再会
復活しました。もう数話で半分ぐらいアップ終わります。
八咫烏が朔夜の元に戻ったが、その足には何も持っていなかった。
悄然とする朔夜だったが、八咫烏がしきりに袖を引っ張って、どこかへ連れて行こうとする。
八咫烏を先導に里の外れまで降りていく。これ以上進めば境界線を越えてしまう。そう思ったとき八咫烏は木の根元に降り立った。
見れば薄汚れた何かが蹲っている。
「白夜なのか?」
声を掛けると、顔らしきものが此方を向いた。
「朔夜か?」
思わず駆けよって抱き起こすが、その風貌は朔夜の知っている白夜と別人だった。髪は千切れて所々地肌が見え、泥にまみれた体は幾つもの傷を負っていた。足の傷は大きくえぐれ、日が経っているのだろうか血がこびりついていた。
「こんな酷い怪我で、逃げてきたのか」
抱き起こした白夜は、何も言わない。
「兎に角、手当をしないと。立てるか?」
肩に手を掛けて連れて行こうとすると、白夜は朔夜を引っ張り、留めようとする。
「どうしたんだ、白夜?」
その口に耳を近づけると、すまない、すまないと呟いている。
「気にするな、僕が必ず助ける。だから肩に掴まってくれ」
「そうじゃないんだ。朔夜」
白夜は辛そうに顔を歪めて、そうじゃないと声を絞り出す。
刹那、白夜の後ろにあった大きな籠がガタガタと動いた。
□□□
雪は鈴から、白夜が帰ってきたことを知らされた。
すぐに会いに行こうとしたが、まだ会えないと止められた。手当が済み意識が戻ったら教えるから、長屋には絶対に近づかないようにと念を押されてしまったのだ。
居ても立ってもいられず、玄関で座り込み朔夜と鈴が戻ってくるのを待っていた。
「雪、起きなさい。こんな所で寝ていては風邪を引いてしまう」
顔を上げれば、朔夜の困った顔が目に入った。
「旦那様、父は、その、大丈夫ですか」
「命に別状はないよ。座敷に行こう。雪にも頼みたいことがあるからね」
朔夜の後に付いて、雪は座敷へと移動する。
向かい合うように座った朔夜の顔は憔悴していた。
「白夜の手当は終わったよ。明日からは回復を早くするために里を回らせたい。雪は白夜に付いて山や原っぱや川を案内してあげてほしい。僕が雪にしたように」
「はい。わかりました」
「あと、僕は後処理のために毎日留守にする事になる。困ったら八咫烏で伝えてくれれば戻る。それから、龍神様の御守りを渡しておくから肌身離さず持っておくように」
龍神に貰った勾玉と飾り玉を麻の紐に通した首飾りを渡される。受け取って直ぐに首に掛けた。
「あの、他に出来ることはありますか?」
朔夜の憔悴した顔を見れば、大変なことが起こっているのだと予測がついた。雪は出来ることがあるなら全てやりたかった。
「ありがとう、雪。今は白夜のことだけで十分だから」
そう言って、朔夜はいつも通り優しく微笑んだ。
□□□
翌日、雪は長屋に居る白夜の元へと向かった。
部屋に入ると、寝床の白夜の顔を確認して血の気が引いた。まるで別人のようにボロボロの父を見て、自然と涙が頬を伝った。
白夜は雪を見て、誰だか解らないという顔をしていた。もしかして記憶も曖昧なのだろうか。
「あの、お父様。あなたの娘の雪です」
雪の自己紹介を聞いて、白夜は体を起こそうとした。
「雪なのか?」
けれど怪我が痛むのか、そのまま寝床に倒れてしまう。
「はい。雪です。無理をなさらないで下さい」
雪は白夜の横に膝を着いて、背中に手を回し半身を起こすのを手伝った。
「綺麗になったな」
「はい。朔夜様に良くしてもらっています。今日からお父様のお世話をするように仰せつかっています」
「そうか」
雪は白夜を支えながら体を確認する。手当は済んでいるが傷だらけだった。これで外に出て大丈夫だろうか。
「もし辛いようなら、出掛けるのは明日にしましょうか?」
「いや。早く回復したいから出掛けたい。手伝ってくれ」
そう言うと、白夜は痛みを堪えて立ち上がる。雪は白夜に寄り添いながら外へと向かった。





