姉妹
雪は陽射しが眩しくて、額に手をかざして影を作り目を細めた。原っぱを歩けば、蒸し暑さで肌に浴衣が張り付いた。
「こんなに暑いなら、川に行けば良かった」
近くの木陰に入れば、気持ちの良い風が吹いて汗を飛ばしてくれる。目を閉じて、そよそよと草や花や木の存在を感じてみれば、いつもと違う感覚が流れ込んでくる。
(何だろう?)
集中して注意深く見ていけば、それは鬼の気配だった。屋敷にいる鈴の気配を感じて、雪は喜んだ。
「凄い。こんなことが出来るなんて!」
嬉しくて、感じる範囲をどんどん広げていけば出掛けていった朔夜と一緒にいるであろう白夜の気配も捕まえることが出来た。
「あっちに屋敷があるのね。あら、もう一つ気配が」
雪は三つ目の気配に心当たりが無く戸惑う。どんどん集中して近づけば、懐かしい感じがした。
「希代?」
雪はその気配に、自分の腹違いの妹を思い出した。
□□□
この三人なら自分が顔を出しても邪険にされないと思った雪は、そのまま気配がある場所へ歩いて行った。
屋敷に着いた雪は玄関から入っていく。白夜か朔夜が居ると思ったのだが、誰も見当たらない。
(行き違いになったのかな?)
それなら出直そうと踵を返すと、奥から懐かしい声がした。
「お父様、朔夜様、お帰りになったのですか?」
雪は、久々に聞いた希代の声を頼りに奥に入っていった。
「希代なの?」
「だぁれ?お客様?」
「雪よ。久しぶりね」
そう話しながら奥の部屋に入れば、その光景に愕然とした。自分の妹が鉄格子の中に入れられていたのだ。
「き、希代!どうしてこんな目に」
慌てて駆け寄れば、鉄格子の向こう側に希代の顔が見えた。
「お姉様?・・・お顔が随分変わりましたね」
慌てる雪とは対照的に、希代は雪の顔を睨みつけていた。
「待ってて。今出してあげるから」
そう言って、鍵を探しに行こうとする雪に希代が叫ぶ。
「止めて下さいませ!」
「希代、どうして?だって、貴女、捕らわれているのよ?」
「違います。私はここで病気を治しているのです」
冷静な希代に、雪は何故と問いかける。
「私、病気なのです。でもお父様と朔夜様が薬湯を作って下さってますの。それを飲んで早く治さなければならないのです。だから邪魔しないで下さいな」
そろそろと、希代が鉄格子に近づき指を絡める。
「私、病気を治して朔夜様と結婚するんです」
格子から覗く顔がニンマリと笑う。
「お姉様が嫁ぐ予定は無くなりましたの。朔夜様は私と結婚すると仰って下さった。お父様も、嫁入り道具とお着物を仕立ててくれると約束して下さいました」
雪の膝がガクガク震え出す。それを見て、希代は楽しそうに笑った。
「紅里が焼けてしまったのは残念ですが、お父様はちゃんと私を連れて逃げて下さった。私が来てしまったら、朔夜様だってお姉様より私の方が良いと思うのは当然ではないですか」
はらはらと泣き出す雪を見て、希代は心から満足した。
「だから、さようなら?お姉様。余計なことはせず、早く立ち去って下さいませ」
希代は格子から手を伸ばし、さようならと手を振った。
雪はふらふらと部屋を出て、元来た道を歩いて行った。





