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第9話:ミステリートレイン

「ミステリートレイン?」

「そう、ミステリートレイン。行き先がわからない列車らしいぜ。どこへ行くか、お楽しみってな。」

ここは、西京県八王山市今治小学校。五年一組の教室の端っこで、シンベエ、ぶーちゃん、ホーリーの三人が、話し合っていた。

「今度三人でのりにいかねえか?面白そうだろ。」

「うん、のるのる。ホーリーちゃんは?」

「さあね。ぼくの母さんと父さんが、子供だけで行ってもいいって言ったら、行くことはできるけど。」

「またお前は、理屈ばっかつけて変なこと言うんだから。子供は大人の奴隷じゃないんだ。大人に束縛されて生活してても、楽しくないだろ。やっぱり自由が一番だ。」

「へえ、きみにしてはめずらしく難しい言葉を使うね。ぼくは行ってもいいと思っているんだけれど、母さんと父さんが許してくれないと、外出することさえ許されないんだ。」

「けっ、つまんねーな。じゃあ、許可をもらったらついてきてくれよ。」

「あ、でもシンベエちゃん。チケットいるんでしょ?ぼく、チケットもってないよ。」

「大丈夫。おれがもらっておいた。」

「あ!三枚も!でもシンベエちゃん、三枚も買っちゃあ、お金がたくさんかかるでしょ。」

「いいや、たださ。定期券を持っている人は、手紙を出すだけで、抽選でチケットがもらえるのさ。おれんちの家族は全員定期券を持っているから、全員分出したら、全部あたっちゃったんだぜ。」

