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鬼の娘は初恋を追いかける  作者: 咲倉 未来


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19/27

拠り所

今日の更新はここまでです。意外と時間が掛かって驚いてます。

 大きな岩の下で隠れるようにベソベソと泣いている(せつ)を見つけ、龍神は天を仰いだ。


(いつぞやと同じではないかーー!)


「雪。今度は何があった?」

 話しかけると、更に激しく泣き出した。 


(こやつ、どんどん遠慮が無くなってくな)


 龍神はくるりと人型に変わると、雪を抱き寄せ背中を(さす)って泣き止むのを待った。


 □□□


 雪が落ち着いたので話を聞けば、里の外れにある屋敷で妹に会ったのだという。(おり)に入って治療をしており、病が治れば朔夜(さくや)と結婚すると言われたと泣く。


「雪は、それを信じたのか?」

 雪は、こくりと頷いた。


 あー、と龍神は天を仰いでいる。


「で、雪は何がそんなに悲しいんだ?」


「旦那様が希代(きよ)と結婚してしまうのが、辛いです」


「雪は朔夜が好きだものな。朔夜と結婚するのは自分が良いと思ったのだな」


 龍神の物言いは、間違いではないが素直に肯定し辛かった。

「わ、私から結婚したいなどと言って、旦那様を困らせてしまうのは、ちょっと」


「なんだ」


「そんな図々しいこと、い、言えなくて」


 はん、と龍神が悪態(あくたい)をつく。

「その程度なら忘れてしまえ。好いた男の幸せを、祝ってやれば良いではないか」


「-っ!そんなの絶対嫌です!!」


「なら、こんな所でメソメソしてないで奪いに行くしかあるまい。幸い相手は檻に入れられて動けぬのだぞ。好機(こうき)ではないか!」


 それもそうかと妙に納得してしまう。涙もすっかり引っ込んでしまった。


 でも、と雪は言い募る。

「希代は私より優秀で美しいと評判でした。やっぱり旦那様のお心を掴んだのだと思います。頑張って、あっあきらめ・・・」


 言いながら嗚咽(おえつ)()れる。


 諦めたら、自分はどうするのだろうか。


「お屋敷から、出て行か、ないとっ」


「お父様だって、希代を、っ気に入ってるから、私のことなんて、め、迷惑かもっ」


「わたし、行くところが、っない・・・」


 泣いても泣いても涙が止まらない。いっそこのまま溶けて消えてしまいたかった。


「どうしよう、龍神様。私、どうすれば」


 どうしよう、どうしようと、龍神の足元に(うずくま)り助けを求める。


 頭の上で、小さな溜息(ためいき)が聞こえた。


「もし、どーしても行くところが無くなったら、我を頼れ。匿ってやるし、嫁になりたければ貰ってやる」


 龍神の言葉に雪は驚く。


「そんな、お嫁にするだなんて・・・」


「別に嫁ぎたくなければ、嫁には来なくていい」


 うっかり照れたら、ぴしゃりと言い捨てられた。


 嫁になっても、ならなくても良いと言われて、雪は混乱した。

「龍神様は、それで良いのですか?」


「鬼の短い人生分の間、雪を嫁に貰ったとて我はどうもなりはせぬ。どちらでも構わぬし、どうでも良いことなのだ」


 雪は、結婚とは何か人生全てが変わってしまうような壮大なもののように思っていた。だからどうでも良いという龍神の言葉は、よく分からなかった。


 混乱する雪の顔をみて、龍神はやれやれとと肩を(すく)める。


「あのな、雪。世の中の大半はどうでも良いことばかりだ。どう転んでも受け入れられるし、選べといわれても、どちらでも良い。そんなものは、成り行きに任せていれば収まるところに収まるものだ」


 雪の頭に、龍神がぽんと手を置く。


「だがな、譲れないものは誰にでもある。好きな事でも、嫌いな事でも、だ。それが、その者の在り方を示す。」


 頭を撫でながら、龍神は雪に言い聞かせる。


「譲れないものは、譲ってはいけないのだ。みっともなくても、足掻いて、しがみついて何とかするしかない。もし譲ってしまえば、辛いとか苦しい程度で終わらない。我慢して済む話には収まらない」


 見上げれば、龍神は優しく微笑んでくれる。


(われ)が雪の事で譲れなかったのは、雪の幼角(おさなづの)(ほっ)したことと契約位だ。(われ)はそれ以外、収まりさえすれば何でも良い」


 だから(われ)のことは気にせず、自分のことを大切にせよ、と雪を気遣ってくれる。


「はい」


 龍神のくれた提案は、けれど雪の心を埋めてはくれなかった。ぽっかりと空いた穴は、足りない、そうじゃ無いと叫んでいる。


「それで、朔夜のことはどうするのだ?」


 聞かれて、心が叫び出す。


「あきらめたく、ない、です」


 絞り出すように、声を出せば、一緒に涙がこぼれ落ちる。雪にとって朔夜は譲れないものなのだ。例え、雪が希代に劣った存在だとしても割り切れるものでは無い。


「でも、もし本当に、希代のことを好きだったら」

 自分の事など、朔夜は何とも思っていないのだとしたら。


「それは、雪が決められぬ事だ。雪に譲れぬものがあるように、朔夜にだって譲れぬものがある。皆それぞれ譲れぬものがある。怖いかもしれぬが、ちゃんと伝えて相手と擦り合わせなければ、自分ばかり譲るはめになる。それは嫌であろう?」


 雪は目を閉じ、ぎゅっと拳を握りしめる。

 やはり雪は朔夜を譲れない。なら精一杯足掻こう。もしかしたら自分はボロボロになって、動けなくなるかもしれない。


「龍神様。私が振られたら、迎えに来て下さい」


「ああ。承知した」


 骨は拾って貰える。それなら、全身全霊でいってこよう。

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