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病的に人見知りな幼なじみと七不思議を創ります。  作者: ナカネグロ
第2の不思議:幽霊部員の幽霊
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第2の不思議︰幽霊部員の幽霊-08

 翌日、オレはさっそく鶴乃谷の所へ。


「部活へ来い?」

「ああ。生徒会とか忙しいなら最初の15分、それくらいでもいい」


 鶴乃谷は眼鏡を外すと目頭を揉んだ。


「どうしたんだ急に?」

「昨日、宮華と話したんだけど、せっかく入部したんだからやっぱり少しは来てほしいってなってな」

「宮華……ああ、彼女が神野宮華さんなのか」


 そっか。ちゃんと紹介してないままだったよな。


「アイツ、人見知りを徐々にどうにかしたいと思ってるみたいで、せっかくだから圭人にも慣れていきたいんだそうだ」

「それで顔を出せと?」

「ん。まあそうだ。あと昨日、帯洲先生が来てオマエのこと気にしてたからな。さすがに全く来てないってなると、部長としてのオレの立場が……」

「帯洲先生が、か」


 それは疑問とも他の何かとも取れるような、不思議な含みのある口調だった。


「どうかしたか?」

「いや、別に。変なところでもあったか?」

「……気のせいならいいんだ。それで部活には来られるか?」

「解った。なるべく顔を出す」


 あっさり同意してくれたのがオレには少し意外だった。そんなオレの空気を察したのか、鶴乃谷が言い足す。


「部員を名乗らせてもらう代わりに、少しくらいそちらの希望に合わせないとな。それに、生徒会長が完全な幽霊部員というのもイメージ良くないとは思っていたんだ」



 その日の放課後、鶴乃谷はさっそく部室へ来た。宮華は圭人が来る前からもう緊張で顔が青ざめてて、話しかけてもうわの空だった。


「大丈夫か?」

「え? あ、ええ。心の準備をしようとしたら、やりすぎちゃったみたい。逆に緊張が大きくなってきた」

「寝ようとするほど寝られなくなる、みたいなものか」


 辛そうにうなずく宮華。オレはかまわず話しかける。べつにドSとか日頃の怨みとかじゃない。黙って座ってる方がよけい緊張するだろうと思っただけだ。か、勘違いしないでよね! とかなんとか。


「そもそも重度の人見知りなのに、鶴乃谷を来させる案とかよく実行しようと思ったな」

「やりたくはなかったけど、これが一番だと思ったんだから仕方ないでしょ。ふ、ふふ。そう、私は目的とあらば自らを犠牲にすることさえ厭わない女」


 妙にすわった目で呟く宮華。こいつチョイチョイ変なテンションになるな。


 鶴乃谷が部室へ入ってくる。宮華はカッと目を見開いて固まった。なかなか呪わしい顔だ。

 鶴乃谷はそんな宮華を見て一瞬たじろいだものの、すぐ平静を装って言った。


「あらためて、鶴乃谷圭人だ。よろしく、神野さん。無理しなくていいよ。まずは僕が同じ空間にいるってところから慣れていってくれれば」


 穏やかな声にぎくしゃくとうなずく宮華。鶴乃谷の振る舞いは宮華のことを理解して、気を遣ってるように見える。

 といっても、それは別に宮華の人見知り克服に協力したいとか、そういう親切心からじゃないのかもしれない。本人も言ってたように、単純に入部に対する見返りとして求められる役割を考え、それに従って行動してるだけ、生徒会長として反感を買わないため。そんなところかもしれない。

 なんとも味気ないというか冷たい感じがするけれど、そもそも打算と実利から郷土史研究会に入ってきたような男だ。


「で、ここではどういう部活をしてるんだ?」

「今はそこにある本を読んで、基本的に鶴乃谷の歴史を勉強してる」


 オレは借りっぱなしになってる郷土史関連の本を積んだ棚を示す。


「他には?」

「いや、それくらいだな。その中で気になるテーマがあればそれを調べてこうって方針でやってる。なんせ運動部やらわかりやすい文化部と違ってフワっとしてるからな。おまえだってハッキリした評価とか目的ない方がいいって言ってたろ」


 棚に並んだ本のタイトルを眺める圭人。


「そういや、鶴乃谷ってだけあってオマエ郷土史詳しかったりするのか?」

「そんなわけないだろ。大叔父だけでなく、一族の年寄り連中なんかには詳しい人もいるだろうけど」

「本気で勉強してみたらどうだ? おまえの言う一族の有力者にウケがいいかもしれないぞ」

「そうか?」

「少なくとも大叔父さんって人に郷土史本気で興味あるアピールできるくらいには知識つけといた方がいいだろ。話振られて答えられなかったら気まずいし、むしろ鶴乃谷史トークで盛り上がれれば好印象なんじゃないか? 勉強とか生徒会の合間に本読むくらいでも違うと思うぞ」


 さっきまでと違って、本を見る目が少し真剣になり、「鶴乃谷の歴史」って本の一冊を手にとる。ちなみに、違う人の書いた同じタイトルの本が5冊くらいあって、その中で一番薄いやつだ。


