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鬼の娘は初恋を追いかける  作者: 咲倉 未来


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11/27

再会

復活しました。もう数話で半分ぐらいアップ終わります。


 八咫烏(やたがらす)朔夜(さくや)の元に戻ったが、その足には何も持っていなかった。

 悄然(しょうぜん)とする朔夜だったが、八咫烏がしきりに袖を引っ張って、どこかへ連れて行こうとする。


 八咫烏を先導に里の外れまで降りていく。これ以上進めば境界線を越えてしまう。そう思ったとき八咫烏は木の根元に降り立った。


 見れば薄汚れた何かが(うずくま)っている。


白夜(びゃくや)なのか?」


 声を掛けると、顔らしきものが此方を向いた。


「朔夜か?」


 思わず駆けよって抱き起こすが、その風貌(ふうぼう)は朔夜の知っている白夜と別人だった。髪は千切れて所々地肌が見え、泥にまみれた体は幾つもの傷を負っていた。足の傷は大きくえぐれ、日が経っているのだろうか血がこびりついていた。


「こんな酷い怪我で、逃げてきたのか」


 抱き起こした白夜は、何も言わない。


「兎に角、手当をしないと。立てるか?」

 肩に手を掛けて連れて行こうとすると、白夜は朔夜を引っ張り、留めようとする。


「どうしたんだ、白夜?」 


 その口に耳を近づけると、すまない、すまないと呟いている。


「気にするな、僕が必ず助ける。だから肩に掴まってくれ」


「そうじゃないんだ。朔夜」

 白夜は辛そうに顔を歪めて、そうじゃないと声を絞り出す。


 刹那、白夜の後ろにあった大きな籠がガタガタと動いた。


 □□□


 (せつ)は鈴から、白夜が帰ってきたことを知らされた。

 すぐに会いに行こうとしたが、まだ会えないと止められた。手当が済み意識が戻ったら教えるから、長屋には絶対に近づかないようにと念を押されてしまったのだ。


 居ても立ってもいられず、玄関で座り込み朔夜と鈴が戻ってくるのを待っていた。


「雪、起きなさい。こんな所で寝ていては風邪を引いてしまう」


 顔を上げれば、朔夜の困った顔が目に入った。

「旦那様、父は、その、大丈夫ですか」


「命に別状はないよ。座敷に行こう。雪にも頼みたいことがあるからね」


 朔夜の後に付いて、雪は座敷へと移動する。

 向かい合うように座った朔夜の顔は憔悴(しょうすい)していた。


「白夜の手当は終わったよ。明日からは回復を早くするために里を回らせたい。雪は白夜に付いて山や原っぱや川を案内してあげてほしい。僕が雪にしたように」


「はい。わかりました」


「あと、僕は後処理のために毎日留守にする事になる。困ったら八咫烏で伝えてくれれば戻る。それから、龍神様の御守りを渡しておくから肌身離さず持っておくように」


 龍神に貰った勾玉と飾り玉を麻の紐に通した首飾りを渡される。受け取って直ぐに首に掛けた。


「あの、他に出来ることはありますか?」


 朔夜の憔悴した顔を見れば、大変なことが起こっているのだと予測がついた。雪は出来ることがあるなら全てやりたかった。


「ありがとう、雪。今は白夜のことだけで十分だから」


 そう言って、朔夜はいつも通り優しく微笑んだ。


 □□□


 翌日、雪は長屋に居る白夜の元へと向かった。

 部屋に入ると、寝床の白夜の顔を確認して血の気が引いた。まるで別人のようにボロボロの父を見て、自然と涙が頬を伝った。


 白夜は雪を見て、誰だか解らないという顔をしていた。もしかして記憶も曖昧なのだろうか。

「あの、お父様。あなたの娘の雪です」


 雪の自己紹介を聞いて、白夜は体を起こそうとした。

「雪なのか?」

 けれど怪我が痛むのか、そのまま寝床に倒れてしまう。


「はい。雪です。無理をなさらないで下さい」

 雪は白夜の横に膝を着いて、背中に手を回し半身を起こすのを手伝った。


「綺麗になったな」


「はい。朔夜様(旦那様)に良くしてもらっています。今日からお父様のお世話をするように仰せつかっています」


「そうか」


 雪は白夜を支えながら体を確認する。手当は済んでいるが傷だらけだった。これで外に出て大丈夫だろうか。


「もし辛いようなら、出掛けるのは明日にしましょうか?」

「いや。早く回復したいから出掛けたい。手伝ってくれ」 


 そう言うと、白夜は痛みを堪えて立ち上がる。雪は白夜に寄り添いながら外へと向かった。

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