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鬼の娘は初恋を追いかける  作者: 咲倉 未来


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告白

 白夜(びゃくや)は厠へ行った希代(きよ)の帰りが遅いので見に行ったが、希代は何処にも居なかった。


「すまん。希代が逃げ出した」

 朔夜(さくや)と二人で屋敷を飛び出すと、辺りに咆哮(ほうこう)が響いた。


「龍神だ!川に行くぞ。白夜」


 言い終わる前に、朔夜は置いてあった縄を持って走って行く。白夜も作業用に置いてあった(なた)を持ち後を追った。


 川に着けば、希代が躍起になって宙に石を投げていた。その頭上に(せつ)と誰かが浮かんでいる。


「あれは龍神だ。雪は龍神の加護がある」

 朔夜の言葉に驚くが、今は希代を何とかするのが先だ。見れば手が夜叉に変わっている。


 龍神に夢中な希代に気付かれぬように、白夜と朔夜は背後に回り込み飛び掛かった。


 凄い力で抵抗するが、まだ一部しか夜叉になっていないお陰で男二人で何とか押さえ込む。


「離せ!離せ!邪魔をするな!!」

 バタバタと暴れ叫ぶ希代を、うつ伏せにして背中に乗り上げる。口に紐を回して足も縛り上げる。


 肺が圧迫されて苦しいのか、顔が歪み呻き声が洩れている。


「手だけか?仕方ない」


 可哀想だが、夜叉になったら戻らない。白夜は希代の腕を固定し、持っていた鉈をふるって腕を落とした。


 ダン!ダン!と音が響く。

 その度に希代の口から絶叫が洩れ、切り落とした手から激しく血飛沫(ちしぶき)が飛ぶ。

 直ぐに傷口を縛るが、ドクドクと流れる血は止まらない。


 せめて残った体だけでも鬼のままにと思ったが、今更何を言っても希代が哀れな姿な事に変わりはなかった。


 少し離れた所に、龍神が降り立ち、その横に雪が座り込む。


「希代、希代」

 と譫言(うわごと)のように呟くのが聞こえる。


 白夜は希代を見る。その瞳には先ほどまでの怒りは無く、大人しくなっていた。希代の口に回した縄を外し、頭をやさしく撫でてやる。

 父として他に出来ることなど、思い当たらなかった。



「・・さま。・・けて・・さいま・」

 希代の口が微かに動く。耳を近づけてその声を聞き逃さないように集中する。

「おとうさま。たす、けて、っさいませ」


 希代の瞳から光が消えていく。体は既に蝕まれていて大量の血を失ったばかりだ。最早助からない事は容易に想像できた。


「ああ、今楽にしてやる」

 そうして懐から瓶を取り出し、薬を口に流し込んでやる。せめてこれ以上、蝕まれないまま逝かせてやりたかった。


 □□□


 雪は目の前で何が起こっているのか、理解ができなかった。譫言(うわごと)のようにように妹の名前を呟いていた。

 龍神に抱えられて宙に浮いたとき、見下ろした希代はまるで別人のようだった。


 ガタガタと震える体を両手で抱きしめる。今更、恐怖が全身を襲った。


「雪、大丈夫か」

 視線を上げると、久しく見ていない朔夜の顔があった。その顔は、とても辛そうだった。

 抱きしめられて背中を撫でられ、その体温に安堵する。朔夜の肩越しに父と希代が見えた。


 雪は視界の隅に何か動く物を捉えた。

 ()()は近くに置かれた鉈を握ると、真っ直ぐに雪を目掛けて飛んできた。


「危ない!」


 朔夜の背中を掴んで、自分の方に思いっきり倒す。寸前で、鉈を持った手は朔夜の上を掠めていった。


 朔夜が慌てて起き上がれば、手は宙を舞い鉈を持ったまま、こちらに戻ってくる。


 直ぐに鬼火を投げつけるが、希代の夜叉になった手は鬼火を受けても怯まず襲い掛かってくる。

 何度か除けてやり過ごすと、横から龍神が大量の水を放って鉈を持った手を閉じ込める。


 雪は倒れたまま起き上がる事も忘れて、呆然と目の前の光景を見ていた。


 突如、首に衝撃が走る。もう一つの手が雪の首を絞めたのだ。


「っつ。っうぅ」


 爪が喉に食い込み血が流れる。両手で手を外そうと引っ張るがびくともしない。息が出来ず視界がぼやけていく。


(苦しい。息ができない。誰かっ!)


 視界はどんどん暗く狭くなっていく。自分はこのまま死ぬのだろうか。


(いやだ。だって、まだーー)


 雪は首の手を掴み、力いっぱい鬼火を燃やした。自分の顔にも鬼火がかかったが、気にしていられなかった。


「雪!」


 朔夜が呼ぶ声がする。


(せっかく会えたのに)


 雪は朔夜に会って伝えたいことがあった。何度も不安になって悩んだが、譲って済ませることができなかった。だから寂しくても我慢した。


(このまま死ぬなんて、嫌だ!)


 雪は自分の首を絞めている手を更に力強く握って、勢いよく鬼火で燃やした。


 急に喉に空気が通り、耐えられず咳き込む。雪はその場に倒れこみ何とか息を整えようと呼吸を繰り返す。


 遠くで雪を呼ぶ声が聞こえた気がして、目を開ければ朔夜の顔が飛び込んできた。


 雪は背中を抱き起こされて、朔夜の懐にもたれかかるように腕の中に収まっていた。


ーーずっと昔から、自分はこうして抱きしめてくれる人が欲しかった。小っちゃい頃から、ずっと我慢してきたのだから、もう許してほしい。


 もう十分譲ったのだから、と雪は欲しかったものに手を伸ばす。朔夜の着物を掴み、その耳に少しでも近付くように力を振り絞る。



ーーちゃんと言うんだ。



 手をつないで欲しい。


 ずっと一緒に過ごしたい。


 隣で声を聞かせてほしい。


 あなたの瞳に映るのは自分だけであって欲しい。


 他の人に心を割かないで欲しい。


 雪のことを忘れないで欲しい。



 ゴホゴホと咳き込んで、上手く喋れない。視界もぼやけて意識が沈んでいく。


 最後に見た朔夜は、顔を歪めて泣いていた。


(おかしいな。笑って欲しかったのに)


 雪は目を閉じると、そのまま意識を手放した。

白夜パパは、ずっと希代を殺す覚悟をしてました。

だから迷わず鉈を手に取ったし、懐に安楽死の薬も忍ばせてました。

生きられる間、できるだけ長く幸せに過ごせるようにと思っていたのも本当。


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