「これなんかどうだ?」

「あー、いや、読んでない。けど、これまで何冊か読んだ感想を言うとだな。だいたいどれ読んでも基本的な中身は一緒だぞ」


 圭人は手にした本のページをパラパラめくるとため息をついた。


「それもそうだな。結局ここは、ただの田舎町なんだから。そんなもんだよな」


 圭人の口調には諦めと自嘲と寂しさが混ざったような、なんか複雑なネガさがあった。あんまり踏み込まないようにしよう。面倒そうだ。


「じゃあ、今日はこれで、この本は借りていっても?」

「いいぞ」

「ありがとう。……それと、僕のことは圭人って呼んでくれないか?」


 お? いきなりの名前呼び要請。宮華が腐女子ならこれだけで人見知り忘れて息吹き返しそうだ。さっきから緊張のせいでハァハァしてるけど、これまた過呼吸起こしたりしないだろうな。


「鶴乃谷って呼ばれると変に目立つから、本当はあんまり好きじゃないんだ」


 あれ? こいつこんな弱い面見せるキャラなのか? あえてそういう部分を見せることで印象良くしようって狙いなのかな。どうだろ。警戒しすぎか? まあいいや。


「わかった。じゃあ、オレのことはイチロって呼んでくれ。もしくは名古屋。長屋って呼ばれ慣れてないんだ」

「そうか。じゃあ、また明日な」

「おう」


 それから圭人は宮華さんにも手だけ振って部室を出て行った。ドアが閉まると同時に、宮華はグッタリ机に伏した。


「なんだか、思ってたのとは違った」


 顔だけ横に向けて言う。


「そうだな」

「もっと感じ悪い人かと思ってた」

「さすがに感じよく振る舞えないと生徒会長にはなれないだろ。実際のところどんな奴なのかは解らないけど」

「……そういえば、生徒会長ってどうやって選んだんだろ」

「さあな」


 言ってオレは立ち上がる。


「日下さん呼んでくる」

「LINE使えば?」

「オレ、アイツの連絡先知らない。おまえこそ知らないのか?」

「知ってるわけないでしょ。どうやって聞くの」

「いや、そんな当然のように言うなよ。悲しくなる」


 日下さんが来たら、宮華と連絡先交換してくれるよう頼まないと。考えてみりゃ、二人ともメールやLINEなら緊張しないで上手くコミュニケーション取れるだろうし。たぶん。きっと。そうであってくれ……。そうだと、いいなぁ。



 翌日も、その翌日も、圭人は毎日ちゃんと顔を出した。宮華に声をかけ、オレと雑談し、生徒会なり塾なりに行く。おかげで圭人は急速に馴染んでいった。オレと。


「生徒会ってのはやっぱ忙しそうだな」

「新設1年目だからな。実務をやりつつ、そもそも生徒会の権限や職務範囲を決めていく必要がある。並行して決まったことを記録に残し、他の役員の分担やなんかも生徒会が調整に関わらなきゃいけない」

「なんか、マンガとかの生徒会みたいだな」


 オレの言葉に圭人は嫌そうな顔をした。


「先生がたは生徒会の権限や職務を大きくして、学生による自主運営をさせたいらしい。星高の設立理念からすると理解はできる。けれど僕ら現生徒会の最大の目標は、それを押し返して生徒会の仕事をなるべく小さく、楽にすることにある。──なんだ? その意外そうな顔は?」

「いや。なんかおまえって権力のある生徒会で力を発揮するとか好きそうだから。三年も続ければ実績も残せるって言ってたろ。高校の実績が生徒会の権限縮小だなんて、評価にならないんじゃないか?」


 圭人は苦笑した。


「あのな。それこそマンガじゃないんだ。そうとう大変だぞ。学業に、受験に支障が出るレベルだ。そんなの僕には荷が、いや、今の生徒会ならどうにかなるかもしれないけれど、2代目、3代目、どんな代のどんな生徒会でも進路や何かを犠牲にすることなく、こなせる生徒会活動にする。それが初代の責任だ。夢見がちな教師どもに付き合って、志望校のランクを下げるなんてハメになるのはゴメンだ」


 実際どんな遣り取りがあるのかはともかく、教師の無茶な期待にさらされてストレスが溜まってるのは解った。


 他にも圭人は話してみるとなかなか複雑な奴だった。特に自分の一族に対しては愛と憎しみ、憧れと劣等感の混ざりあった想いを持ってるのが感じられた。


「圭人君て自信たっぷりに自慢話してたかと思うといきなり卑屈になって自虐してみせたりして不安定だよね」


 とは圭人が帰ったあとの宮華の感想。見事なおまいうである。ちなみに宮華も努力して、少しずつ圭人に慣れようとかていた。といっても、話しかけられたら「う」とか「あ」とか消えそうな声で言う程度だけど。


 そんな宮華は日下さんと連絡先交換したものの、一方的に「圭人君帰りました」という連絡をコピペで送るだけの毎日だ。テキスト送るのでも緊張するらしい。


 日下さんもやはりというかスマホであれ雑談は苦手だそうで、二人の遣り取りが増えるなんてのは所詮オレの甘い幻想でしかなかった。


 なぜか圭人の滞在時間が日ごとにジワジワ伸びてるところがじんわり気になるけど、とにかくオレたちはいよいよ計画の大詰めを実行することにした。

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