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病的に人見知りな幼なじみと七不思議を創ります。  作者: ナカネグロ
第6の不思議︰呪われネットワーク
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第7の不思議︰サメジマ先輩-11

 火曜日。オレは明日に備えて一日ゆっくり過ごそうと思ってた。たまには部活も休んで、本屋にでも行くか、なんて考えたりもしてた。


 ところが、そんな少年の無垢でささやかな願いは昼休みの訪れとともに汚されてしまった……。


 昼休み。オレは空き教室に呼び出された。周囲に教室部屋のない穴場スポットだ。


「で? なんの用だ?」


 オレの言葉の先にいるのは風紀委員長のつがい。二人とも椅子に座らず、男子の方は腕を組み、女子の方は机に軽く手を乗せている。


「警戒するのは当然だけど、今日は風紀委員長としてではなく、ただの生徒として話があるんだ」


 男子の方、名前なんだっけ? ああ、一矢か。一矢が答えた。


「だから今日は談話室でも、風紀委員室でもない」

「そういうメッセージ性っていうのか? そういうのどうでもいいんだが。……そういや、風紀委員会って専用の部屋があるのか」


 口にしてから後悔する。思ったとおり、一矢は少し自慢げに言った。


「最近、割り当てられたんだ。風紀委員の仕事には機密性の高いものや、取扱に注意が必要なものもあるからね」


 親の財力を自慢する子供みてぇだなと思ったものの、黙っておくだけの冷静さはある。


「まあいいや。それで、ただの生徒として、どうした? っていうか、委員会の用じゃないなら帰っていいか?」

「いや、待ってくれ。これは長屋君にとって有益な話なんだ。まずは聞くだけ聞いて、それから決めたらどうだろう? 聞くだけなら損もないわけだし」


 あー。ネット知識だけど、それってマルチ商法の勧誘が言いがちなセリフだよな。となると、答えは一つだ。


「いや、いい。興味ないんで」


 オレは席を立とうとする。すると二人は困った様子で顔を見合わせた。まさか断られるとは思ってなかったらしい。と、そこでオレの頭にあるアイデアが浮かぶ。


「どうした? 引き止めないのか?」

「いや、その……」

「だいたい昨日も思ったけど、二人ともアドリブ力がないんだよ。そんなんじゃ郷土史研究会ではやってけないぞ」


 困惑する委員長ズ。よしよし、狙いどおり。二人を混乱させてオレに対する苦手意識を植え付け、今後の話し合いを有利にしようって作戦だ。


「別に郷土史研究会に入りたいわけじゃ……」

「だから、そういうところだよ。別にな、アドリブ力がないならないで仕方ないんだ。けど、それなら事前に準備をきっちりやるんだよ。たとえば断られたらどうするか考える、とかな」

「まあ、それはそう、だな」


 どうやら一矢は切れ者そうな見た目とは違って、ポンコツぎみかつ押しに弱いらしい。


「オレは話を聞かないと言ってる。じゃあ、どうするか? オレも一緒に考えてやるから、な?」

「え?」


 そのときだ。


 ガッ! ダン!


 トモちゃんが机を殴った。反対側の脚が浮き、床を叩く。オレと一矢は驚いて固まった。


「話を、聞いて」


 トモちゃんは上目遣いにこちらを睨んでいる。その声は震えていて、しかも怒っているっていうよりは“あ、これこのままだと泣くな”って感じの震え方だった。


「あ、うん。ごめん」


 オレは思わず謝ってしまう。トモちゃんは気持ちを落ち着かせようと目を閉じて深呼吸を繰り返してから喋りはじめた。


「実を言うと、私たちは長屋くんが一人でやったとは思ってない。むしろ別に黒幕がいて、その生徒にやらされてるんじゃないかって考えてる」

「お……おお?」

「けれど今のところ、それを証明するようなものはない。もし長屋くんが黒幕について教えてくれれば、私たちは先にその生徒について調査をしなきゃいけないでしょうね。そうなると当然、長屋くんの件については後回しにするしかなくなる」


 まわりくどい言い方だったけれど理解した瞬間、今度はオレが危うく机をBANするところだった。どうにか耐えられたのは日頃、宮華たちを相手にして鍛えられたおかげだろう。


 つまり、トモちゃんたちはオレに対する調査を中止する代わりに黒幕を売れって言ってるわけだ。しかもオレを見逃すんじゃなく、中止。つまりいつでも再開できる状態にするだけ。交換条件としては信じられないくらいケチ臭い。


「もちろん黒幕の方が罪は思いし、脅されたりしていて嫌々やっていた、なんてことがあれば長屋くんも被害者ということになる。自発的に協力してくれればその点もふまえて、長屋くんには軽い注意や反省文くらいで済ませてもらえるよう働きかける用意はある。……本当のことを言うと、私たちの目的の一つは長屋くんを黒幕から解放することなの。人間関係のトラブルで苦しんでる生徒を助ける、それも風紀委員の仕事だから」


 そう言うと、トモちゃんはいかにも誠実そうな笑顔になる。さっきガチギレして机を殴ってたのとは大違いだ。


 それにしてもなんでこう、解りにくい話し方をするんだ。つまり、オレの出方によっては実質無罪にしてやってもいい、そういうことらしい。


「黒幕って、それは──」

「いい。いい。今言わなくて。これはあくまでも個人同士で話してるだけなんだから」


 トモちゃんがオレの言葉を遮る。どうも黒幕の名前を出そうとしたって勘違いしたみたいだ。確かに今は録音もしてないし、オレがここで何を言っても証言にはならない。けれど、言われて困るわけでもないだろうに。


「とにかく、よく考えて。それで明日また、聞き取りのときに答えを教えて」


 そのとき、オレの周回遅れの頭脳がようやくトモちゃんの真意を理解した。その瞬間、さっきとは比較にならないくらいの怒りが湧く。それは頭に血が上るどころか、血の気が引くような感覚だった。怒りは爆発するんじゃなくて、硬く冷たい塊になってオレの中に居座る。


 つまりこういうことだ。オレは兎和の名前を黒幕として挙げることを期待されてる。さらに明日の放課後までに、説得力があってなるべく兎和が悪者になるような話を自分で考えるよう求められてる。それを満たせば風紀委員会はオレの処分が軽くなるよう、話だけはしてくれる。結果の保証はない。


 ふざけるな。


 怒りの冷たさで、頭が急速に醒めていく。


「それじゃあ、また明日。あなたのことだから、きっと正しい判断をしてくれるって信じてる」


 いかにも味方みたいな様子で告げるトモちゃんは、オレの変化に気づいていないようだった。

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