第2の不思議︰幽霊部員の幽霊-12
放課後、圭人がやって来た。
「昨日はずいぶん怒られた。もう遅刻しないって約束させられたよ」
「昨日の女子って」
「ああ、あいつは副会長の鶴乃谷兎和。僕の幼馴染で、同じ鶴乃谷だけど血縁的には遠い。真面目で根は優しいんだが、不器用なのか人当たりがキツくてね。誤解されがちなんだ」
あれは人当たりがどうこうとかじゃなく、もっと異様でおぞましい何かな気がするけれど、言えるわけがない。
「そうだ長屋。じつは昨日、部室にいた女子生徒を探してみたんだ」
「見つけたか?」
「それがダメだった。全校生徒の顔写真が載った名簿を見られればすぐだろうけど、現実の生徒会にそんなことはできないからなぁ。……とにかく、見かけたら声をかけてみる。ああ、もう行かないと」
慌ただしく部室を去る圭人。しばらくして日下さんがやって来た。
べつに圭人を避けてるわけじゃなくて、時差通学のせいで放課後が遅くなりがちなのだ。
「宮華も日下さんも、ちょっと聞いてくれないか」
オレは二人に兎和とのことを話した。
「つまり、やっぱり」
「私と圭人君が見たのは幽霊……」
「うんうん。そこについては後で話そうな。そんなことより、圭人のことだ。それに、どうやって兎和さんが七不思議創りについて知ったのか。そこだろ」
今オレ、今年イチ忍耐力を発揮したと思う。
「んー。今日みたいな感じなら、圭人くんは私たちが気のない対応してたら来なくなるんじゃない? それと、どうやって知られたのかなんて、それこそいま考えてもしょうがないでしょ。そりゃ広まらないか心配だけど、そのへん突き止めるならむしろ兎和さんとの関係は良好でなきゃ」
クソっ。問題意識が共有されてない。
「でも、それで圭人はどうなんだよ。今日だって楽しそうにしてたろ。いる時間が伸びてたってことは、それだけ居心地がいいって思ってたはずなんだ。それなのにそんな奴のこと切り捨てるのか?」
顔を見合わせる宮華と日下さん。
「つまり圭人君のことを思えば、その副会長さんの言葉には従うべきじゃない、ってこと?」
「ああ」
「うーん。あのさ。圭人君も高校生なんだし、兎和さんに監禁されてるってわけでもないでしょ? 私たちだって嫌がらせしようってわけじゃない。来たければ来る。そうじゃなければ来ない。それだけでしょ」
「私も宮華さんの意見と同じ。それに、この部で1番大事なことは七不思議だよね。それを危険に晒すほどのこと? 生徒会で問題にされたら困るよね?」
「それは……」
「イチロの妙な思い入れの強さ、前も言ったけど悪くはないと思う。けど……。イチロが圭人君と親しくなるのは別にいいけど、それって部活に限定しなくてもいいでしょ。他の時間で仲良くなれば?」
理屈としては、そのとおりかもしれない。けど、なんだろう。やっぱり釈然としない。
「なんかこう、二人と考えが合わないんだよなぁ」
思わず呟いてしまう。
そう。どうもこの二人とは根本的な考え方が合わない気がしてたのだ。そんな二人と一つの目標を追っていくのは正直かなり、面倒くさい。
「これは価値観の問題じゃないの。目的のためには何を優先して、何をする必要があるか。そういう話。私だって気持ちの上では、せっかく親しくなれそうな圭人君と疎遠になるのは残念よ。だからなにも、私たちとイチロとで価値観が違うとか、そういうことはないんじゃない?」
「いや、今回だけじゃ──」
「そもそもだけど、イチロは圭人君と兎和さんの件、どうなるのが理想なの?」
「えっと、それは。兎和さんが干渉するのやめて、圭人が自分のしたいようにできれば」
「したいようにって言っても、生徒会や塾のこと考えれば、今みたいに基本的には15分とかそれくらい顔出す程度が圭人君のためじゃないの? そもそもさっきも言ったけど、圭人君は何も強制なんかされてないでしょ。むしろ強制されてるのは私たちの方で……ひょっとして、兎和さんから脅されて従うしかないのが気に食わないとか?」
じっとオレの目を覗き込む宮華。オレは気まずくなって、つい目をそらした。
「まあ……それもある、けど……。宮華たちは嫌じゃないのか?」
「嫌に決まってるでしょ。でも、現実に弱みを握られてるんだから、仕方ないじゃない」
「ねえ……。兎和さんを呼んで話を聞いてみるのはどう、かな? それで部員にでもなってくれれば……」
日下さんの提案にゴクリ、と緊張でのどを鳴らす宮華。
「なかなか思い切ったこと言うね」
たしかに。二人からすればよく知らない女子を呼んで入部させようというのは、かなり思い切った選択だ。大げさだけれど、宮華と日下さんからしたら“目的のためにはあらゆる犠牲をいとわない”くらいのレベルだろう。
「ここで長屋君と言い合ってても時間のム、いやその、問題が解決するわけじゃないから。それならいっそ兎和さんと、じっくり話した方がどうにかなりそう。それかいっそのこと、兎和さんも入部してもらえばよくない?」
「……続けてみて」
「兎和さんが部外者だから、七不思議について知ってることが問題。つまり部員になってくれれば問題じゃなくなるし、どうやって知ったかも教えてくれるんじゃない?」
「どう? イチロ」
意見を求められたわけじゃない。なぜか宮華はオレを見てドヤってるのだ。
「どうやって入部させるんだよ。こっちの印象、かなり悪そうだったぞ」
「具体的なことはまだわからないけど、日下さんも言ってたみたいに、とりあえず話してみるところからじゃない?」
さっきまで圭人と疎遠になってりゃ問題ないでしょくらいの感じだったのに、なんなんだ一体。いや、オレが日下さんみたいに建設的な意見を出せてたら最初から違ったのか? ……建設的? というか、オレの考え方が合わないって話はもう終わりなのか? というか、おや? なかったことにされつつあるんじゃないかコレ……。
オレはそのことについて考えるのをやめ、最低限のことに注意を戻す。
「兎和さん呼ぶセッティングって、当然オレがやるんだよな?」
「そこはね。悪いと思うけど、私たちだと呼ぶ前に卒業迎えちゃうだろうから。ちゃんともてなす準備はするから」
「でも、けっきょく話すのはほぼオレだよな」
「んー」
笑みを浮かべて首をかしげる宮華。
日下さんが言った。
「話せるなら話す」
「行けたら行く、みたいな言い方するなよ。それ話さないやつだろ」
「大丈夫。もう少し信じてくれてもいいんじゃない?」
「信じてはいるけども」
「私も同席したいんだけどねぇ」
「なんでちょっと無理そうみたいに言った!? あと日下さんよりハードル低いだろそれ。喋る意志持ってくれよ」
「冗談だって」
「とにかく、オレ一人だと本当に詰む可能性あるから頼むぞ。ちょっと兎和さん苦手なんだから。なんていうか、負のオーラが酷い」
「がんばって。当日私もがんばって部室にいるようにする」
「長屋君。私たち本当にこういうときは長屋君がいてくれないとダメだから。適材適所、ね?」
こうしてオレの価値観合わないんじゃね? 問題はうやむやに終わった。これは前向きに考えれば宮華たちも同じように感じてはいるが、それを認めることでオレと溝を作りたくない、と、そういうことだろう。そうとでも考えないと泣いちゃう。




