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病的に人見知りな幼なじみと七不思議を創ります。  作者: ナカネグロ
第6の不思議︰呪われネットワーク
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第6の不思議︰呪われネットワーク-18

 学校を出て、圭人と二人で駅前に向かっているとだんだん不安が大きくなってきた。兎和の意見は結局、出会うなりいきなり殴られたり脅されることはないだろうってだけで、話してるうちにそういう目に遭う可能性はある。


 オレは気を紛らわせようと、隣を歩く圭人に話しかけてみた。


「なあ」

「ん?」

「さっき兎和さんが舌打ちしたかと思ったら、なんか圭人が話をまとめだしただろ? あれ、何だったんだ?」

「ああ、あれか」


 圭人は目を細めて苦笑する。


「兎和のやつさんざん喋っておいて、行きたくない部員が行かないって言いにくくしてしまったことに気づいたんだよ。兎和、そういう同調圧力みたいなの嫌いだから。それで舌打ちしたんだ。で、どうしようか迷ってるようだったから、僕が断れなくても危険度の低い案を出した」


 平然と答える圭人。さすがに兎和から夫と思い込まれてるだけはある。よく理解してるし、フォローが鮮やかだ。


 にしても、なんだな。会話がすぐに終わってしまった。もっとこう、“さて、なぜだと思う?”みたいなクイズ形式にするとか、もう少し話題を引っ張ってくれりゃいいのに。まあ、それはそれでウザいけど。


 しかたなく別の話題を出す。


「そういや、塾はどうだ?」

「あー。まあ、あれこれ噂は聴いてたからな。予想どおりって意味じゃ驚きはないな。勉強の方は確かにマジメにやれば成績が伸ばせそうで悪くない。いや、期待以上か。勉強ももちろんするんだけど、どちらかというと勉強の仕方や考え方を学ぶ方が大きい」

「塾長の姪とかいう人は?」

「いや、それがな!」


 一瞬声を大きくしてから圭人は後ろを振り返り、声をひそめる。


「いや、それなんだが──」


 というわけで、オレは「香澄先生かすみせんせい」の可愛らしさについてあれこれ話を聞かされた。そうしたエピソードがいちいち木村多江のビジュアルで脳裏に浮かんで、確かにそれはかなりいいな、と思わされる。


「僕だって年上好きだとか、ましてや熟女好きなんてことはないんだが、あの人はちょっと別格だ。マズいよ」


 困ったような口調だがそのくせ楽しそうでもある。もしかしたら兎和に内緒で他の女性を気に入ることに浮気めいたスリルを楽しんでるのかもしれない。大丈夫だろうか。


 そんな感じで雑談をしつつ歩いていると、やがて駅前に出た。オレたちはからどちらともなく無言になる。

 駅前といってもごく普通の駅なので、人が大勢いるわけじゃない。小さなロータリーにバスが1台停まってる。改札から出た人たちがどこかへ向かい、歩いてきた人たちが改札を抜けていく。見回してもそれらしい人間はいない。オレたちは駅の入り口からすぐのところにあるベンチに座った。無言で行き交う人々を眺める。


 少しすると、離れたところに宮華たちが見えた。みんな来てるみたいだ。それから更にしばらくして、ヤンキーとギャルの二人組が姿を見せた。


 男子の方は白いダウンに、下は制服を着てるみたいだ。髪はサイドがかなり短く、上の方だけやや長い。その長い部分はライトブラウンに染めてある。かなり背が高くて180は超えてるようだけど、泰成くんとは違ってスラリとしてる。

 女子の方は黒いロングのコートで、袖口にファーがついてる。長い髪は金色で、遠目にもかなりハッキリしたメイクだ。こちらも女子にしては背が高く、170近いんじゃないだろうか。歩くたびにコートの合わせ目からチェックの制スカートが覗く。足元はあたたかそうなキャメルブラウンのブーツだ。


