千里眼
更新再開します。
しかし、よくもまぁ、こんなに拗れるなぁと我は感心した。気になったので千里眼で雪をじっくりと見る。
何となく分かってきたのは、雪は今生きていることが奇跡だということだった。多分、大分前から死んでもおかしくない状況を、ギリギリで避けて生きているのだ。人生の道が生か死の選択しか許されないほどに細ければ、恋愛や夫婦の縁など薄くても仕方ない。朔夜も雪が幼子の間は縁が濃かったのに、成人した途端に縁が薄くなっているではないか。
はぁぁぁと溜息がでる。
(これでは、雪がちゃんと意志を持って働き掛けねば、朔夜と成就など出来ないだろうなぁ)
それほどに雪の人生の道は、未だに生と死の選択しか乗らないほど細いままだ。多分、雪が全てを諦めれば、すぐに極楽浄土から迎えが来てしまう。
(でもなぁ・・・)
かたや朔夜を見てみれば、白鬼特有の執着が強く出ている性格だ。子供の頃は白夜に執着し今は雪に執着している。一人にこれ程執着する輩は収まるところに収まってくれないと、とんでもない事にしかならない。
収まってさえ居てくれれば、多少違和感があっても、まぁ普通に見えるものだ。
(実に厄介だな)
うっかり我が雪を娶ってしまったら、朔夜は夜叉になって我を追っかけてくるだろう。夜叉一人くらい何とかはなるが、そんな面倒なことに巻き込まれたくはない。
(ここは雪に、何としても頑張って貰わねばならんな!)
雪を見れば暗い顔をしてはいたが、もう泣いてはいなかった。
「雪。ちゃんと朔夜に直接言うのだぞ。間違っても勝手に結論付けて、我のところに来るでないぞ」
ちゃんと念押し、雪がこくりと頷くのを確認する。
「さぁ、余り遅くなっては家の者が心配する。気を付けて帰れ」
「はい。今日はありがとうございました。私、龍神様に会えて本当に幸せです」
「そうか」
雪が見えなくなるまで、我はその場に留まった。
□□□
「どうしよう」
屋敷に帰った雪は、鏡を見て呆然とした。目が腫れ上がり酷い顔になっていた。これは誤魔化せない。
(龍神様と約束したけど、この顔は駄目だ)
きっと雪の気持ちを話す処では無くなってしまう。
(よし、明日にしよう!)
そう決めると、雪はさっさと寝間着に着替えて濡らした手ぬぐいを目に当てて床についた。
暫く寝られずにぼんやりとしていると、廊下のきしむ音がした。
「雪。具合が悪いのかい?」
「あ、少しだけ頭痛がするので、早めに休みます」
「少し入っていいかな」
そう言って、朔夜は雪の部屋の襖を開ける。近寄り額の手ぬぐいを洗い桶で濡らし、取り替えてくれた。
(泣いたことが、バレませんように)
雪はハラハラしながら、泣き痕が見つからないように祈った。
「雪、明日なんだが、本家に僕と白夜と雪で呼ばれているんだ。具合が良ければ一緒に出掛けたい」
「はい。明日には良くなってると思います」
「そうか。では、また明日。おやすみ。雪」
そう言うと、朔夜は部屋から出て行った。
(本家なんて初めてだ。一体どんな用事だろう?)
雪は初めて行く本家に思いを馳せながら、すやすやと寝息を立てた。