「へえ、シンベエちゃんすごい!ホーリーちゃん、せっかくシンベエちゃんがチケットを手に入れてくれたんだから、行ったほうがいいよ。」

「うーん・・・とにかく、許してもらってからね。」

どうやら、シンベエがぶーちゃんとホーリーを、ミステリートレインにのらないかと誘っているようだ。


次の日。

「シンベエくん、ミステリートレインの件についてだけどね・・・」

「ああ、やっぱり駄目だったか。そりゃあ仕方ないな。じゃあ二人で楽しんでくるぜ。」

「あ、いや・・・行けることになったんだけど・・・。」

「おいおい、そりゃまじか?!よっしゃあー!念のためチケットをもってきてたから、一応渡しておくぜ。」

シンベエは、ホーリーに細長い「ミステリートレインチケット」と書かれた紙切れを渡した。

「出発時間は、明後日の日曜日の午前十時十分。新端駅から出発するらしいから、それまでに集合な。」

「うん、わかった。」


五月二十九日、午前九時。ホーリーとぶーちゃんは、早くも新端駅に到着していた。

「シンベエくんは、まだみたいだね。」

「そりゃあ、出発時間まであと一時間以上あるもの。」

「あ、そうだ、今考えてたんだけど、これ、帰りはどうするんだろう。」

「帰りの電車も、あるんじゃないの。」

ホーリーは、チケットを見た。すると、なぜかまゆをしかめた。

「・・・。帰りの電車は、六月一日だって。ってことは、月曜日と火曜日と水曜日は学校を休んじゃうことになってしまうよ!あちゃー・・・・。」

「うん、それに、帰る電車がくるまでの間、どこに泊まるの。」

「ホテルは既に用意されているみたいだから、大丈夫だけど・・・。ああ、帰ったら母さんと父さん、それに先生にしかられてしまう。ああ、どうしよう。どうしよう。」

「ホーリーちゃん、もう来てしまったものは、仕方がないよ。そんなことは忘れて、ここは思いっきり楽しもうよ。」

ぶーちゃんが、めずらしくいいことを言う。

「うん、そうだね・・・。」

そういっているうちに、目の前にオレンジ色の電車がやってきた。

ドアが開くと、中からシンベエが出てきた。

「よう、お前ら。もうついてたのか。」

「やあ、シンベエくん。今は九時五十分だよ。」

「九時五十分ってことは、あと二十分か。早めに来ておいてよかった。」

「楽しみだねえ。」


約十分ほどすると、肌色に赤色のラインが入った、ふしぎなカラーリングの電車が入線してきた。

「うわあー、二階建てだあ。すごいねえ。」

「どこまで行くか、楽しみだねえ。札幌かなあ。高知かなあ。福岡かなあ。大阪かなあ。」

「中に入ろうぜ。」

電車の中に入ると、いくつかのドアがついていた。

「ありゃ・・・?またドアがあるぜ。」

「この電車、寝台列車のようだね。このチケットに書いてある番号の部屋に入ればいいんだよ。」

「おれはC3か・・・ぶーちゃんとホーリーは?」

「ぼくはC2だよ。」

「ぼくは、C1だね。」

「隣同士だな。」

「ぼく、みんな同じ部屋がよかった。」

「ぼくは、プライベートは誰にも見られたくないから、同じ部屋じゃなくてよかった。」

「あっ。ホーリー、こんなところにも問題集をもってきてやがる。」

「せっかくの楽しい旅なんだから、勉強なんかしなくてもいいのにねえ。」

「コホン。では、ぼくは部屋に入るから、またあとでね。」

ホーリーは、部屋に入るとバタンと扉を閉めた。

「じゃ、おれも部屋に入るぜ。」

シンベエも、部屋に入った。

ぶーちゃんは部屋に入らず、この電車の中を見てみることにした。


ぶーちゃんが乗った車両は、部屋が六つあるだけだった。その隣の車両も、その隣の車両も、そうだ。

だが、その隣の車両は違った。かなり開放的な空間で、ろうそくがともされた小さな花びんがある皿がのった、テーブルがたくさんある。テーブル一つにつき、いすが四つあった。