 二人はベンチに座るオレたちに気づくと、まっすぐ歩き寄ってきた。例によって香水の匂いがする。


「長屋くん、だよな? 俺は藤田。こっちは連れの桜美おみ

「柴田桜美。よろしく」

「あっ、長屋一路です。よろしく」


 いかん。名乗るだけで緊張してきた。藤田くんはなんていうか全体の雰囲気が鋭く、目つきもキツい。口調は軽いけど、圧がある。

 一方の柴田さんも声の感じからこっちを警戒してるのが伝わってきて、意味もなく焦る。


「隣は?」

「郷土史研究会の部員、鶴乃谷圭人だ」


 圭人が落ち着いた様子で答える。


「鶴乃谷……」


 藤田くんは心当たりがあるのか小さく呟くと、わずかに首を傾げた。が、それもわずか。


「で、俺らに用って?」

「なんか、オレを探してるって」

「? それだけ?」

「あ、いやその、まあその」


 こっちの用を伝えるか迷っていると、圭人が言った。


「こちらも相談がある」

「相談?」


 藤田くんは繰り返すと、疑わしそうにオレを見てから圭人に視線を戻した。


「ま、いいや。にしても、ここ寒くね? サイゼ行こ」


 藤田くんは背後に目を向ける。駅の向かい、通りを渡った先にあるビルの二階にサイゼがあるのだ。ちなみに一階にはコンビニと焼き鳥屋が入ってる。


「この時間、混んでるくない?」


 柴田さんが言う。確かにもう、そんな時間だ。


「あー。そっか。待つのもアレか」


 そう言うと、藤田くんは傍らの自販機のところへ。コンポタの缶を買う。それでなんとなく、オレと圭人も立ち上がり、それぞれ飲み物を買った。オレはカフェオレ。圭人は緑茶。柴田さんは何も買わなかった。


「それで? なに? 相談?」

「先に、そっちの用事からでいいか? こちらは他にも部員が来るんだ。それから話をさせてもらいたい。もう少しで着くと思う」


 てことは、圭人いつの間にか合図を出したんだな。たしかに現状、特にマズそうな感じはしない。

 増員が来るって発言にかなり不審そうな顔をしたものの、藤田くんは肩をすくめた。


「はぁ、まあ、別にいいけど」


 ちっとも良さそうではない。


「泰成くん、郷土史研究会に入部したんだろ?」

「ああ、うん」

「それで、一応挨拶しておこうと思って」

「……ん?」


 それだけ?


「は?」


 少しだけ藤田くんが声を荒げる。


「あっ、えと、わざわざ探してるっていうから」


 これじゃまるで湯川さんだ。


「だからやめなっつったじゃん。普通、ウチらみたいのが探してるって聞いたらビビるんだって。だいたい、シロは過保護すぎんだよ。ママかよ」

「っせぇな」


 藤田くんはそれこそ親に叱られてスネたような調子で柴田さんに言うと、またオレを見た。


「あと泰成くん、どんな感じにしてるか聞きたくて」

「そもそも、郷土史研究会って何やってんの?」


 後出しで柴田さんに尋ねられる。


「鶴乃谷の歴史を調べたりとか、そんな感じで……」


 するとなぜか柴田さんは半笑いになった。


「あー。泰成くん好きそー。で、どう? ちゃんとやってる?」

「それは、まあ、そ──」


 “そう”と無難に答えそうになって思い直す。それじゃ後からの相談と矛盾する。そしてさっきの圭人を思い出す。二人は攻撃的でも敵対的でもない。結局、オレが自分から勝手に線を引いてビビってるだけだ。圭人みたいに落ち着いて話せばちゃんと通じる。


「それが、その。普段はいいんだけど……」


 そしてオレは泰成くんがときどき感情を爆発させることや、さっき部室であったことなんかを手短に話した。誰が問い詰めたのかは伏せたけど。


「クソっ!」


 藤田くんがさっきまでオレたちの座ってたベンチの脚を蹴る。オレは驚いて思わず身を縮こませる。


「あっ、ごめんごめんごめん。今のは泰成くんに対して、な」


 慌てて謝る藤田くん。


「いや、あいつさあ。あいつな。俺たちには大丈夫、上手くやってる、みたいに言ってたんだよ。なのに全然──」


 藤田くんは苛立ちを隠そうともせず、言葉に詰まる。どうやら泰成くんは見栄を張って嘘をついてたらしい。いやまあ、それでも大丈夫だったのはぎりぎり嘘じゃないけど。もしかしたら二人は泰成くんの報告を疑って、オレから本当のことを聞き出そうとしたのかもしれない。


「それで、こっちからの相談のことなんだけど」


 と、そこで圭人に肘を引っ張られた。見れば宮華たちが来るところだった。ひと目見て、兎和以外はガチガチに緊張してるのがわかる。なんせもうが顔が強張ってる。まあ、いつものことだ。

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