第7の不思議︰サメジマ先輩-15
次は霧島さんだ。霧島さんは妙に期待するような顔で現れた。
「じゃ、さっそく始めましょっか」
椅子に座ると机にスマホを置く。見れば録音アプリが起動していた。オレは黙って手を伸ばし、停止を押す。
「あー。どういう?」
予想はできたけど、念のため尋ねる。
「え? これまでのお詫びに、真相告白の独占インタビューさせてくれるんじゃないの?」
「いや……確かにまあ告白することはあるけど、そういうつもりじゃない」
「ああ、そう」
とたんにテンションが下がり、素の状態に戻る霧島さん。
「それと、これからする話は流出させないでほしいんだ。頼める立場じゃないとは思ってる。けど、頼む!」
オレは頭を下げる。
「顔上げて」
言われたとおりにすると、霧島さんはどんよりした目を向けていた。
「討論会までは……約束する。けど、その先は……まあ、話しだい」
贅沢を言える立場じゃないことは解ってる。シンプルに拒否されなかっただけマシだ。そう考えることにして、オレは話をはじめた。
そしてひととおり語り終えたとき、霧島さんが暗い顔をしてため息をついた。
「長屋くん以外も出てくる……。こんなの……さっきの頼み事抜きにしても……外に話せるわけない」
「ありがとう」
「他にどうしようもない、でしょ?」
そう言って霧島さんは額を揉んだ。
「それにしても……これ、確かに……あのときの私には……教えられない」
「解ってくれて何よりだ」
「許すとは言ってない。それで……このこと、泰成くんにはまだ……でしょう?」
「ああ。霧島さんの後にしようと思ってた」
「言わずに……済ませられない?」
それは、オレも考えた。これまでの3人と違って、泰成くんは本当に七不思議創りとなんの関係もない。音で気持ちを鎮められるにしても、感情爆発だって怖い。
「けど、部内で一人だけ知らされないなんてダメだろ」
「そうだけど……苦しめたくない。泰成くんは……正義感が強くて、友情に篤い。長屋くんたちが裏で……やってきたことを許せない気持ちと、友達としての長屋くんたちを……守りたい気持ちとで板挟みになって……きっと苦しむ。いっときの感情じゃなくて、長く続く感情に普通の人の……何十倍も」
「けど、どっちみち討論会で知るわけだろ」
「どうせ討論会でさっき話したことを正直に……言う気はない、でしょう? みんなも知る話なら、泰成くんも黙ってる必要はないから……板挟みにはならない」
「なるほど。って、それで泰成くんに隠してたら、自分だけ教えてもらえてなかったって怒りがオレに向かうんじゃないか?」
「長屋くんは一度……殴られたほうがいい。わりとそう思う。……大丈夫。いくら泰成くんに殴られたからって、肉に……なったりはしないから」
「肉って言うな。肉って」
「もし泰成くんが“恩人は殴れない”とか……思ってくれてれば……。寸前でどうにかなるかもしれないし、ね?」
「恩人、なあ」
見込みは薄そうだ。殴られたくないのはもちろん、オレ殴ったせいで泰成くんが謹慎なんてことになったら、それこそ寝覚めが悪い。
「とりあえず、解った。泰成くんには黙っておく」
「よろしく」
「ありがとう、じゃないのか?」
「長屋くんは二度……殴られたほうがいい、でしょう?」
増えた……。
「ああそれと……全部落ち着いてみんな無事だったら……。お昼の放送にゲストで呼ぶから。それまで新聞部の取材には……答えないで。ね?」
「そういうの死亡フラグって言うんだぞ」
「長屋くんが一人で死ぬんなら……いくらでも立てるけど?」
苦しい立場のオレに気を遣ったりしない霧島さんの態度はむしろ心地い……いわけない。なんで優しくしてくれないんだ。
「冷たくされて心が折れそうだ」
「別にいいけど、それで困るのは長屋くん……でしょ?」
「クソっ!」
ふざけて憎まれ口を叩き合ってるんならまだしも、普通にこれだからなあ。なんで霧島さんはオレにだけ辛辣なのか。
ともあれ、こうしてオレの個別説明会は終わった。やってみると自分が自覚してなかっただけで、これまでみんなに隠してたことがずいぶん負担になってたことに気付かされた。たとえ湯川さんは七不思議創りを知ってて、霧島さんはオレたちが何か隠してることを確信してたとしても。圭人があっさり受け入れてくれたことも嬉しい誤算だった。
オレの繊細な心は重荷を下ろすことで自由と軽やかさを手に入れた。今なら空も飛べそうなくらいだ。まあ、そんなことしたら風紀委員会に追い詰められた末の自殺にしか見えないだろうからやらんけど。いや、いついかなるときでもやらんな。うん。……何を言ってるんだオレは。




