第7の不思議︰サメジマ先輩-14
公開討論会までの10日間くらいは精神的になかなかツラかった。金曜日に告知されたのは開催日時と場所、オレと風紀委員長たちが討論するってことだけ。
当然みんな何が起きたのか、どんな討論をするのか興味を持つ。特にウチの学校はノリが良く、野次馬根性の強い生徒が多い。遠藤ほか紳士同盟のメンバーだけでなく、顔しか知らないような生徒からも話しかけられるようになったし、どこにいても注目を浴びるようになった。
落ち着かない。これまでの人生で特に目立った経験のない自分としては、いつでも誰かがこっちを見て話題にしてるというのは想像以上にストレスがあった。
比べるのは間違ってるかもしれないけれど、日下さんが人から注目されるの嫌すぎて引きこもりになった気持ちが少し理解できた気がする。
オレもできれば授業のとき以外は部室に引きこもっていたいところだった。けど、兎和と宮華がなるべく人と話してできるだけ当日までに好感度上げておけと言うので、そういうわけにもいかなかった。
もちろん話したからって好感度が上がるわけじゃないし、むしろオレの場合は下がるんじゃないか──。
オレがそう言うと、兎和と宮華は揃って首を横に振った。
「じゃあ、一度も話したことない顔しか知らない人と、短くても少しは話したことある人。どっちが印象いいと思う?」
「長屋くんは普通にしてれば特に印象良くも悪くもない感じだから、大丈夫よ。だいたい長屋くん以外は誰も、風紀委員会の印象を下げられる人いないんだから」
それから二人と日下さんはなぜかオレをそっちのけで、“対討論会用のオレ”を作り上げた。基本的には“身に覚えのないことで風紀委員会に絡まれている被害者”って立場だ。こういう質問にはこう答える、みたいな文章もあれこれ押し付けられた。
いいと思ってやってくれてるんだろうけど、そこまでやる必死な様子は失敗したときの深刻さを感じさせて、オレをビビらせるのに充分だった。
「風紀委員会と討論って、なんなんだ?」
「ああ、それは……(困った顔をする)。風紀委員会がオレに罪を認めろって言ってくるんだ。証拠があるとかなんとか。なのに、何を疑われてるのか教えてくれなくて、それで……(言葉を濁す)。オレだってこんなことしたくない。けど、他にどうしようもなさそうだったから(辛そうな顔をする)」
まあ、こんな感じだ。表情なんかも三人からの指示で、“慣れたらアレンジ可。相手や状況に応じて共感や同情が集められるよう工夫してみて”とは宮華からのありがたいお言葉。なんなんだこの細かい指定は。オレはアレクサか何かか。
全校生徒と言ってもひと学年。オレの説明はあっという間に拡がり、直接聞かれることはすぐに減った。
この点について風紀委員会は不利だった。どうも委員長ズしか詳細を知らず、しかも二人は(想像どおり)友達も少なく、尋ねられても“討論会で解る”と答えるだけだった。
じゃあオレが圧倒的に有利かというとそうでもなく“風紀委員会が動いてるんだから何かはあるんだろう”という見方をする勢力もいて、なんだその体制に飼いならされた思考は! と思ったものの、実際には何かあるどころじゃないので、それについてはただ苦笑するばかりだった。
こうした情報戦の一方、オレは宮華たちに許可を得て郷土史研究会の他の部員一人ひとりと話をした。詳しいことを説明し、七不思議創りについて打ち明け、謝り、なにを考えてきたのか話したかったのだ。
一人目は圭人。塾に行くようになってからは会う機会も減ったけれど、なんだかんだ今では気の合う友人に対し、隠し事をしているのが後ろめたかったのだ。それに、そもそもこれは生徒会と風紀委員会の対立のせいなんだし。
公開討論会の告知を見た時点で、圭人はおおよそのことを察知していたらしい。先に向こうから頭を下げてきた。
「こんなことになって、ごめん」
「知ってたのか?」
「いや。でもポスター見てどういうことかだいたいは察した」
「おかげでオレは公開処刑だ」
「すまない」
「ただ、オレからも謝らなきゃいけないことがある」
そしてオレは七不思議創りのことを圭人に告白した。事前に言うことは考えてきたといっても、やはり緊張で口の中が乾いた。
「すごいな……。全然気が付かなかった」
話し終えると圭人は感心した様子だった。
「怒らない、のか? 隠してたんだぞ?」
すると圭人は笑みを浮かべた。
「ああ、いや。寂しい気もするけど、誘われたところで僕は時間的にも立場的にも参加できない。なら、仕方ないだろう。それに……今の話だと七不思議創りは郷土史研究会の部活じゃないだろ」
「え?」
「メンバーはだいたい被ってるけど、僕と泰成くん、霧島さん、湯川さん、じつに過半数は無関係だ。一方、そっちにいる兎和は部員じゃない。それはもう有志の活動であって、郷土史研究会の部活とは関係ない」
「あ」
オレは間の抜けた声を漏らす。言われてみればそうだ。七不思議創りのために郷土史研究会を立ち上げたから、二つをすっかり同じものだと思いこんでた。最初はそうだったのかもしれないけれど、他の人からすれば圭人の言うとおり、今では別々の存在なんだ。
「気づいてなかったのか? なら使いどころがあるか解らないけど、手札として持っておくといい」
夏休み明けも激変して驚かされたけど、このところの圭人の頼もしさはすごい。最初のころとはもう別人みたいで、本当にお前は誰なんだ。
二人目は湯川さん。七不思議創りについては知ってるから、その点は気が楽だ。むしろ、迷惑かけて悪いって気持ちが大きい。
湯川さんはずいぶん不安そうな様子だった。身を縮め、視線は落ち着かなくフラフラし、顔はうつむきがちだ。
オレが話そうとすると、湯川さんは遮った。
「いえっ、あのっ、解ります」
「そっか……。ごめんな。不安にさせて」
「そっ………まあ、はい。あの、で……あー。いや、はい」
いつも以上に歯切れが悪い。
「どうした?」
「あっと、いえ特には。まあ、あの、そいえば私って」
「今のところ、疑われてるのはオレだけだ。だいたい、どう調べても湯川さんは出てこないだろ」
「あっ、そ、そう、そうですよね」
湯川さんは弱々しい笑い声を上げる。妙だ。嫌な気配に押されて、オレは尋ねる。
「ひょっとして、予感がするのか?」
「えぁっと、うーん。まあ、うーん。どう、なんでしょうね?」
「って、言われても……」
「すみません。ですよね。あの、ちょっと、いつもの感じとはなにか違ってて、私にもよく……すみません」
「あー。もうちょっと、詳しく教えてくれるか?」
すると湯川さんは噛み合わせた歯の隙間からスーッと息を吸い、言った。
「あのですね。すごく嫌な予感がするんですけど、それだけで。何か解ったとか思いついたとか、そういうのが全然なくて……。あの、ただ不安なだけかも。はい。すみません。あっでも、あいや……うーん。その、何かもう少しで、こう……」
湯川さんの生態はよく知らないけど、確かに今までの超推理みたいなのとは違うようだ。
「とにかく、オレがどうなっても湯川さんが困ったことになったりはしないから」
「ああ、はい。ええ。そこはもう、アレなんで。はい」
何か気づいたら教えてくれるよう約束すると、オレは湯川さんと別れた。不吉な予感しかしないんだが、ともかく湯川さんに対してもこれで最低限の責任は果たせたような気がする。




