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病的に人見知りな幼なじみと七不思議を創ります。  作者: ナカネグロ
第6の不思議︰呪われネットワーク
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第6の不思議︰呪われネットワーク-14

 それはいきなりだった。何の前置きも脈絡もなく、宮華が霧島さんに言った。


「ところで霧島さん、電話帳に電話番号ってどれくらい入ってる?」


 オレは思わず宮華を見た。それが七不思議創りに関係ある話なのは解るけど、なんでそんな唐突かつ無防備に突っ込んでいくんだ。


「え? なんで?」

「この前イチロと話してたんだけど、電話番号って本当に知らないってなって。部員同士でも知らないし。霧島さんみたいに放送部でいろんな人と連絡取る立場だと違うのかなって思っただけ」


 苦しい。苦しいぞ宮華。案の定、霧島さんは不審そうだ。


「まあ、多少は」


 宮華の様子を探るように答える。


「それってどういう流れで知るの?」

「スマホが手元にないとかで……LINE交換できないときなんかに、とりあえず……電話番号聞いて……あとからSMS送ったり、とか」

「ああ、そういう」


 宮華はうんうんと首を縦にふると、言葉を続けた。


「それで、例えば原口さんの電話番号とか、知らない?」

「「え? なんで?」」


 霧島さんとオレの声が被る。霧島さんは“なんでそんなこと聞くのか”、だろう。オレは“おまえなに考えてんの?”だ。

 すると宮華はなにか答えようとして口を開き、閉じた。その口元にじわじわと邪悪そうな笑みが染み出してくる。


「霧島さんは私たちが裏でコソコソなにかやってるんじゃないかって疑ってるんでしょ?」

「えっと、それは……」


 さすがにそれほど親しくない宮華に対しては“疑ってます”と答えづらいらしい。


「もし本当にそうで、何やってるか教えるって言ったら、知りたい?」


 霧島さんは答えない。代わりに、泰成くんほどじゃないものの呼吸が荒くなる。


「そ──本当に?」

「仮定の話。知ったらどうするの? 暴露する?」

「あ、その」


 動揺してるのか、いつものボソボソした声とも、スイッチ入ったときの声とも違う、わりと普通の声だ。宮華はそんな霧島さんに畳み掛ける。


「そんなことしたら部はバラバラ。泰成くんも居場所を失って、独り放り出されることになるよね。きっと」


 霧島さんの目が大きく見開かれる。


「なんで、泰成くんの……名前が、出てくるの?」

「ずいぶん気にかけてたみたいだから」


 薄笑いを浮かべて言う宮華は相手をいたぶる喜びを満喫する悪役、いや悪そのものだ。


「さっき言ったことのせいなら──」

「ううん。もっと前。霧島さん、泰成くんの様子がおかしくなったとき、その場に踏みとどまったでしょ? だから」


 霧島さんの視線が逃げ道を探るように、せわしなく彷徨う。こんな寒い時期なのに、額には汗が見える。


「目の前で急に……あんなふうになったら、ね? 普通は……逃げるんじゃなくて、心配する、でしょ」

「そう? 私ならさっきしたみたいに先生呼びに行くけど」

「だ、だから、それは……パニックで頭が……回らなくて」

「そう。なるほど……。そんなときは一番思い浮かべやすいことが浮かんでくる。霧島さんの場合は精神版の応急手当……」


 そこで宮華は言葉を切り、なにやら考える。自分で喋りながら何か引っ掛かるものがあったらしい。

 霧島さんはそのスキに反撃するどころか、宮華が何を言い出すか不安げに待っている。無意識だろうけど腕を交差させて自分で自分を抱きしめるようにしてるので、たぶんあれもう精神的に圧倒されきってるな。


 オレはそんなことを思いながら二人を眺めていた。まあ、あれだ。百合に挟まれる男は壁になるか死ぬかの二つに一つだからな。オレは壁を選ぶ。いま目の前の状況が百合案件かどうかは様々なご意見あろうかと思いますが、私としましては、え、大胆に決断、その、選択をして、ですね、え、迅速かつ適切に対処してまいりたいと、そう、思いながら思うのであります。


「もしかしてだけど、泰成くんが感情を爆発させたときどうするか前もって調べておいて、ああいうときすぐ実践できるようにイメトレしてたんじゃないの?」


 ここまでの流れ、とにかく宮華の普段は目立たない性格の悪さがよく出てる。霧島さんを徐々に追い込んだ上でこの、首を撥ねるようなセリフ。しかも悪意あるとかじゃなくて無自覚、ナチュラルでこうだもんな……。


 霧島さんは顔を赤くし、何か言おうとしてるようだけど言葉が出てこない。怒りに言葉を失ってるんだろう。宮華の意図がわからなくて黙って見てたけど、さすがにそろそろ止めないと、と思ったら、霧島さんがふいと目を伏せてしまった。おや?


「そんな、こと、ない、から、ね?」


 弱々しい声だ。口調もなんというかこう、ちょっと違う。


「それで、知りたい? どう?」


 平然と内話を続けようとする宮華。どういう精神状態なんだ。


「仮定の話なんて……知りたくない」

「仮定でなければ?」

「うぅ……い、あ、いい。知りたくない」


 答えると霧島さんは立ち上がった。


「今日はもう帰る、ね?」


 そしてヨロヨロした足取りで部室を出て行った。取り残されるオレたちに静寂が降りてくる。


「泰成くんを思いやる気持ちが破滅願望に勝った……!」


 満足そうにつぶやく宮華。


「まさか、それを狙って!? でもなんで」

「いや、最初は思いついたこと話してただけだったんだけどね。原口さんの電話番号が判ればラッキー、くらいの感じで。けど途中から、これひょっとして行けるんじゃないかと思って。霧島さんて破滅願望に振り回されてるでしょ。たぶん感情に振り回されてる泰成くんのこと、他人事に思えなかったんじゃない?」


 確かにそう言われるとスジは通る気がする。本当かどうかはさておき。


「けど、何もあんな嫌われるような言い方しなくても」

「……へ?」


 宮華の表情がこわばる。


「だってあれじゃ、ねちねち嫌がらせしてるようにしか見えないだろ」


 宙に目を向け、黙り込む宮華。たぶん今のやり取りを脳内再生してるんだろう。少しして──。


「あーっ!!」


 叫んで立ち上がる。


「な、なんで。気づいてたならなんで止めずにボサっと見てたの!?」

「は? いやだって……え? 嘘だろ」

「自分の考えに夢中だったの! 早くほらなんとかして!」

「バッカ、おまえもう絶対二度と思いつきで行動するなよ! いいか。絶対だぞ!!」


 オレは慌てて教室を飛び出し、霧島さんを追いかけた。


 衰弱した様子で放送部の部室へ向かう霧島さんにどうにか追いついたオレは反射神経で考えた言い訳、“さっきはゴメン。宮華のやつ、霧島さんとの距離を縮めようとして恋バナしてたつもりだったんだ。信じられない? オレもだ。けど、本当なんだって。なんせほらあいつ、恋バナなんてしたこともないしコミュ障だから”をしぶしぶ納得してもらうのにメチャクチャ苦労した。


 ──勢いで引き受けちゃったけど、よくよく考えればなんでオレがこんなことしなきゃならなかったのか。アイツいつか解らす。

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