ぶーちゃんは、そばにいた女のひとに聞いてみた。

「あの、すいません・・・。これは、何の車両ですか?」

「食堂車です。十一時から十三時までと、十七時から二十二時までの間営業しております。

列車のチケットをお見せしていただければ、何のメニューでも頼むことができます。

ただいま、営業準備中です。営業まで少しお待ち下さい。」

女の人はそういうと、ぶーちゃんに深々とおじぎをした。

「あ、教えてくれて、ありがとうございます。」

ぶーちゃんは、さらに隣の車両へ行った。

そこから三両は、最初の車両と同じようなところだったけれど、その次の車両は、ふしぎな空間になっていた。

すごく大きい窓が左右に二つあって、それにあわせるように横向きの長いいすがおいてあるのだ。

いすの近くには、花壇もある。

ぶーちゃんは、この車両の入り口のすぐそばにあるいすに座った。

「どこに行くんだろう・・・。」

ぶーちゃんがそうつぶやいた時、電車が発車した。

三十分くらいすると、景色がだんだんのどかになってきた。

ぶーちゃんは、しばらくの間何も言わず、ぼーっと景色を見ていた。

「部屋にもどろうかな。」

ぶーちゃんはそう言うと、たくさんの車両を戻り、自分の部屋に入った。

部屋の中には、大きなベッドが一つ。お風呂場とトイレがあったし、大きな液晶テレビもある。さらに、机といすもあった。

「なんて豪華なんだ。乗ってよかった。シンベエちゃん、ありがとう。」

ぶーちゃんは、ベッドで横になった。


十二時十分、ぶーちゃんの部屋に、シンベエとホーリーがおとずれた。

「食事に行こうぜ。」

「ええ?食事!行こう行こう!」

ぶーちゃんは、満面の笑みで食堂車へ向かった。

食堂車のうちの一つのテーブルに座り、それぞれがメニューをのぞく。

他のお客さんは、十人ほど。意外に多くの人が乗っているようだ。

ホーリーは幕の内弁当、シンベエとぶーちゃんはフルコースAを頼むことにした。


三十分ほどすると、三人にそれぞれのメニューが運ばれた。

とはいっても、シンベエとぶーちゃんはフルコースを頼んだので、まだスープしかきていない。

「おいしそうなスープだねえ。」

ぶーちゃんが、舌なめずりをする。

ホーリーは、たくさんのおかずが入っている幕の内弁当を食べている。

シンベエとぶーちゃんは、スープを、スプーンも使わず、一瞬にして飲み干した。この二人は、テーブルマナーというものを知らないらしい。


続いて、二つのサラダが運ばれてきた。ぶーちゃんはおいしそうに食べるが、シンベエは見向きもしない。

「おれ、野菜嫌いなんだよな・・・。」

「せっかく運ばれてきたんだから、食べようよ。シンベエちゃん。」

「お、おう・・・。」

シンベエは、おそるおそるサラダをフォークで運び、口に入れる。

「あっ、意外とおいしい。」

「野菜はおいしいし、体のためになるんだよ。食わず嫌いせず、食べてよかったね。」

ホーリーが言う。


二人がサラダを食べ終わると、今度はパンが運ばれてきた。

はちみつ味のパン、フランスパン、スティックパンがある。スティックパンは、まるで棒のように細い。スティックパンの横に小さな容器があるから何だと思って見てみると、生ハムがいくつか入っていた。

ぶーちゃんは、生ハムをスティックパンにくるくるとまきつけ、口にした。

「うわー。シンベエちゃん、これ生ハムと一緒に食べると、すごくおいしいよ。」

ぶーちゃんが、はちみつパンをほおばっているシンベエに言った。

シンベエは、ぶーちゃんがやったように、生ハムをスティックパンにくるくるとまいた。

「あ、うめえ。」

「ね?おいしいでしょ?」

シンベエとぶーちゃんがパンを全て食べ終えたころ、ホーリーは幕の内弁当をたいらげた。

「やっぱり日本人は、和食だね。とてもおいしかったよ。」

「ううん、ぼく、夕食は、和食にしようかな。」

ぶーちゃんが、指をくちびるに押さえつけながら言った。

そこで、いよいよフルコースのメインディッシュが運ばれてきた。

皿にのっているライス。大皿にのっているステーキ。そして、ステーキの上にのっている大きなフォアグラ。

「うわあああ!これ、フォアグラだよ、シンベエちゃん!」

「おお、すげえ。おれ、フォアグラなんか食べるの、始めてだ。」


シンベエとぶーちゃんがステーキを食べ終えると、よく熟したメロンに、コーヒー、ケーキが運ばれてきた。

シンベエとぶーちゃんがそれをたいらげると、三人は満足した表情で部屋に戻った。


その日の夜。こんどは、ぶーちゃんがホーリーとシンベエを誘った。

「食堂車に行こうよ。」

食堂車につくと、シンベエは幕の内弁当、ホーリーはフルコースA、ぶーちゃんはフルコースDを頼んだ。

フルコースAはさきほどのものとメニューが同じだったが、ぶーちゃんが頼んだフルコースDは一味違った。

最初に、スープとガーリックチキンが運ばれて来、それを食べるとスープが三杯、それを食べ終わるとパスタとピッツァ、更にその後はローストチキンとステーキとライス、サラダに生ハムが運ばれてきた。デザートは、完熟メロンにすいか、パイナップル、プリン・ア・ラ・モード、チョコバナナクリームのクレープだった。

