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病的に人見知りな幼なじみと七不思議を創ります。  作者: ナカネグロ
第6の不思議︰呪われネットワーク
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ぜんぜん違う話の断片その07

 先輩と後輩がいつものカラオケボックスに来たのは、冬休み最終日のことだった。


「あらためて、あけましておめでとうございます。って言っても、明日から学校ですけど。先輩、久しぶりですね」

「あけましておめでとう。冬休みは楽しかった?」

「はい」


 後輩はあえて先輩がどうだったかを尋ねなかった。先輩が毎年、年始に本家の集まりへ連れて行かれ不愉快な時間を過ごしているのは知っている。


「お姉ちゃん、イブは先輩の家に行ってたんですよね。楽しかったって言ってましたよ」

「そう。それはよかった。私も楽しかったわ。ああいうのはメンバー次第で楽しくなるものなのね。今年はもう少し、あの子たちと過ごしてもいいかもしれない」

「今年の目標ってやつですね」

「目標にするわけじゃないわ。……あなたは何かそういうのあるの?」

「私は──」


 そこで後輩は苦笑した。


「今年はゆっくりしようと思ってます」


 先輩は何も言わず、目で問いかけた。


「いろんな人に会いたいって言ってもらえて、呼んでもらえて、新しい人と知り合って。すごく楽しいんですけど、去年は途中からそれですごく忙しくなっちゃって。この間はイチニィに叱られたし、峰ちゃんも最近は心配してるみたいで……」

「そう。いいんじゃないの? 悪いけれど、どうしてそこまで人気者なのか私には解らないし、最初は気まずくても、誘いを断ってればきっとすぐに落ち着くんじゃないかしら。そもそもただの中学生なんだから、そんなに無理することないでしょ」

「そう、ですね」


 何か含むところのあるような口調だったが、先輩は気にせず続ける。


「それで今日の報告なんだけれど」

「あ、はい」

「私の番号からのSMSはあれきり来てない。犯人の目星もついてない。というより、疑わしい人間なんて浮かんできてない。この件は以上。それから、呪われたネットワークって話は知ってる?」

「はい。あれも、七不思議なんですよね?」

「そう。それで、私はノータッチだったんだけれど、相手に送ったメッセージを共有してもらったの」


 先輩は後輩のスマホにテキストを送った。受け取った後輩はファイルを開くと目を通した。その表情がみるみる険しくなる。


「これって……」

「前に私たちの拾った紙に書かれてたことが含まれてる。そっちの文章は長屋くんと宮華さんと日下さんがバラバラに書いたものよ。誰がどれを書いたか当てるって名目で確かめてみたけど、紙に書いてあったのと同じものを特定の一人が書いたわけじゃなかった」


 先輩は氷が溶けてすっかり薄くなった烏龍茶を一口すする。


「どう考えても筋の通った説明は思いつかなかったわ。そこから何か意味のあることを見つけるのは諦めた。だから調査は進展なし。犯行も起きてないから、むしろせいせいした気分よ。そのデータはそちらに提供するから、あとは勝手に考えて、と、老人たちに伝えてちょうだい」

「そんな」

「じゃあ、あなたはどう思う?」


 後輩はスマホに表示された文字列を真剣に見つめる。


「あの。こんなこと言うと馬鹿にされそうですけど、これってひょっとして、オカルト的なもの、とか」

「だとしたら? 湯川さんでも呼ぶ? 仮にそれで幽霊なりなんなり解ったとして、彼女にそれがどうにかできるの? あの娘や原口さんはただのオカルト好きで、本なんかも読んではいるでしょうけど、霊能力者とか拝み屋なんかじゃないでしょ。それならまだ見守り隊にいる八幡神社の神主さんにでも頼んだ方がいいんじゃないの? そういうのやるか知らないけど。いずれにせよ、私が関わることじゃないわ」


 先輩もこの一年でずいぶん変わった。後輩はそんなことを思う。初めて会ったころの先輩は事前に聞いていたとおり決してミスや失敗をせず、何かをやるとなれば必ず成果を出す人間だった。それがたとえどんなに小さな成果であっても。

 そして、自分がなんの成果も出さずに終わることを絶対に許さないという息苦しい緊張感が常に漂っていた。

 そのころの先輩はこんなふうに諦めて、投げやりに放り出すようなマネは絶対にしなかったろう。

 頼れるのは以前の先輩だが、今の先輩の方が後輩は好きだった。


「わかりました。伝えておきます」

「私からはこれで全部。そっちはどう?」

「特にないですねー。引き続き外部の不審者が校内に侵入しないか見張ってるのと、警察の方も進展ないって聞いてます。拾ったメモとか、そのあたりも何も。ただ、事件以外で先輩が興味持ちそうな話を聞きましたよ」

「どんな?」


 ストローで氷をつつきながら先輩は促す。


「圭人さんがもともと通ってた塾、あるじゃないですか。あそこの塾長って、最初は土橋教育研究所で働いてたんですよ」


 その発言に先輩は後輩を見つめ、軽く身を乗り出した。


「それって、圭人がいま通ってる?」

「はい。あそこができたとき、あそこの塾、えっとややこしいですね。研究所の所長と二人で教師をやってたらしいんです。それで何年かして独立して始めたのが、あの潰れた塾」

「他には?」

「いや、今はそれだけなんですけど……」


 先輩は考え深げな顔でソファの背もたれに身を預けると、ふと何かに気づいた様子で体を起こした。


「もしかして、放火の件が落ち着いたら今度はそっちを調査しろとか」

「あれは隣の市なんで、それはないですよ」


 苦笑しながら軽く手をひらひらさせて否定する後輩。


「でも気になるなら、個人的に先輩が調べるの手伝いますよ。圭人さん、いったい何してるんですかね。そもそも、何かしてるんでしょうか」

「さあ」


 言うと先輩は再び後ろにもたれかかった。


「仮になにかしてるとして、誰かを頼るかどうかも含めて圭人には自分で判断できるようになってもらわないと」

「厳しくないですか?」

「もちろん。みんな私を厳しいとか冷徹とか言うけれど、圭人相手のときに比べたら、これでもずいぶん甘やかしてるつもりよ」

「それだけ圭人さんのことは特別なんですね」

「ええ。それに、妻ですもの」


 こういうことを平然と言えるあたりが凄いと、後輩は感心する。


「とにかく、必要なときは遠慮なく誘ってくださいね」

「ありがとう。けどそもそも、後輩の中学生に何か頼むのを遠慮なんてするわけないでしょ。ちょっとチヤホヤされたからって、私が頼み事をためらうほどの重要人物にでもなったつもり?」


 まるで悪役令嬢みたいなセリフだ。後輩は短く笑い声を漏らした。



「違いますよ。それより先輩こそ、私が調子に乗って自分を見失わないか心配してくれてるんですよね?」


 先輩はものすごく嫌そうな顔をした。

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