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病的に人見知りな幼なじみと七不思議を創ります。  作者: ナカネグロ
第6の不思議︰呪われネットワーク
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第6の不思議︰呪われネットワーク-16

 これまでもそうだったけど、宮華は何かに必死になってると、そっちに気を取られて人見知りを発動しない。今もそうだ。さっそく不安そうな表情を深めていく泰成くんを見据えると、宮華は口を開いた。


「たとえどんな結末になっても、少なくとも私とイチロはあなたを見捨てない。手放さない。だから安心して聞いて」


 前回のオレと同じだ。まず安心できる結末を保証する。


「解った?」


 泰成くんは戸惑いながらうなずく。不安そうな様子はひとまず収まった。霧島さんは立ち尽くす泰成くんの背後にさり気なく立ち、その背に手を当てる。


「このところ一緒に過ごして、泰成くんが感情に振り回されてること、それをどうにかしたいと思ってること、それは解ってる」


 泰成くんの顔がみるみる赤くなる。怒ってるのか? オレは身構える。けど泰成くんは顔を伏せてしまった。暴れだす気配はない。ってことは、恥ずかしいのか?


「それならそれでそう言ってくれればいいし、自分のことをもっと教えて欲しい。そうすれば私たちも何を気にすれば良くて、何を放っておけばいいのか解るから。でないと、泰成くんの行動をいちいち不安な気持ちで意識しなきゃいけなくなる」


 泰成くんは何も言わない。代わりに顔を覆い膝を曲げ、背を丸めてしゃがみ込んでしまう。ごく自然に霧島さんもしゃがみ、泰成くんの背に左腕をまわす。

 泰成くんのことを他人事とは思えないということだったけど、もしかしたらそれだけでなく、霧島さんは単純にオレが思ってたよりも優しい人間なのかもしれない。


 オレは他の部員の様子をうかがった。


 兎和と圭人は落ち着いた様子で、泰成くんと宮華のことを見てる。目が合うと圭人は小さくうなずいて寄越した。

 日下さんは腕を組んで少しだらんとした感じでイスに座り、こっちを眺めている。もともと表情に乏しいので読みづらいけど、不安とかはなさそうだ。

 湯川さんはなぜか両手を握りしめ、目を見開き、イスから腰をやや浮かせて身を乗り出している。スポーツで熱い試合を見守っている観客みたいだ。とりあえず嫌そうにしてないからいいか。


「辛いのは解るけど、私は泰成くんを責めてるわけじゃない。ただ、少しでも一緒に居やすくしたいだけ。だから自分のことを話して。すぐでなくてもいい。落ち着くまで待ってるから。またの日がいいならそれでもいい。そう言って」


 それで宮華の話は終わりだった。オレたちは泰成くんを待つ。もう誰も、この場で泰成くんが暴れるなんて心配はしてなかった。


 泰成くんはなかなか動かなかった。本人なりの葛藤があるのか、何かの感情に支配されているのか。それでもオレたちは成り行きを見守った。


 何分もが過ぎ、泰成くんはようやく顔を覆う手を下ろした。その顔は赤く、目には涙が滲んでいる。


「俺は……」


 泰成くんは顔を伏せぎみに、目は床へ向けたまま、震える小声で言った。けど、そこからが続かない。


「俺は……」


 もう一度繰り返す。けど、そこまでだった。泰成くんはおもむろに立ち上がると、走って部室を出ていってしまった。大きな足音が廊下を遠ざかり、小さくなりながらずいぶん長いこと聴こえた。やがてそれも細くなり、消える。


「ああ、私──」


 泰成くんが立ち上がった拍子に尻もちをついていた霧島さんが言う。オレが一瞬迷っているうちに宮華がうなずいた。確かに現状で泰成くんを落ち着かせられる人間がいるとすれば、この中じゃ霧島さんくらいだろう。


「うん。ごめん」

「別に悪いわけじゃない、でしょ?」


 そして霧島さんは泰成くんを追って出ていった。宮華はオレたちを見渡す。


「えっと、その……。みんな、ごめん」


 かなり気まずそうだ。


「いや、悪くはなかったと思う」


 圭人が答えると、隣の兎和も口を開いた。


「その優しさが辛い、というところね。あれは。裏目に出ちゃったけど、泰成くんが自分から話す気になるのを待ってたら、いつになってたか」


 二人は宮華の判断に賛成らしい。


「湯川さんもごめん。面倒なことに突き合わせて」


 すると湯川さんは大げさに顔の前で手を振った。


「いえ、あのその、私は、べつに……あの、ちょっと、なんていうか……まあ、別に、こういうのは……はい。青春て感じでちょっとおもしろ……あいや、えと、まあ」

「ありがと」

「あ、まあ。いえ」


 それから宮華は日下さんに目を向けた。


「日下さん」


 すると日下さんは腕組みしたままわずかに首を傾げた。


「今はまだ、何も。宮華さんが始めたんだから、ちゃんとやり遂げて。それ次第、かなぁ」


 すると宮華は表情を引き締めた。


「うん」


 そんな二人を見て湯川さんがホクホク顔をしている。意外とこういう青春的なノリが好きみたいだ。なんかこう、本人に昏く冷たい冥界から来て人間に偽装したような面があるせいか、対極の熱さと輝きに惹かれるのかもしれない。


「それで、どうする?」


 オレが言ったところで、霧島さんが戻ってきた。


「階段の窓から、走って校門出てくところが見えた。追いつけない」


 よほど急いだみたいで、ブレザーの裾や髪が乱れている。宮華は霧島さんからの報告に不安の色を浮かべた。


「明日以降で部活に、来て、くれれば……」


 重たい沈黙がその場を支配する。


 さすがにいきなり不登校ってことはないだろうけど、また部活に来てくれるかどうかは不確かだ。一晩宮華の言葉と向き合って話す気になって戻ってくる可能性もゼロじゃないけど、低い気はする。もしかしたら一晩じゃなく数日とか待てば違うだろうか。それよりは今、というか今日のうちに捕まえられればまだ見込みありそうな気がする。

 けど、どこに行ったんだろう。さすがにそのまま校外に走り去るとは思ってなかった。LINEしても返事くれないだろうしなぁ。


 そこでオレはある可能性に思い至って、次の瞬間後悔した。あんまり気が付きたくなかった。悩むことしばし、けど、考えれば考えるだけ、それがベストな気がしてくる。たとえ、最悪の結果になる可能性があっても。


「あー。あのさ」


 オレはみんなに尋ねる。


「このあと、時間あるか? 付き合ってほしいんだけど。泰成くんのことで」

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