ぶーちゃんが、なんとか全てを食べ終えると、少し苦しそうな表情で言った。

「ううん、おいしかったけれど、お腹いっぱいだよー。」


夜中、ホーリーは、トイレのために起きた。

外の景色を見てみると、真っ暗。だが、普通の景色ではない。どうやら、トンネルのようだ。

向かいの電車が、ものすごいスピードで通り過ぎていく。

ホーリーはトイレをすませたあとも、景色を見ていたが、いつまでたってもトンネルを出ない。かなり長いトンネルのようだ。

四十分ほどすると、ようやくトンネルを抜けた。外は、雪景色だ。

「この季節なのに、降雪してるなんて、めずらしいな。」

ホーリーは独り言のように言うと、ふたたび眠りについた。


朝、起きると、車内放送があわただしく流れていた。

「あと十五分で、終着駅に到着します。降車の準備をしてください。」


十五分ほどたつと、終着駅に到着したのに気づいたのか、ぶーちゃんとシンベエとホーリーは、荷物をかかえて眠たそうに部屋から出てきた。

「ふあーあ、よく寝た。」

「あっ、昨日、お風呂に入るの忘れちゃった。宿泊先のホテルについたら、お風呂に入ろっと。」

外へ出ると、三人は外の駅名標にびっくりたまげた。

「えええええ?!札幌ー?!」

そう、ミステリートレインは、札幌に到着していたのである。

三人は、とたんに笑顔になった。

「ぼくたち、札幌に来れたんだね。札幌に行くのは、長年の夢だったから、うれしいな。あ、だけど、ここへ来るのに一日かかったってことは、帰りも一日かかるのだから、木曜日まで学校を休んじゃうことになってしまうな。まあ、息抜きにはいいか。」

「そうだぜそうだぜ。いまいましい学校のことなんか忘れて、札幌で遊びまくろうぜ!」


札幌駅から歩いて十五分、宿泊先のホテルについた。

「うわー、豪華だなあ。」

そのホテルは、ずいぶん豪華だった。電車賃から宿泊代まで全部ただであることを考えると、すごいものだ。三人は十五階にある、同じ部屋の1506号室だった。

ホーリーは、お風呂に入り、シンベエとぶーちゃんはベッドに横たわった。


一時間ほど休憩すると、三人はどこへ観光するか決めることにした。ミステリートレインのチケットは、期間中ならどれだけ電車に乗ってもただというから、素晴らしい。

「旭川に行かない?」

「旭川に行ったって、何もないと思うよ。」

「稚内はどうかな?」

「寒いからおれは嫌だな。」

なかなか行き先を決められないようだ。

富良野(ふらの)なんかはよくないかな?」

「富良野?おお、ここのどかで気持ちよさそうじゃんか。」

「ぼくも、富良野がいいな。ラベンダーのかおり、好きだし。」

「よし、じゃあ、富良野に決定だね。」


三人は札幌駅に戻り、特急列車に乗って富良野駅まで行った。

富良野についたところで、ぶーちゃんが思い出したように言った。

「そうだ、富良野といえば、オムライスってテレビ番組で見たことがあるよ。オムライス食べない?」

「そうだね。ちょうどお昼時だし、食べてみようか。」

三人は、その辺にあったオムライス屋に入った。オムライス専門店というのも、めずらしい。

三人とも、デミグラスソースのオムライスを頼んだ。

オムライスを食べ、富良野を堪能した三人は、特急列車で札幌に戻った。


次の日、朝ごはんはホテルのバイキングだった。

「今日はどこを観光する?観光できるのは、今日で最後だよ。明日は、帰りの電車の時間が早いからね。」

「じゃあ今日は札幌を観光しようか。」

三人は、ふしぎなタイヤの地下鉄に乗り、真駒内(まこまない)駅へと向かった。

三人は、真駒内駅の近くの温泉に入った。

温泉をたっぷりと堪能した三人は、札幌ラーメンを食べたり、新千歳空港で飛行機を見たりして、じっくりと札幌を楽しんだ。


そして、次の日、六月一日。午前十時十分、出発したときと同じ時刻に、帰りのミステリートレインがやってきた。

三人は、疲れていたのか、電車にのるとそのまま寝てしまった。


さらに次の日、六月二日の午前十時に、三人は新端駅へついた。

そして、八王山駅に戻り、それぞれの家に帰った。

三人の親は、学校を休んでミステリートレインに乗り、旅行に行ったことを、まったくしからなかった。

そして、三人は、旅行の思い出を親に語った。


次の日、三人は、ごく普通に学校へ登校した。親が用事と言ってくれたおかげで、先生にもしかられずすんだ。

だが、シンベエが学校を休んで旅行に行ったことをみんなに話してまわり、誰かが先生にそのことを告げ口したせいで、三人は先生にこっぴどくしかられた。



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