二人の娘
目が覚めると、見慣れない天井に驚き部屋を見渡した。
(ああ、私は長の家に泊まったんだった)
これから暫く滞在するであろう部屋は、雪が今まで使っていた、どの部屋よりも大きく立派な調度品が揃っていた。
仕度をして、ぼんやりと過ごしていると女中が来て雪を連れて行く。辿り着いた部屋に通されると、そこには長ともう一人女性が座っていた。
「はじめまして、雪。おばぁちゃまよ!」
(おばぁちゃま!)
雪は、そのまま流れるようにしゃがんで正座し頭を下げた。
「お初にお目に掛かります。雪と申します」
何とか挨拶したものの、雪の頭の中は真っ白だ。
「あらあら、本当に真面目なのね!」
だろう?と祖父母は仲良く笑っている。
「早速だけど、今日はね、雪に贈り物があるの!」
そう言うと祖母はパンパンと手を叩く。
襖が開き数人の女中が、大小様々な葛篭を持って入ってくる。あれよあれよというまに、座敷に着物、帯、簪が所狭しと並べられた。どれも絢爛豪華な品々で輝きを放っている。
「私の娘時代のものなの。今はこれを使って頂戴。もちろん新しい物も仕立てるわよ」
「そんな大切な物を、い、頂けません」
雪は脅えた。こんな豪華なものは管理も出来ないし、触るのも怖い。新しく作ると言われても、どうして良いか分からない。
混乱している雪の傍に、祖母が近寄ってくる。
「いーの、いーの。雪が大切な物を妹の為に我慢するんだもの。その埋め合わせをさせて頂戴」
ドキリと心が揺れた。目頭が熱くなるのが分かった。
「そんな、ことは」
頭を撫でながら祖母が優しく話しかけてくれる。
「仕方ない理由なのは聞いたわ。でもそれで、雪が辛い思いをする事を仕方ない事で済ませたくないの。少しでも気を紛らわせて心穏やかに過ごせるようにさせて頂戴」
ぽろりと涙が一粒落ちた。希代だけでなく雪も心穏やかに過ごせるように、精一杯の事をしようとしてくれているのが分かり心が温まる。
「ありがとう、ござい、ます」
嬉しいと思うほど、涙がポロポロ落ちて困ってしまう。
「お礼を言うのは、こちらの方よ。ありがとう、雪」
雪が落ち着くのを待って、張り切ったおばあちゃまは雪に豪華な着物を着せて飾り立てていった。
□□□
希代は今日も大人しく薬湯を飲む。
「今日は、外に出られますか?お父様」
檻の外の白夜から返事は無い。
「お父様。一体いつまで、このままなのですか?」
希代の声が険しくなる。顔がぐにゃりと歪んで、口から不満を乗せた唸り声が漏れる。
「希代。分かった。少しだけ一緒に歩こう」
そう言うと父は檻を開けてくれた。
希代は直ぐに自分の言うことを聞いてくれない父に不満を募らせる。でもやっと外に出られるのだから、と少しばかり気分が良くなった。
牢から出て、父に連れられて外に出る。
希代は、自分の住んでいる屋敷がみすぼらしくて不満に思う。屋敷の外を見渡せば、手入れを怠った竹藪が生えっぱなしだ。
(私に相応しくないわ!)
苛立ちが体を駆け巡り、途端に顔が強張り方々に引っ張られる。
「希代、落ち着くんだ」
「もっと立派な屋敷に住みたいのです」
「そうだな。お前が落ち着いたら考えよう」
「でも、朔夜様の所にお嫁に行けば、こんな場所どうでも良いですわ」
希代は、にこりと笑顔になる。
「お父様、もう少し先まで歩いてもよろしいですか?」
「あ、ああ。もう少しなら、構わないだろう」
そうして歩いて行くと、道が開けて原っぱに出た。そこには薬草を摘んでいる朔夜がいた。
「まぁ、朔夜様!ご機嫌麗しゅう」
「―っ!どうして」
「すまん、気晴らしに散歩に出たんだ」
白夜の困った顔を見れば、希代の容態が芳しくないことを語っていた。希代は立ち尽くす朔夜の腕に絡みつく。
「私、朔夜様のお屋敷に行きたい!」
目を見開いて、爛々と輝かせながら朔夜にせがむ。その顔はどこか異様な雰囲気を纏っていた。
早く牢の中に戻すには、気の済むまで付き合う方が賢いのは明白だった。
「少しだけだからな」
そうして三人連れ立って、朔夜の屋敷に向かったのだった。





