなかった。だからあなたたちには本気で驚いてもらう必要があった」
何だろうこの女。何を尋ねても無限に答えが返ってくる。本当に全部そこまで計算して行動してるんだろうか。それとも、オレの質問に対してその場で都合のいいことを考え出してるんだろうか。どっちにしても少しゾッとする。
「長屋くんは裏切るような真似って言ったけど、私はべつに、宮華さんたちにこのこと全部喋ってもらってもかまわない。すぐに撤去されたことのメリットも含めて伝えてくれるなら、ね。まあ、私だったら言わないけど。だって、あの二人が知る必要なんてないんだから」
またも正論。そう思いたくなくて、オレは尋ねる。
「オレだって、知る必要なかったんじゃないか? たんに部室に来て、おまえがみんなの前でいまオレに言ったようなことを話せばいいんだから。帯洲先生に撤去のこと吹き込んだのは伏せて」
「さっき私の話を聞いて、帯洲先生を動かしたのが誰か察したのはあなただったじゃない。それなのに宮華さんや日下さんはそこに気づかないと思うの?」
あー! もう! どうしてこう……。やり場のない怒りにオレは歯を食いしばった。
「いい? あなたが部室で、私の代わりに話すの。むしろすぐ撤去されてよかったって。計画は変えなくてもいいって」
兎和がすぐ耳元でささやく。オレはうなずくしかなかった。




