第3の不思議︰逆ラブ地蔵-04
まずまず機嫌よく兎和が帰っていくと、オレたち三人は気力体力時の運を使い果たしてぐったりしてしまった。
「疲れた……」
しみじみした口調になってしまう。
「そうね」
「まあ、でも」
「今までと違って、兎和さんともそれなりに話せたし」
どうやら宮華と日下さんはそれなりに手応えを感じているようだ。確かに、今日は二人とも今までよりはるかに普通だった。前回に比べたら大きな進歩だ。それなのになぜ、コイツらはオレの高評価ボタンを押そうとしないのか。現金投げつけて“リアルスパチャ”とか言ってくれてもいいんだぞ?
「それで、恋愛絡みのおまじないはどうだ? 恋愛に興味が湧いてきたか?」
「えーっと」
げんなりした様子で首をふる宮華。
「少しも興味が湧かない。むしろみんななんであんなに興味持てるのかって、そっちに興味が湧いてくるくらい。けど、七不思議の方はラブラブ地蔵でなんとかなりそうな気がする」
「そうか。ならよかった。それはさておき。実際のところ、どうするんだ?」
「どうって?」
宮華はオレの言葉に軽く首をかしげる。
「兎和さん、本当に入部させたいか?」
「え?」
「兎和さん、かなり押しが強いしキャラが独特だろ。居座られたら主導権握られたり大変そうじゃないか?」
言った直後。とにかく失言だったということだけは解った。宮華と日下さんのオレを見る目が一気に冷たくなったのだ。
そりゃちょっと感じが悪かったかもしれないが、それにしてもこのクズを見るような目はやりすぎじゃなかろうか。だいたい、オレの指摘はそう間違ってもいないと思うんだが。
「イチロ。いま一瞬あなたを除名しようかとも思ったんだけれど、私が誘ったってこともあるし、一度だけチャンスをあげる。更生のチャンスを」
「な、なんだよ。ずいぶん上から目線だな」
「あのね。あなたの好きなラノベの主人公は、普段はクズでも肝心のところではちゃんとしてる。イチロはその逆。表面上はちゃんとしてるけど、芯の部分がグズグズに腐ってる」
隣で日下さんもうなずいている。なんだろう。ここまで悪く言われると、逆にどんなことを指摘されるのか気になってくる。
「私は人見知りがひどくって、生きづらい人生を送ってる。それに周りからはこの見た目とか成績のせいで、近づきがたい人だって思われてる」
「知ってたのか?」
「さすがに、あれだけ話題にされてれば。もともと普通にしててこれなんだからプレッシャーなんかは感じないけれど、疎外感は結構あるわけ。たとえそのおかげで話しかけられなくてホッとしてるにしても」
そして宮華は少しだけ、苦しそうな笑みを浮かべた。それを見た日下さんが口を開く。
「私も不登校で、今もスクーリングで、相変わらず人見知りだし他人の視線が苦手。たぶん兎和さんもあの性格だから、周りとはあんまり上手くなじめてないと思う」
「うーん。確かに兎和さん、あんまり評判よくないみたいだからなぁ」
実を言うと同じクラスの生徒会の女子から一度、本気で心配されたことがある。
“兎和さんが最近長屋君の部活に顔出してるって本当? あの人ほら、ああいう性格だから。迷惑してない?”
してるって答えたところでどうにかなるとも思えなかったから曖昧に会釈して済ませたけど、兎和さんのあの性格じゃなかなか上手くはやってけないだろう。
「私も日下さんも、周りになじめなくて高校生活が上手く行ってない。圭人君もたぶん……」
宮華の言葉にオレはうなずく。
「ああ。家柄に対する屈折した気持ち。周囲への劣等感。いまいちパッとしない自分の能力に対するイライラ。その三つが合わさって常にプレッシャーを感じてる。そんな精神状態だからか、友達も多くない」
「え……。仲良さそうとは思ったけど、イチロ、そこまで圭人君のこと深く理解してたんだ……。ちょっと意外」
「おい待て。あいつがオレのこと友達認定した途端に、すごい勢いで心のなか丸出しにしながら距離詰めてきたんだよ」
「そ、そう」
「とにかく、さすがのオレでも解ったぞ。おまえたちみたいに、兎和さんもこの学校社会で生きづらいタイプの人間だ。仮にも郷土史研究会の部長として、宮華たちの友人として、面倒だとか厄介そうだとかサイコっぽくて怖いとか、そういう学校社会の主流派みたいな考え方で排除するなって、そう言いたいんだろ?」
「サイコっぽいとかそこまでは言ってないけど、要はそういうこと」
べつに郷土史研究会は生きづらさを抱えた生徒に居場所を提供する、なんて感動の実話として安っぽい邦画にされそうな集まりじゃないと思うんだが、まあいい。この二人とはどうも感覚的な部分でいろいろと理解し合えないことくらい、さすがに解ってる。それに──。
「いくら部活が兎和さんのいいようにされそうだって言っても、厄介だから拒否ってのはよくないよな。オレが悪かった」
「イチロ。本当に私の話、理解してる?」
「じゃあもし兎和さんが入部したとして、都合の悪い提案されてもおまえらちゃんと拒否れるのか?」
「それは、できない、けど」
声が小さくなる宮華。日下さんもそっとオレから視線を外す。こいつら面倒臭い。本当に面倒臭い。生々しく面倒臭い。
「要するに、タイプは違うけど見るからに生きてくの大変そうな兎和さんに仲間意識があるってことでいいんだよな?」
答えん二人。
「じゃあ、そういうことだって兎和さんにも伝えておくから」
「いや、それはちょっと……」
「長屋君、冗談、だよね?」
目に見えて動揺する二人。日下さんとかイスからちょっと腰浮かしてオレの方に手を伸ばしかけてる。
「ここまでさんざん言っておいて、そこ胡麻化そうとするのなんなんだよ」
「だって、恥ずかしい、から……」
ちょっとうつむいて宮華が言う。そこだけ切り出せば恥じらう乙女の理想像みたいだ。オレは思わずハートを射抜かれそうになって、すんでのところで回避に成功する。
「それに、それだとなんだか負けみたい」
日下さんもちょっとふてくされた顔をすると意外とあどけなく見えて危ない危ない取り込まれるとこだった。
「恥ずかしいだの負けみたいだの。いったい二人とも何と戦ってるんだ? オレか? 兎和さんか? 自意識か? んもぅ、そんなの私にも解かんないよぅって言ってもいいんだっぐっ!?」
いきなり宮華にスネを蹴られた。コイツのときどき発揮する暴力に対するためらいのなさ、なんなんだ。優れた暴力装置か?
ともあれ兎和とも少し打ち解けられて、新しい七不思議の糸口も見つかったようでなによりだ。薄れゆく意識の中、オレはそんなことを思った。……いや、スネ蹴られても意識飛んだりしないけどな。




