第2の不思議︰幽霊部員の幽霊-14
「ヴォエッ」
兎和が出て行くと、宮華が野太い声でえづいた。ギリギリ何も出はしなかったけど、かなり危なそうな音だった。
「大丈夫か?」
「大丈夫。それより日下さんは」
「私も大丈夫。中学のときのこと、色々と思い出したけど」
「それは大丈夫じゃないんじゃないか?」
お茶を飲み、放心したように黙々と残った麩まんじゅうを食べるオレたち。そうこうするうち、日下さんと宮華は落ち着いてきたらしい。
「なんか、散々だったな。あっさり惨敗したというか……」
「確かにまあ、ダメージは大きかった」
「私も久しぶりに辛かった……。ああでも、二人からバカにされてるかと思ったのがこの前だから」
「あれはごめん」
「そういう意図じゃなかったとはいえ、ごめんなさい」
「あ、ううん。おかげでこうして部活もできてるし」
そっと照れ合う宮華と日下さん。
「それはそれとして、惨敗ではなかったんじゃないの? 何と戦ってたのか知らないけれど」
「でも兎和さんに好き放題言われて、ろくに反論できなかったじゃないか」
「私も、今日は結局少しも喋れなかった」
宮華はふうっと息を吐くと、首をぐるりと回した。
「だから、何と戦ってるのか知らないけれど、って言ったの。私たちの目標は兎和さんを言い負かすとかそういうことじゃなくて、仲良くなることでしょう? まずは向うの雰囲気が解ったし、次の約束もできたんだから悪くないんじゃないの?」
あっ。なーるほ……んー? 日下さんもイマイチ納得しきれてない様子だ。そりゃそうだ。あんだけ敵対的に煽られてりゃ無理もない。
「仲良くなるとは程遠かったろ。兎和さんやたら殺る気だったし」
「だから現状そんな態度だって解ったんだから、それでいいじゃない。要はこれから親しくなってけばいいんでしょ?」
「あんな感じの悪い奴と親しくなりたいのか? 不可能だろ」
「感じが悪いのは、私たちにいい印象がないんだから当然でしょ。それに私からしたら、誰と親しくなるのも同じくらい不可能そうに思えるし」
「でも、その中でも人によって親しくなりやすそうとか、なりにくそうとか、あるよね?」
日下さんの言葉に宮華は首を振った。
「ない。イチロとか日下さんみたいに例外はあるけど、私にとって基本的に新しく誰かと仲良くなるなんて困難で苦痛に満ちた不可能へのチャレンジなんだから、やるからには相手がどんなでも変わらない」
ちょっと予想以上に重たい。というかコイツ、誰かと新しく親しくなろうってたびにそんな覚悟しなきゃならないのか。そりゃ人付き合いあんまできないわ。というかこれ、人見知りって言うんだろうか。
日下さんも反応に困ってるみたいだった。確かにこれ、どう返したらいいか解らんよな。
「どうしたの? 二人とも」
「いや、そんな苦労してたんだな」
「それでも毎日登校してるなんて、偉い」
元ひきこもりが言うと説得力が違うな。
「私からしたらそれが普通だから。良くはないけど、うーん、仕方ないと思ってる。理由は知らないけれど、高校でやり直そうと思う日下さんの方が大変だと思うし、勇気があるんじゃない?」
「そんなことない。結局こうしてコソコソとスクーリングしてるだけだし」
「でも、ウチに入ったり、一歩ずつ前進してるでしょ」
また照れあう二人。これあれだな。百合姫の来月号の付録ポスター用だな。そんなんあるのか知らんけど。
それにしてもこうして見てると、日下さんて普段は気弱めな可愛い女子なんだよな。初登場時の印象とオレに対するあたりの強さのおかげで、なんか違和感があるけど。
「じゃあ、引き続き兎和さんとは仲良くなろうってことで頑張ろう。日下さんもそれでいいか? 辛かったら兎和さん来るときは休んでてもいいぞ」
「うーん。辛いのは辛いけど、耐性つける練習だと思って、参加できたら参加する。だから、呼ぶときは先に教えて」
「わかった」
そこでオレはあらためて宮華と日下さんを眺めた。どちらも見るからに消耗しきってる。兎和さんとの時間が二人にとってどれだけ大変だったかが解る。
「なんか、二人とも努力してて凄いな」
「今頃?」
「なんの向上心もなしにダラダラ生きてるの、長屋君だけだよ」
辛辣にする元気があって何よりだ。実は今日の対面では、兎和さんから圭人の部活参加を認めてもらえなかったんだけど、女子二人はそんなことすっかり忘れてるようだ。まあいいか。
もし兎和さんから進捗を尋ねられたら、適当にごまかそう。




