ぜんぜん違う話の断片その02
※第1の不思議の後
鶴乃谷の市境にあるタリーズ。二人の女学生が向かい合って座っていた。冷たそうな女子高生と、愛嬌のある女子中学生だ。ここは二人の学校から遠く、知り合いに遭う可能性が低い。
「ヒキコサン騒ぎは落ち着いたんですか?」
「ええ。放課後、校内中を生徒がうろうろしてたおかげで、犯人も身動き取れなかったみたい」
「よかったですね」
「なにが?」
「だって、放火されなかったんですから」
言われて、女子高生はため息をついた。
「いい? 動きがないってことは、任務が終わらないってこと。私は一日でも早くこんな任務終わらせてしまいたいの」
「私だって早く犯人は捕まって欲しいですけど、でも……」
「それで、あなたの方はどうなの?」
「私の方も特に進展はないです。あ、でも、ヒキコサン騒動の原因は判った、と思います」
そして後輩は声をひそめて、彼女の叔父から聞いた話やその他の情報から組み立てた“真相”を語った。
「なるほど。あなたのお姉さんがね……」
「先輩と同じ学年ですよ」
「そうね。それにしても──」
女子高生は手にしたカップをじっと見つめて何かを考えこみ、やがて言った。
「それは使えるかもしれない。まんべんなく生徒がうろついてると困るけど、上手く誘導してわざと人気のない場所を作れれば、犯人はそこを狙って動くかもしれない」
「つまり、噂話でみんなを狙った場所に集中させるってことですか?」
「そういうこと。全校生徒は無理でしょうけど、ヒマな生徒がうろつく場所をコントロールできれば、そこから離れた場所に犯人を誘い出せるかもしれない」
そしてまた長考する先輩。後輩はそんな彼女を急かすでもなく、スマホをいじりながらカフェラテを飲んでいた。
「とりあえず、あの部に誰か私の動かせる人を接近させるわ。ご当主様が郷土史に興味持ってるって思い出させたら、それだけで期待どおりに動いてくれるはず」
「それって、“誰か”じゃなくないですか?」
「まあ、そうだけれど。……私、あなたのそういう無神経な指摘してくるところ、やっぱり好きじゃない」
「そうやってハッキリ好きじゃないって言ってくれる先輩、私は好きですよ」
言われた女子高生は舌打ちするとすっかり冷めてしまったコーヒーを一口飲み、幼馴染みの男子高校生へ連絡するためスマホを手にとった。
 




